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メイドのリリアーナ
3 アルフレードは理想のダーリン
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ビアータが以前から言っていた『理想のダーリン』を連れて帰ってきたときには、ビアータの知らないところで大騒ぎであった。ビアータから『理想のダーリン』と聞かされていたみんなは、『ビアータが王都で一目惚れしたステキな王子様』を想像していたし、ビアータのいないところで、どんなにステキな人だろうと話していた。
それなのに、ビアータが連れてきたのは『優しい熊さん』だったのだから、みんながザワザワとするわけだ。唯一、知っていたルーデジオは、みんなの態度に笑いが、止まらなかったのは内緒だ。しかし、誰もビアータに、否定的なことを口走る者は、子供たちでさえ、いなかった。
そんな騒ぎを知らないアルフレードは、すぐに見た目のままの『優しい熊さん』を発揮し、みるみるうちに、みんなを虜にしていった。1週間もしないうちに誰もが、アルフレードが『理想のダーリン』であることを認めていた。
それは、リリアーナも同じであった。
「ビアータ様はやっぱり『ビアータの家』をお作りになった人柄のまま、男性も選ばれたのね」
リリアーナはいつものようにグレタとセルジョロとお茶をしながら話した。
「リリアーナ、まだビアータに『様』をつけてるのかい?私たちはみんな『ビアータ』って呼んでいるよ」
「まあ、いいじゃないか。ビアータがこっちに住むようになれば変わっていくさ。それより、アルだろ?ハッハッハ!本当に『ビアータの家』にぴったりの男のようだな」
「ビアータ様を追いかけて、ご自分も学園を休まれているんですって!すごいわねぇ」
「この前、私が薪を運んでいたら、アルが走ってきて、ヒョイって持ってくれたんだ。それからは、私が薪を持っていると、子供たちが走ってきて、運ぶのを手伝ってくれるようになってねぇ。背中で教えていく男なんて、カッコいいねぇ」
グレタもとっくにアルのファンになっていた。
「子供たちへの教えもすごいのよ。ケンカしていた二人を外に連れ出して、押し比べをさせたの。殴るのはよくないって。そして、その後、勝った方に先に言いたいことを言わせて、次に負けた方にも言いたいことを言わせたのよ。
どちらの鬱憤も発散させてから、どちらの話も公平に聞けて、どちらにも考えさせて、すごいと思ったわ」
リリアーナは興奮してしゃべった。
「やりたいことがたくさんあってどの順番でやるべきか、追加に何をするべきか、常にジーノとラニエルに相談して教えを乞うのだそうだ。貴族のアルが、平民のジーノとラニエルにだぜ」
セルジョロもアルフレードに感心している。
「ハッハッハ!あんただって平民じゃないかっ」
グレタはセルジョロの喜びが伝わってきて、目を細めて笑った。
「おぅよっ!だから、美味しいキノコを教えてやったよ。教えられることに抵抗感のないやつは伸びるぞ。それを子供たちの前でやってるからな。子供たちも見習うことだろうよ」
このような話は、大人同士が顔を合わせれば、誰もがいくつもの『アル話』を持っていて話をするので、どんどんアルフレードの評価が上がっていくのだった。
〰️ 〰️ 〰️
アルフレードがみんなに『理想のダーリン』だと認められ、誰もが『いつか領主様に』と思い始めていた頃、サンドラが『アルフレードの友人』二人を連れて帰ってきた。一人は中肉中背の王子様で、一人は衛兵というより騎士様然としてた。女の子たちは、否が応でも盛り上がった。
そんな盛り上がり過ぎた女の子たちによって、2日目で、誰狙いかバレてしまったコルネリオとファブリノであったが、こちらもまた、根が真面目で、やる気を持って来た二人なので、すぐに受け入れられた。
〰️
「リリアーナさんのこと、オバサンだなんて、思ってない!リリアーナさんは、ステキな女性だと最初から思ってた。それと、俺のことは、『リノ』って呼んでほしい」
出会って2日目のファブリノからの告白は、リリアーナにとって、予想もしていなかったことだったので、少しだけドキマギしたが、4つも下の男の子に好意を寄せる自分が想像できなかった。
ジャンのすすめで、外でファブリノと話をしても、一生懸命アピールしてくれているのはわかったが、ちょっと背の高い男の子が友達の『お姉さん』に憧れているだけだろうという感想しか持てなかった。
「昨日会ったばかりで、何もわからないですから、お返事のしようがありません」
「と、いうことは、ダメってことではないってことですねっ!」
リリアーナは、2ヶ月は一緒に暮らすわけだし、初めから剣呑な状況になるのも困る。それに大好きなビアータの友人なのだ。だから、一応頷いた。
食堂室へ戻ったファブリノが、みんなに宣言した。
「俺も、リリアーナさんを攻略中!よろしくなっ!」
まさか、ここで暴露するとは思ってなかったリリアーナは、真っ赤になり、女の子たちだけじゃなく、男の子たちも大騒ぎになってしまった。リリアーナは、ため息をつきたくなったが
「だから、勉強続けるぞぉ!」
「「「「はーい!」」」」
子供たちの切り替えを見て、子供たちがファブリノとリリアーナのことが気になって集中できていなかったことに気がついた。リリアーナは、思わずにっこりとしてしまった。
その日の夜には、アルフレードに2ヶ月はファブリノを見てほしいと言われたが、リリアーナにとってはファブリノの気持ちが冷めるのを待つだけの期間だと思った。
〰️
それからは、意識していないつもりだが、なんとなく、ファブリノを評価していくリリアーナだった。まず、思いの外、ファブリノは好青年だった。アルフレードやコルネリオより、口調は粗野だが、子供たちに誰より溶け込んでいた。小さい子供たちには、完全に頼れて楽しい兄貴だったし、大きな子供たちにとっては、同世代の友人だった。
ここ2年ほど先生をしているリリアーナは教育方法のタイプでみる傾向があった。アルフレードが背中で教えるタイプ、コルネリオが方向を指し示すタイプ、そしてファブリノは一緒に歩いていくタイプであった。リリアーナ本人は、コルネリオのタイプに近い。
牧草地で作業中、子供が転んだ。ファブリノは、しゃがんでその子と同じ視線になるが、決して手を差し伸べなかった。だが、急かしもしない。ただ、同じ視線で待っているのだ。その子は一人で立ち上がり、しゃがんだままのファブリノに頭を撫でられると、作業の輪の中に戻って行った。ファブリノは、それを、後ろからゆっくりと立ち上がり、笑顔で見送っていた。
その日の夜。
「昼間、どうして助け起こさなかったの?」
リリアーナはファブリノに率直に聞いた。
「え?何のこと?」
「酪農組の男の子のことよ」
「ああ、だって躓くたびに誰かが近くにいるとは限らないだろう」
ファブリノはリリアーナの質問の意図はわからないが、自分の考えを述べた。
「でも、あの時あなたは近くにいたじゃないの」
「近くにいたのはたまたまだけど、躓いたときに見守ってやることはどこででもできる。そういう相手がいるってことを知っていることが、躓いたときに立ち上がる気力に繋がると思うんだよね。見えない手があるっていうか、さぁ」
「そこにいなくても、見える手?」
「ああ。躓いたとき、あそこまで行けば手があるって知っていれば、そこまでは歩けるだろう」
「だから見ていてあげたの?」
「ハハハ、俺がリリアーナさんに見ていてもらってたなんて、知らなかったけどね」
リリアーナは、後で知ることになるのだが、ファブリノは、貴族である両親に見捨てられ、孤児院を持つ夫婦に育てられたようなものだった。その夫婦には、我が子のように愛情を注いでもらってはいたが、いかんせん、孤児院である。ファブリノだけに手をかけてくれるわけではない。だが、困った時には、そっと助けてぬれるし、意見もくれるし、いつも見守ってくれていた。そういった環境であったからこそのファブリノの考え方であるといえる。
それなのに、ビアータが連れてきたのは『優しい熊さん』だったのだから、みんながザワザワとするわけだ。唯一、知っていたルーデジオは、みんなの態度に笑いが、止まらなかったのは内緒だ。しかし、誰もビアータに、否定的なことを口走る者は、子供たちでさえ、いなかった。
そんな騒ぎを知らないアルフレードは、すぐに見た目のままの『優しい熊さん』を発揮し、みるみるうちに、みんなを虜にしていった。1週間もしないうちに誰もが、アルフレードが『理想のダーリン』であることを認めていた。
それは、リリアーナも同じであった。
「ビアータ様はやっぱり『ビアータの家』をお作りになった人柄のまま、男性も選ばれたのね」
リリアーナはいつものようにグレタとセルジョロとお茶をしながら話した。
「リリアーナ、まだビアータに『様』をつけてるのかい?私たちはみんな『ビアータ』って呼んでいるよ」
「まあ、いいじゃないか。ビアータがこっちに住むようになれば変わっていくさ。それより、アルだろ?ハッハッハ!本当に『ビアータの家』にぴったりの男のようだな」
「ビアータ様を追いかけて、ご自分も学園を休まれているんですって!すごいわねぇ」
「この前、私が薪を運んでいたら、アルが走ってきて、ヒョイって持ってくれたんだ。それからは、私が薪を持っていると、子供たちが走ってきて、運ぶのを手伝ってくれるようになってねぇ。背中で教えていく男なんて、カッコいいねぇ」
グレタもとっくにアルのファンになっていた。
「子供たちへの教えもすごいのよ。ケンカしていた二人を外に連れ出して、押し比べをさせたの。殴るのはよくないって。そして、その後、勝った方に先に言いたいことを言わせて、次に負けた方にも言いたいことを言わせたのよ。
どちらの鬱憤も発散させてから、どちらの話も公平に聞けて、どちらにも考えさせて、すごいと思ったわ」
リリアーナは興奮してしゃべった。
「やりたいことがたくさんあってどの順番でやるべきか、追加に何をするべきか、常にジーノとラニエルに相談して教えを乞うのだそうだ。貴族のアルが、平民のジーノとラニエルにだぜ」
セルジョロもアルフレードに感心している。
「ハッハッハ!あんただって平民じゃないかっ」
グレタはセルジョロの喜びが伝わってきて、目を細めて笑った。
「おぅよっ!だから、美味しいキノコを教えてやったよ。教えられることに抵抗感のないやつは伸びるぞ。それを子供たちの前でやってるからな。子供たちも見習うことだろうよ」
このような話は、大人同士が顔を合わせれば、誰もがいくつもの『アル話』を持っていて話をするので、どんどんアルフレードの評価が上がっていくのだった。
〰️ 〰️ 〰️
アルフレードがみんなに『理想のダーリン』だと認められ、誰もが『いつか領主様に』と思い始めていた頃、サンドラが『アルフレードの友人』二人を連れて帰ってきた。一人は中肉中背の王子様で、一人は衛兵というより騎士様然としてた。女の子たちは、否が応でも盛り上がった。
そんな盛り上がり過ぎた女の子たちによって、2日目で、誰狙いかバレてしまったコルネリオとファブリノであったが、こちらもまた、根が真面目で、やる気を持って来た二人なので、すぐに受け入れられた。
〰️
「リリアーナさんのこと、オバサンだなんて、思ってない!リリアーナさんは、ステキな女性だと最初から思ってた。それと、俺のことは、『リノ』って呼んでほしい」
出会って2日目のファブリノからの告白は、リリアーナにとって、予想もしていなかったことだったので、少しだけドキマギしたが、4つも下の男の子に好意を寄せる自分が想像できなかった。
ジャンのすすめで、外でファブリノと話をしても、一生懸命アピールしてくれているのはわかったが、ちょっと背の高い男の子が友達の『お姉さん』に憧れているだけだろうという感想しか持てなかった。
「昨日会ったばかりで、何もわからないですから、お返事のしようがありません」
「と、いうことは、ダメってことではないってことですねっ!」
リリアーナは、2ヶ月は一緒に暮らすわけだし、初めから剣呑な状況になるのも困る。それに大好きなビアータの友人なのだ。だから、一応頷いた。
食堂室へ戻ったファブリノが、みんなに宣言した。
「俺も、リリアーナさんを攻略中!よろしくなっ!」
まさか、ここで暴露するとは思ってなかったリリアーナは、真っ赤になり、女の子たちだけじゃなく、男の子たちも大騒ぎになってしまった。リリアーナは、ため息をつきたくなったが
「だから、勉強続けるぞぉ!」
「「「「はーい!」」」」
子供たちの切り替えを見て、子供たちがファブリノとリリアーナのことが気になって集中できていなかったことに気がついた。リリアーナは、思わずにっこりとしてしまった。
その日の夜には、アルフレードに2ヶ月はファブリノを見てほしいと言われたが、リリアーナにとってはファブリノの気持ちが冷めるのを待つだけの期間だと思った。
〰️
それからは、意識していないつもりだが、なんとなく、ファブリノを評価していくリリアーナだった。まず、思いの外、ファブリノは好青年だった。アルフレードやコルネリオより、口調は粗野だが、子供たちに誰より溶け込んでいた。小さい子供たちには、完全に頼れて楽しい兄貴だったし、大きな子供たちにとっては、同世代の友人だった。
ここ2年ほど先生をしているリリアーナは教育方法のタイプでみる傾向があった。アルフレードが背中で教えるタイプ、コルネリオが方向を指し示すタイプ、そしてファブリノは一緒に歩いていくタイプであった。リリアーナ本人は、コルネリオのタイプに近い。
牧草地で作業中、子供が転んだ。ファブリノは、しゃがんでその子と同じ視線になるが、決して手を差し伸べなかった。だが、急かしもしない。ただ、同じ視線で待っているのだ。その子は一人で立ち上がり、しゃがんだままのファブリノに頭を撫でられると、作業の輪の中に戻って行った。ファブリノは、それを、後ろからゆっくりと立ち上がり、笑顔で見送っていた。
その日の夜。
「昼間、どうして助け起こさなかったの?」
リリアーナはファブリノに率直に聞いた。
「え?何のこと?」
「酪農組の男の子のことよ」
「ああ、だって躓くたびに誰かが近くにいるとは限らないだろう」
ファブリノはリリアーナの質問の意図はわからないが、自分の考えを述べた。
「でも、あの時あなたは近くにいたじゃないの」
「近くにいたのはたまたまだけど、躓いたときに見守ってやることはどこででもできる。そういう相手がいるってことを知っていることが、躓いたときに立ち上がる気力に繋がると思うんだよね。見えない手があるっていうか、さぁ」
「そこにいなくても、見える手?」
「ああ。躓いたとき、あそこまで行けば手があるって知っていれば、そこまでは歩けるだろう」
「だから見ていてあげたの?」
「ハハハ、俺がリリアーナさんに見ていてもらってたなんて、知らなかったけどね」
リリアーナは、後で知ることになるのだが、ファブリノは、貴族である両親に見捨てられ、孤児院を持つ夫婦に育てられたようなものだった。その夫婦には、我が子のように愛情を注いでもらってはいたが、いかんせん、孤児院である。ファブリノだけに手をかけてくれるわけではない。だが、困った時には、そっと助けてぬれるし、意見もくれるし、いつも見守ってくれていた。そういった環境であったからこそのファブリノの考え方であるといえる。
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