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第三章 子爵令嬢の大いなる挑戦
2 後継者の勉強に挑戦する
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オデリーヌはサラビエネを優しく諭す。
「旦那様はサラビエネ様とのお食事を楽しんでいらっしゃるのですよ。
わたくしもご一緒するお食事の後、旦那様はサラビエネ様のマナーが素晴らしいとお褒めになっておりますよ」
「それは、オデリーヌをお褒めになっているのよ。オデリーヌはわたくしのお手本だもの。
お父様はキャシーナおば様とのお食事はちっとも楽しそうじゃないでしょう?」
キャシーナはムワタンテ子爵の父親の弟の娘で隣領の男爵の次男と婚姻し、その男爵家の小さな町の管理人をしている。ムワタンテ子爵領の領都にやってきては、ムワタンテ子爵家のツケで何かを買っていこうとする。
前ムワタンテ子爵は姪っ子なので甘やかしていたが、前ムワタンテ子爵が儚くなり、現ムワタンテ子爵になってからは町中の店にキャシーナのツケを受け付けないとした。
キャシーナはそれが気に入らないので、来るたびに文句を言っている。
「キャシーナ様は……」
オデリーヌも痛い所を突かれて答えられない。
「それとも、オデリーヌはお父様が嫌いなの?」
「まっ! まさかっ! それはありませんっ! 旦那様は大変お優しいですし、お仕事もおできになります。博学でいらっしゃいますし、それに奢ることなく他の領地などに学びに行かれて。
とても、とても尊敬しております。領民にもお声掛けなさってみんなに好かれております。これほど素晴らしい方は、他にはいらっしゃいませんわ」
オデリーヌの様子に目をしばたかせながら聞いていたサラビエネがドアの方にいる人物に気がついた。
「あっ! お父様っ!」
オデリーヌがびっくりして振り向くと、ドアの前には顔を真っ赤にしたムワタンテ子爵が立っていた。
「あのぉ。そのぉ。サーラが遅いので起こしに来たんだ。オデリーヌは他の仕事をしているのかと思ってね……」
ムワタンテ子爵の様子で少なくともオデリーヌの話は聞かれていたと推測できた。オデリーヌも顔を赤くした。
サラビエネがムワタンテ子爵の元へと走る。ムワタンテ子爵の両手をとって握りしめた。
「ねぇ! お父様。わたくし、オデリーヌが大好きなのっ! お父様もオデリーヌが好きよね?」
ブラウンの瞳をまんまるにして真っ直ぐに見つめてくるサラビエネに対してムワタンテ子爵は嘘をつくことができなかった。
「そうだな。私もオデリーヌは素敵な女性だと思うよ」
「じゃあ、お父様もオデリーヌが好きなのね?!」
「あ、うん、そうだね」
「やったぁ!」
サラビエネはクルッと振り向いて、今度はベッドに座るオデリーヌのところへ走る。
「オデリーヌ! わたくしのお義母様になってねっ! そして、わたくしに弟をちょうだいなっ!」
こうして、ムワタンテ子爵二十七歳はオデリーヌ男爵令嬢二十歳と再婚した。
〰️ 〰️ 〰️
ムワタンテ子爵は、サラビエネが再婚を勧めた理由が『ムワタンテ子爵家の跡継ぎ問題』だとオデリーヌから説明を受けている。
二人のお披露目パーティーが終わって数日後、三人はこれからのムワタンテ子爵家について話をした。
「サーラ。私は必ずしも男の子が継ぐべきだとも、婿殿に領地のことを任せるべきだとも思っていない。
もし、サーラにやる気があるのなら、サーラにこのムワタンテ子爵領を守っていってほしいと思っているよ」
「わたくしが?」
「そうだよ。でも、領地を守るためにはたくさん勉強が必要だ。いつどんな勉強が領地のためになるかわからないからね。
ゆっくりと考えてごらん」
「はい。お父様」
オデリーヌはサラビエネの手をギュッと握った。
「わたくしはサーラがどんな答えを出しても貴女の味方よ。何でも相談してね」
「はいっ! お義母様!」
サラビエネはオデリーヌの首に抱きついた。
それからのムワタンテ子爵は領地視察には大抵サラビエネもオデリーヌも連れて行った。
婚姻の翌々年にはライラリンネが生まれた。また女の子であったが、ムワタンテ子爵は大喜びだ。ライラリンネは髪の色は黄緑でブラウンの瞳。ムワタンテ子爵そっくりだった。
それを見たサラビエネは決心した。
「お父様。わたくし、ムワタンテ子爵家を守るお勉強がしたいわ。ライリーを守りたいの」
「そうか。そう思ってくれて嬉しいよ。オディとの勉強に領地を守るためのものを入れてもらおう」
サラビエネは一生懸命に勉強した。オデリーヌもサラビエネに教えられることが増えるようにと、暇を見つけては勉強している。
〰️ 〰️
サラビエネ十五歳、ライラリンネ七歳。
後継者として勉強してきたサラビエネは学園に入学するとBクラスの上位だった。
「旦那様はサラビエネ様とのお食事を楽しんでいらっしゃるのですよ。
わたくしもご一緒するお食事の後、旦那様はサラビエネ様のマナーが素晴らしいとお褒めになっておりますよ」
「それは、オデリーヌをお褒めになっているのよ。オデリーヌはわたくしのお手本だもの。
お父様はキャシーナおば様とのお食事はちっとも楽しそうじゃないでしょう?」
キャシーナはムワタンテ子爵の父親の弟の娘で隣領の男爵の次男と婚姻し、その男爵家の小さな町の管理人をしている。ムワタンテ子爵領の領都にやってきては、ムワタンテ子爵家のツケで何かを買っていこうとする。
前ムワタンテ子爵は姪っ子なので甘やかしていたが、前ムワタンテ子爵が儚くなり、現ムワタンテ子爵になってからは町中の店にキャシーナのツケを受け付けないとした。
キャシーナはそれが気に入らないので、来るたびに文句を言っている。
「キャシーナ様は……」
オデリーヌも痛い所を突かれて答えられない。
「それとも、オデリーヌはお父様が嫌いなの?」
「まっ! まさかっ! それはありませんっ! 旦那様は大変お優しいですし、お仕事もおできになります。博学でいらっしゃいますし、それに奢ることなく他の領地などに学びに行かれて。
とても、とても尊敬しております。領民にもお声掛けなさってみんなに好かれております。これほど素晴らしい方は、他にはいらっしゃいませんわ」
オデリーヌの様子に目をしばたかせながら聞いていたサラビエネがドアの方にいる人物に気がついた。
「あっ! お父様っ!」
オデリーヌがびっくりして振り向くと、ドアの前には顔を真っ赤にしたムワタンテ子爵が立っていた。
「あのぉ。そのぉ。サーラが遅いので起こしに来たんだ。オデリーヌは他の仕事をしているのかと思ってね……」
ムワタンテ子爵の様子で少なくともオデリーヌの話は聞かれていたと推測できた。オデリーヌも顔を赤くした。
サラビエネがムワタンテ子爵の元へと走る。ムワタンテ子爵の両手をとって握りしめた。
「ねぇ! お父様。わたくし、オデリーヌが大好きなのっ! お父様もオデリーヌが好きよね?」
ブラウンの瞳をまんまるにして真っ直ぐに見つめてくるサラビエネに対してムワタンテ子爵は嘘をつくことができなかった。
「そうだな。私もオデリーヌは素敵な女性だと思うよ」
「じゃあ、お父様もオデリーヌが好きなのね?!」
「あ、うん、そうだね」
「やったぁ!」
サラビエネはクルッと振り向いて、今度はベッドに座るオデリーヌのところへ走る。
「オデリーヌ! わたくしのお義母様になってねっ! そして、わたくしに弟をちょうだいなっ!」
こうして、ムワタンテ子爵二十七歳はオデリーヌ男爵令嬢二十歳と再婚した。
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ムワタンテ子爵は、サラビエネが再婚を勧めた理由が『ムワタンテ子爵家の跡継ぎ問題』だとオデリーヌから説明を受けている。
二人のお披露目パーティーが終わって数日後、三人はこれからのムワタンテ子爵家について話をした。
「サーラ。私は必ずしも男の子が継ぐべきだとも、婿殿に領地のことを任せるべきだとも思っていない。
もし、サーラにやる気があるのなら、サーラにこのムワタンテ子爵領を守っていってほしいと思っているよ」
「わたくしが?」
「そうだよ。でも、領地を守るためにはたくさん勉強が必要だ。いつどんな勉強が領地のためになるかわからないからね。
ゆっくりと考えてごらん」
「はい。お父様」
オデリーヌはサラビエネの手をギュッと握った。
「わたくしはサーラがどんな答えを出しても貴女の味方よ。何でも相談してね」
「はいっ! お義母様!」
サラビエネはオデリーヌの首に抱きついた。
それからのムワタンテ子爵は領地視察には大抵サラビエネもオデリーヌも連れて行った。
婚姻の翌々年にはライラリンネが生まれた。また女の子であったが、ムワタンテ子爵は大喜びだ。ライラリンネは髪の色は黄緑でブラウンの瞳。ムワタンテ子爵そっくりだった。
それを見たサラビエネは決心した。
「お父様。わたくし、ムワタンテ子爵家を守るお勉強がしたいわ。ライリーを守りたいの」
「そうか。そう思ってくれて嬉しいよ。オディとの勉強に領地を守るためのものを入れてもらおう」
サラビエネは一生懸命に勉強した。オデリーヌもサラビエネに教えられることが増えるようにと、暇を見つけては勉強している。
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サラビエネ十五歳、ライラリンネ七歳。
後継者として勉強してきたサラビエネは学園に入学するとBクラスの上位だった。
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