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第三章 子爵令嬢の大いなる挑戦
7 他国語に挑戦する
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お茶会では、いつものようにユエバルがサラビエネの手を引いてテーブルにエスコートする。
「他のグループのお茶会もこのように殿方がお話のお相手をしてくださいますの? 接待役とはいえ、大変ですね」
「さあ? 恐らくはそうだと思いますよ。三十人のご令嬢をメーデル殿下お一人ではお相手できませんからね。でも、美しいご令嬢とゆっくり話ができることを男どもはみな楽しんでいるのではないですか?」
「ユエバル様は、他のグループのお茶会の様子はご存知ないのですか?」
「ええ。こちらのグループのお茶会だけに参加させていただいておりますので」
ニコニコと答えるユエバルにサラビエネは驚いていた。そして、他のグループに参加しない理由を考えた。
『このグループのお茶会にだけ参加なさって、わたくしとずっとお話をしてくださっているのね。
なんだか、誤解してしまいそうだわ。もしかしたら、わたくしが真面目でつまらない話しかできないからと、お父様お義母様に頼まれたのかもしれないわ』
色恋沙汰に疎くとても真面目なサラビエネは『接待役の殿方たち』という言葉を鵜呑みにしている。だからこそ、ユエバルのことを『サラビエネの両親に頼まれた接待係』と思い込んだ。
「私も毎回楽しいですよ」
『わたくしのお話など楽しいわけはないわ。刺繍の話もドレスの話もできないもの』
頭でそう思っていても、ユエバルに楽しいと言われることはサラビエネにとってとても嬉しいことだった。
サラビエネは頬を赤くして俯いた。
〰️ 〰️ 〰️
勉強会も八ヶ月目。すでに数十名の落選者が出て、グループの組み直しがされた。
サラビエネは親友ノエリエラ・パーミル子爵令嬢と同グループになった。ノエリエラも勉強目的での参加であった。
二人は仮寮である宿屋を同じ場所にして、勉強会前のランチや勉強会の復習などを一緒にした。
「そういえば、先月落選したご令嬢に聞いたのだけど、落選したから婚姻が決まったそうなの」
ノエリエラからの話は、サラビエネには理解不能だった。
「落選したから、しかたなく婚姻することにしたってこと?」
「違うわよ。殿下とのお茶会があるでしょう。その接待係をしてくれていた騎士様と婚約することになったのですって」
サラビエネは口をパカリと開ける。
「おかしいなとは思ったのよ。あの接待係、みなさんお若い上に未婚者だったでしょう?」
サラビエネは最近はユエバルとばかり話しているのでわからない。小首を傾げた。
王妃陛下が用意した接待係はみな三十歳以下だった。ラビオナ主催の補習会も、ラビオナの家の執事以外はそのくらいの年だ。
「成績発表の翌日、その騎士様が宿屋にいらして結果をお聞きになり、落選したと報告すると、その場でプロポーズされたのですって」
「もしかして、それって、王妃陛下が……?」
「ええ。王妃陛下が知らないはずはないと思うのよ。確かに建前は『殿下の婚約者候補者』なんだから、女性は未婚に決まっているわよね」
メーデルは参加者二百人の中から一人しか選べないのだ。確かに二百人の未婚女性が集っていることになる。
「これまでの三ヶ月でたくさんの婚約が結ばれたそうよ」
中級になった勉強会はテストの回数を重ねるほどに候補者の人数は減っている。
「私は婚姻より、仕事を探したいから関係ないけどね」
ノエリエラはカラカラと笑った。
ノエリエラが大変な読書好きで、本を読みたいために王都に残りたがっていることもサラビエネは知っている。そのため、ノエリエラが仕事を探していることにも協力してきた。
「裕福な殿方を見つけることも王都に残れる手段よ」
「嫌よ。社交なんてしたくないわ。社交での嫌な気持ちなんて、学園だけで充分よ。私みたいに勉強好きは好かれないわ」
「接待係の男性も、補習会に来てくれる男性もその点は理解している人が来ていると思うけど」
サラビエネはユエバルの言葉を思い出していた。
『自分より知識のある女性を好まない男は多い。全く無意味なプライドですよ』
ユエバルなら大丈夫だと思ったサラビエネは自然に笑顔になっていた。
「あら? 思い当たる人がいるの? もしかして地質学者の彼?」
ノエリエラの指摘にサラビエネは顔を赤くした。
〰️ 〰️ 〰️
勉強会十ヶ月目。他国語中級試験にサラビエネは合格できなかった。それまですべて95点以上であったので、他のご令嬢も驚いていた。だが、サラビエネは納得している。悔しい気持ちはあるが、語学を履修するには時間が足りなかった。
サラビエネはもっと勉強したいと思った。
多くの落選者が出た席で、王妃陛下からサラビエネが予想もしない提案がなされた。なんと、王城の文官か王宮のメイドの採用試験が行われるというのだ。
サラビエネは迷っていた。
〰️ 〰️
試験に落選した翌日、仮寮の宿屋にユエバルがサラビエネを訪ねてきた。
二人は公園へ行った。
人がまばらな場所にあるベンチに一人分間を開けて座った。
サラビエネは他国語の試験で落選したことをユエバルに報告する。
「他のグループのお茶会もこのように殿方がお話のお相手をしてくださいますの? 接待役とはいえ、大変ですね」
「さあ? 恐らくはそうだと思いますよ。三十人のご令嬢をメーデル殿下お一人ではお相手できませんからね。でも、美しいご令嬢とゆっくり話ができることを男どもはみな楽しんでいるのではないですか?」
「ユエバル様は、他のグループのお茶会の様子はご存知ないのですか?」
「ええ。こちらのグループのお茶会だけに参加させていただいておりますので」
ニコニコと答えるユエバルにサラビエネは驚いていた。そして、他のグループに参加しない理由を考えた。
『このグループのお茶会にだけ参加なさって、わたくしとずっとお話をしてくださっているのね。
なんだか、誤解してしまいそうだわ。もしかしたら、わたくしが真面目でつまらない話しかできないからと、お父様お義母様に頼まれたのかもしれないわ』
色恋沙汰に疎くとても真面目なサラビエネは『接待役の殿方たち』という言葉を鵜呑みにしている。だからこそ、ユエバルのことを『サラビエネの両親に頼まれた接待係』と思い込んだ。
「私も毎回楽しいですよ」
『わたくしのお話など楽しいわけはないわ。刺繍の話もドレスの話もできないもの』
頭でそう思っていても、ユエバルに楽しいと言われることはサラビエネにとってとても嬉しいことだった。
サラビエネは頬を赤くして俯いた。
〰️ 〰️ 〰️
勉強会も八ヶ月目。すでに数十名の落選者が出て、グループの組み直しがされた。
サラビエネは親友ノエリエラ・パーミル子爵令嬢と同グループになった。ノエリエラも勉強目的での参加であった。
二人は仮寮である宿屋を同じ場所にして、勉強会前のランチや勉強会の復習などを一緒にした。
「そういえば、先月落選したご令嬢に聞いたのだけど、落選したから婚姻が決まったそうなの」
ノエリエラからの話は、サラビエネには理解不能だった。
「落選したから、しかたなく婚姻することにしたってこと?」
「違うわよ。殿下とのお茶会があるでしょう。その接待係をしてくれていた騎士様と婚約することになったのですって」
サラビエネは口をパカリと開ける。
「おかしいなとは思ったのよ。あの接待係、みなさんお若い上に未婚者だったでしょう?」
サラビエネは最近はユエバルとばかり話しているのでわからない。小首を傾げた。
王妃陛下が用意した接待係はみな三十歳以下だった。ラビオナ主催の補習会も、ラビオナの家の執事以外はそのくらいの年だ。
「成績発表の翌日、その騎士様が宿屋にいらして結果をお聞きになり、落選したと報告すると、その場でプロポーズされたのですって」
「もしかして、それって、王妃陛下が……?」
「ええ。王妃陛下が知らないはずはないと思うのよ。確かに建前は『殿下の婚約者候補者』なんだから、女性は未婚に決まっているわよね」
メーデルは参加者二百人の中から一人しか選べないのだ。確かに二百人の未婚女性が集っていることになる。
「これまでの三ヶ月でたくさんの婚約が結ばれたそうよ」
中級になった勉強会はテストの回数を重ねるほどに候補者の人数は減っている。
「私は婚姻より、仕事を探したいから関係ないけどね」
ノエリエラはカラカラと笑った。
ノエリエラが大変な読書好きで、本を読みたいために王都に残りたがっていることもサラビエネは知っている。そのため、ノエリエラが仕事を探していることにも協力してきた。
「裕福な殿方を見つけることも王都に残れる手段よ」
「嫌よ。社交なんてしたくないわ。社交での嫌な気持ちなんて、学園だけで充分よ。私みたいに勉強好きは好かれないわ」
「接待係の男性も、補習会に来てくれる男性もその点は理解している人が来ていると思うけど」
サラビエネはユエバルの言葉を思い出していた。
『自分より知識のある女性を好まない男は多い。全く無意味なプライドですよ』
ユエバルなら大丈夫だと思ったサラビエネは自然に笑顔になっていた。
「あら? 思い当たる人がいるの? もしかして地質学者の彼?」
ノエリエラの指摘にサラビエネは顔を赤くした。
〰️ 〰️ 〰️
勉強会十ヶ月目。他国語中級試験にサラビエネは合格できなかった。それまですべて95点以上であったので、他のご令嬢も驚いていた。だが、サラビエネは納得している。悔しい気持ちはあるが、語学を履修するには時間が足りなかった。
サラビエネはもっと勉強したいと思った。
多くの落選者が出た席で、王妃陛下からサラビエネが予想もしない提案がなされた。なんと、王城の文官か王宮のメイドの採用試験が行われるというのだ。
サラビエネは迷っていた。
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試験に落選した翌日、仮寮の宿屋にユエバルがサラビエネを訪ねてきた。
二人は公園へ行った。
人がまばらな場所にあるベンチに一人分間を開けて座った。
サラビエネは他国語の試験で落選したことをユエバルに報告する。
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