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山々に囲まれその山からは恵みの川が海へと繋がり風光明媚な国イーダナス王国。山の麓には大きな湖があり、水面がキラキラと輝く。
その湖の東側である我が領地の森を俺は散歩している。ここまで馬を駆ってきて、湖の畔の草むら近くに馬を放し、当て所なくただぽやっと歩いた。
『いい天気だなぁ。まさに乗馬アンド散歩日和。ハァ~気持ちいい』
きっとだらしない顔であろうと思う。俺がだらしないのはいつものことなので気にはしない。
その辺で木っ端を拾い、杖にしたり落ち葉を叩いたり、時には木をコツコツしたり。
あ、俺、子供じゃないから。学園の青年部の二年生で十六歳。本日は土曜日。
でも、のんびり散歩ってそんなもんだろう?
そうやってぷらぷらしていると目の前にクルミがいくつも落ちていた。見上げるとクルミの大木だ。
「でけぇ!!」
仰ぎ見ると青空が見えないほどに葉が生い茂っている。
「これは去年の分のクルミだな」
中身はすでに腐り殻だけになっていることだろう。
俺はなんの気無しにクルミを手持ちの棒で叩いた。
「ん?」
既体験感?
もう一度。上手く当たらない。
では、もう一度。当たった!
俺は夢中になってクルミを打った。
あまりに夢中になりすぎて周りが見えていなかった……。
『バキッ!!!』
俺の持っていた棒が太い木の幹に当たり折れて木っ端が目の前に飛んできた。驚いて仰け反ったが運動神経が良いわけではない俺はそのまま仰向けに倒れた。
『ガツン!』
目の前に星がチカチカして意識を手放した。
〰️ 〰️ 〰️
目が覚めるとそこは既視感バッチリな俺の寝室。起き上がろうとしたが頭痛が響いた。
「いてててててて……」
「フユルーシ様! お目覚めになられましたか!?」
俺の従者二人がベッド脇へと駆けつけた。走ってないけど、気持ちの問題ね。
「俺、どうしたんだ?」
「仰向けにお転びになり、その際後頭部を木の根に打ち付けまして気をお失いになられました」
「そっかぁ。迷惑かけちゃったね」
「とんでもないことでございます」
恭しく頭を下げた従者二人は学園以外ではいかなる時も俺の側にいる。湖畔散歩も後ろにずっと付いてきてくれていたのだ。俺が馬で運ばれていれば意識を戻さないことは考えにくいから、恐らくは一人が馬車を呼びに走り担架で運ばれたのだろう。
後頭部を撫ぜるとタンコブができていた。
「もう大丈夫だよ。また寝るから二人も下がって休んでくれる?」
「かしこまりました。軽食はそちらに用意してございます。何かありましたら、ベルを鳴らし夜間勤務のメイドにお声掛けください」
それはいつものことなのだが、いつもより俺を気遣ってくれるということだろう。
「うん。わかったよ。本当に助かった。
あ! アキオード兄さんには俺は大丈夫って伝えといて」
「かしこまりました。では、おやすみなさいませ」
二人が出ていったのを確認すると頭を抑えながらベッドを降りてソファセットへ赴く。
「流石公爵家。軽食がこれだもんなぁ」
ソファテーブルに並ぶ様々な料理を感心して見つめる。
俺はこの国イーダナス王国のガーシェル公爵家の末っ子三男坊である。
この領地屋敷は現在次兄アキオードが夫婦で取り仕切っている。先程頼んだのは次兄への伝言だ。
公爵を継ぐのは長兄だけど長兄は王城高官であるので王都のタウンハウスで生活している。父母も王都のタウンハウス暮らしだ。父母は主に社交を担っている。
俺も普段は王都暮らし。
「んっまっ!」
立ったままでサンドイッチを口にした。母上や姉上に見られていたら大目玉だ。
何度言われても気にしないけどね。
腹が減っては考えも纏まらない。メイドに茶を頼んで軽食を食べた。
その湖の東側である我が領地の森を俺は散歩している。ここまで馬を駆ってきて、湖の畔の草むら近くに馬を放し、当て所なくただぽやっと歩いた。
『いい天気だなぁ。まさに乗馬アンド散歩日和。ハァ~気持ちいい』
きっとだらしない顔であろうと思う。俺がだらしないのはいつものことなので気にはしない。
その辺で木っ端を拾い、杖にしたり落ち葉を叩いたり、時には木をコツコツしたり。
あ、俺、子供じゃないから。学園の青年部の二年生で十六歳。本日は土曜日。
でも、のんびり散歩ってそんなもんだろう?
そうやってぷらぷらしていると目の前にクルミがいくつも落ちていた。見上げるとクルミの大木だ。
「でけぇ!!」
仰ぎ見ると青空が見えないほどに葉が生い茂っている。
「これは去年の分のクルミだな」
中身はすでに腐り殻だけになっていることだろう。
俺はなんの気無しにクルミを手持ちの棒で叩いた。
「ん?」
既体験感?
もう一度。上手く当たらない。
では、もう一度。当たった!
俺は夢中になってクルミを打った。
あまりに夢中になりすぎて周りが見えていなかった……。
『バキッ!!!』
俺の持っていた棒が太い木の幹に当たり折れて木っ端が目の前に飛んできた。驚いて仰け反ったが運動神経が良いわけではない俺はそのまま仰向けに倒れた。
『ガツン!』
目の前に星がチカチカして意識を手放した。
〰️ 〰️ 〰️
目が覚めるとそこは既視感バッチリな俺の寝室。起き上がろうとしたが頭痛が響いた。
「いてててててて……」
「フユルーシ様! お目覚めになられましたか!?」
俺の従者二人がベッド脇へと駆けつけた。走ってないけど、気持ちの問題ね。
「俺、どうしたんだ?」
「仰向けにお転びになり、その際後頭部を木の根に打ち付けまして気をお失いになられました」
「そっかぁ。迷惑かけちゃったね」
「とんでもないことでございます」
恭しく頭を下げた従者二人は学園以外ではいかなる時も俺の側にいる。湖畔散歩も後ろにずっと付いてきてくれていたのだ。俺が馬で運ばれていれば意識を戻さないことは考えにくいから、恐らくは一人が馬車を呼びに走り担架で運ばれたのだろう。
後頭部を撫ぜるとタンコブができていた。
「もう大丈夫だよ。また寝るから二人も下がって休んでくれる?」
「かしこまりました。軽食はそちらに用意してございます。何かありましたら、ベルを鳴らし夜間勤務のメイドにお声掛けください」
それはいつものことなのだが、いつもより俺を気遣ってくれるということだろう。
「うん。わかったよ。本当に助かった。
あ! アキオード兄さんには俺は大丈夫って伝えといて」
「かしこまりました。では、おやすみなさいませ」
二人が出ていったのを確認すると頭を抑えながらベッドを降りてソファセットへ赴く。
「流石公爵家。軽食がこれだもんなぁ」
ソファテーブルに並ぶ様々な料理を感心して見つめる。
俺はこの国イーダナス王国のガーシェル公爵家の末っ子三男坊である。
この領地屋敷は現在次兄アキオードが夫婦で取り仕切っている。先程頼んだのは次兄への伝言だ。
公爵を継ぐのは長兄だけど長兄は王城高官であるので王都のタウンハウスで生活している。父母も王都のタウンハウス暮らしだ。父母は主に社交を担っている。
俺も普段は王都暮らし。
「んっまっ!」
立ったままでサンドイッチを口にした。母上や姉上に見られていたら大目玉だ。
何度言われても気にしないけどね。
腹が減っては考えも纏まらない。メイドに茶を頼んで軽食を食べた。
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