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第三章 子爵令嬢の大いなる挑戦
8 王宮メイドに挑戦する
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サラビエネは頑張って笑顔を見せた。
「君はすごく頑張っていた。時間が少しばかり足りなかっただけさ。勉強ならこれからもできるじゃないか。
元々目的は殿下の婚約者になることではなかったのだろう?」
ユエバルはそれについてはサラビエネの両親であるムワタンテ子爵夫妻から聞いている。
「そうよ。メーデル王子殿下もわたくしには興味がなさそうだったわ」
ユエバルは心からホッとした。その直後に爆弾のような言葉が落とされた。
「でもね。王妃陛下があと一ヶ月の勉強会にも参加していいっておっしゃってくださったのよ」
サラビエネが本当に嬉しそうに目をキラキラさせて報告する。
「え? まさかまだ殿下の婚約者候補なの?」
ユエバルは大慌てだ。サラビエネはここまで大変優秀だった。語学についてはただただ時間がなかったのだとわかるほどに。
『もしかしたら、王妃陛下はサラビエネの優秀さに気がついてしまったのかもしれない。王子の婚約者なんて政略で決めることは当然ありえる。王妃陛下が気に入ったという理由での婚約者選びもあるのではないのか? そのための救済処置なのではないのかっ?!』
ユエバルは視点の合わない顔をして悩んでいる。
「もう! 違うわよっ! それは落選してしまったわ。でもね、勉強会には参加し続けられるの。落選した人の中で希望者全員よ」
ユエバルはサラビエネの話を頭の中で咀嚼する。サラビエネだけが特別扱いされたわけではないことに胸を撫で下ろした。
「それにね、ここまで残った者は、王城の文官か王宮のメイドの採用試験を受けられることになったのよ」
「それはすごいなっ! 王妃陛下は初めからそれが目的だったのかもしれないね。女性文官はまだいない。王宮メイドは高位貴族であると暗黙のルールがあった。
それを打破するなんて王妃陛下の決断は素晴らしいよ」
「そうよねっ!」
サラビエネは国の革新的な変化に喜んだ。だが、すぐに俯く。
「どうしたの?」
ユエバルは顔を覗き込んで優しく聞いた。
「ユエバル様。わたくし、妹や弟の助けになりたくてこの一年頑張ってきたの。その気持ちに嘘はないわ」
「うん。知っているよ」
「でもね……、それは……」
「女性は教養を活かせる選択肢がない。その中で君に領地経営をさせようと考えたご両親は素晴らしいよ。
でも、君の前に選択肢が現れた……」
「そうなの……」
「それはいつまでに決めなくてはならないんだい?」
「二週間後に両親が王都に来るの。その時までには自分の気持ちは決めておかないとならないわ。そして、最終試験日の後はどうするのかを両親と相談しなくてはならないの」
「そうか。まだ時間はあるじゃないか。ゆっくり考えたらいいよ」
「ありがとう。ユエバル様のお陰で気が楽になったわ。
ユエバル様のお話は何?」
「え? いや、他国語の試験結果を聞きたかっただけだよ。君がとても努力していたから」
「ユエバル様はとても協力してくださったものね。合格できなくて、ごめんなさい」
「いや。僕は『落選していても勉強はこれからもできる』って伝えたかっただけだよ」
ユエバルは心のどこかでサラビエネの落選を望んでいたことは自分でも辟易していたので、口にしない。
「ええ。王妃陛下からもそのお言葉をいただいたわ。ずっと学べるってステキなことね」
「そうだね」
ユエバルはサラビエネが落選した時に本当に伝えようと思っていたことは飲み込んだ。
〰️ 〰️
二週間後、ムワタンテ子爵夫妻が王都に到着する前日。ユエバルは再びサラビエネを訪ねた。二人で公園へと赴く。
「サラビエネ嬢。気持ちは決まったかい?」
「ええ。わたくし、自分がどこまでできるか試してみたいわ。王宮メイドになれれば、語学の勉強も続けられるのですって。
語学ができるようになれば、他国の方を招待する夜会のメイドもさせてもらえるのよ」
「じゃあ、王宮メイドになることにしたんだね?」
「違うわ……。王宮メイド見習いの採用試験を受けるのよ。なれるかどうかはわからないわ」
サラビエネが自信なげに俯く。
「君の努力を知っている。どんな形であれきっと上手くいくよ」
「そうね。頑張ってみるわ。ユエバル様、励ましてくれてありがとう」
「応援しているよ」
「嬉しいわ。
それとね、わたくし、もう一つユエバル様にご相談があるの」
サラビエネが頬を染めてユエバルを見つめた。
「実は僕もサラビエネ嬢に相談したいことがあるんだ」
二人は見つめ合った。ユエバルはサラビエネが殿下の婚約者候補から落ちた時に言おうとしたことを今日話す決心をしていた。
〰️ 〰️ 〰️
翌日、ユエバルはサラビエネの両親であるムワタンテ子爵夫妻と会い、サラビエネとの婚約を打診する。
ムワタンテ子爵夫妻はサラビエネの意思に任せ、どんなことでもサラビエネを応援すると言った。
さらに二週間後の王宮メイド採用試験にサラビエネは見事合格する。
親友ノエリエラも総務局高官に合格した。さらにノエリエラの図書館司書との電撃結婚はサラビエネより先で、周りもそして本人さえもびっくりすることになるのは半年後。
ラビオナたちの卒業式から一年後、サラビエネは王宮メイドに正式に採用された。
そして、二人は婚姻した。
二年後、優秀なユエバルは准男爵の爵位を賜る。
四年後には子供にも恵まれたが、サラビエネは出産間近まで王宮メイドの仕事をしていた。そして、出産から一年で復職を希望する。それをきっかけに、ラビオナの発案で託児所が王宮内に作られた。
そこには、ラビオナとクロードの子供も時々預けられているという。
~ 第三章 fin ~
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
明日よりクロード編です。
そちらもよろしくお願いします。
「君はすごく頑張っていた。時間が少しばかり足りなかっただけさ。勉強ならこれからもできるじゃないか。
元々目的は殿下の婚約者になることではなかったのだろう?」
ユエバルはそれについてはサラビエネの両親であるムワタンテ子爵夫妻から聞いている。
「そうよ。メーデル王子殿下もわたくしには興味がなさそうだったわ」
ユエバルは心からホッとした。その直後に爆弾のような言葉が落とされた。
「でもね。王妃陛下があと一ヶ月の勉強会にも参加していいっておっしゃってくださったのよ」
サラビエネが本当に嬉しそうに目をキラキラさせて報告する。
「え? まさかまだ殿下の婚約者候補なの?」
ユエバルは大慌てだ。サラビエネはここまで大変優秀だった。語学についてはただただ時間がなかったのだとわかるほどに。
『もしかしたら、王妃陛下はサラビエネの優秀さに気がついてしまったのかもしれない。王子の婚約者なんて政略で決めることは当然ありえる。王妃陛下が気に入ったという理由での婚約者選びもあるのではないのか? そのための救済処置なのではないのかっ?!』
ユエバルは視点の合わない顔をして悩んでいる。
「もう! 違うわよっ! それは落選してしまったわ。でもね、勉強会には参加し続けられるの。落選した人の中で希望者全員よ」
ユエバルはサラビエネの話を頭の中で咀嚼する。サラビエネだけが特別扱いされたわけではないことに胸を撫で下ろした。
「それにね、ここまで残った者は、王城の文官か王宮のメイドの採用試験を受けられることになったのよ」
「それはすごいなっ! 王妃陛下は初めからそれが目的だったのかもしれないね。女性文官はまだいない。王宮メイドは高位貴族であると暗黙のルールがあった。
それを打破するなんて王妃陛下の決断は素晴らしいよ」
「そうよねっ!」
サラビエネは国の革新的な変化に喜んだ。だが、すぐに俯く。
「どうしたの?」
ユエバルは顔を覗き込んで優しく聞いた。
「ユエバル様。わたくし、妹や弟の助けになりたくてこの一年頑張ってきたの。その気持ちに嘘はないわ」
「うん。知っているよ」
「でもね……、それは……」
「女性は教養を活かせる選択肢がない。その中で君に領地経営をさせようと考えたご両親は素晴らしいよ。
でも、君の前に選択肢が現れた……」
「そうなの……」
「それはいつまでに決めなくてはならないんだい?」
「二週間後に両親が王都に来るの。その時までには自分の気持ちは決めておかないとならないわ。そして、最終試験日の後はどうするのかを両親と相談しなくてはならないの」
「そうか。まだ時間はあるじゃないか。ゆっくり考えたらいいよ」
「ありがとう。ユエバル様のお陰で気が楽になったわ。
ユエバル様のお話は何?」
「え? いや、他国語の試験結果を聞きたかっただけだよ。君がとても努力していたから」
「ユエバル様はとても協力してくださったものね。合格できなくて、ごめんなさい」
「いや。僕は『落選していても勉強はこれからもできる』って伝えたかっただけだよ」
ユエバルは心のどこかでサラビエネの落選を望んでいたことは自分でも辟易していたので、口にしない。
「ええ。王妃陛下からもそのお言葉をいただいたわ。ずっと学べるってステキなことね」
「そうだね」
ユエバルはサラビエネが落選した時に本当に伝えようと思っていたことは飲み込んだ。
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二週間後、ムワタンテ子爵夫妻が王都に到着する前日。ユエバルは再びサラビエネを訪ねた。二人で公園へと赴く。
「サラビエネ嬢。気持ちは決まったかい?」
「ええ。わたくし、自分がどこまでできるか試してみたいわ。王宮メイドになれれば、語学の勉強も続けられるのですって。
語学ができるようになれば、他国の方を招待する夜会のメイドもさせてもらえるのよ」
「じゃあ、王宮メイドになることにしたんだね?」
「違うわ……。王宮メイド見習いの採用試験を受けるのよ。なれるかどうかはわからないわ」
サラビエネが自信なげに俯く。
「君の努力を知っている。どんな形であれきっと上手くいくよ」
「そうね。頑張ってみるわ。ユエバル様、励ましてくれてありがとう」
「応援しているよ」
「嬉しいわ。
それとね、わたくし、もう一つユエバル様にご相談があるの」
サラビエネが頬を染めてユエバルを見つめた。
「実は僕もサラビエネ嬢に相談したいことがあるんだ」
二人は見つめ合った。ユエバルはサラビエネが殿下の婚約者候補から落ちた時に言おうとしたことを今日話す決心をしていた。
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翌日、ユエバルはサラビエネの両親であるムワタンテ子爵夫妻と会い、サラビエネとの婚約を打診する。
ムワタンテ子爵夫妻はサラビエネの意思に任せ、どんなことでもサラビエネを応援すると言った。
さらに二週間後の王宮メイド採用試験にサラビエネは見事合格する。
親友ノエリエラも総務局高官に合格した。さらにノエリエラの図書館司書との電撃結婚はサラビエネより先で、周りもそして本人さえもびっくりすることになるのは半年後。
ラビオナたちの卒業式から一年後、サラビエネは王宮メイドに正式に採用された。
そして、二人は婚姻した。
二年後、優秀なユエバルは准男爵の爵位を賜る。
四年後には子供にも恵まれたが、サラビエネは出産間近まで王宮メイドの仕事をしていた。そして、出産から一年で復職を希望する。それをきっかけに、ラビオナの発案で託児所が王宮内に作られた。
そこには、ラビオナとクロードの子供も時々預けられているという。
~ 第三章 fin ~
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明日よりクロード編です。
そちらもよろしくお願いします。
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