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第二章 王子の葛藤

5 完璧

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 そして、五年が過ぎ、何を思ったのか俺にプロポーズする女性と出会った。

「俺は国への借金を返済したが、それは新たに領民に借金したことと同意なのだ。だから贅沢ができることは生涯ないよ」

 領民からの税金を使っての借金返済に、そうしなければならないことが自己嫌悪するが、義務であると思っている。

「贅沢がしたくてメーデル様に尽くしたいわけではありません。メーデル様となら、毎日ワクワクして領地経営できると思うからです」

 優秀な女性は笑顔でそう答えてくれた。その女性は俺の母上たる王妃陛下から『淑女の称号』を賜るほどの才女だ。
 母上に『婚姻する相手は爵位が高いか、能力が高い方であること』と厳命されていたのでぴったりの相手である。

 初めて両親に紹介した時に、すぐに婚約そして婚姻の了承を得られた。

「貴方が見つけたのではなく、彼女から来てくれたのですってね。本当に奇特な子。大事になさい。逃したら一生独身よ」

 母上に釘を刺されたが、自分が一番よくわかっている。
 だがそれとは別に、すでにライラリンネと離れられるとは思えなくなるほど愛おしく感じていた。

〰️ 

 出会いから一年半後ライラリンネと婚姻した。
 結婚式は俺の治める領地クレアンナート公爵領の屋敷で慎ましやかに執り行った。

 ライラリンネのドレスは彼女の姉の下がりだった。

「お母様が作ってくれたドレスなの。わたくしもここを刺繍したのよ」

 見事な薔薇の刺繍がされている。

 姉の手作りというベールを付けたライラリンネは女神のように微笑んでいた。

〰️ 〰️ 〰️

 婚姻から二ヶ月後、秋の王城舞踏会に夫婦で出席することになった。
 俺たちは手直しするとはいえ両陛下からの下がりの装いで参加することにした。両陛下がもう着ないというスーツやドレスなどを送っていただく。

「王妃陛下のドレスを着れるなんて素敵だわ」

 ライラリンネはそれさえも喜んでくれた。さらには、アクセサリーをプレゼントしようと思っていたら先に釘を刺されて購入することができなかった。

「数度しか使えないアクセサリーを買うなんてもったいないわ。王妃陛下が譲ってくださったものがとても素晴らしい物ばかりなのよ」

 靴だけはプレゼントさせてもらった。

 十数着送られてきたドレスを見て『これだけあれば、領地での社交や他国との交渉でも自慢できるわね』と笑っていた。

 感謝と愛しさが毎日のように積み重なる。

〰️ 

 舞踏会当日。母上である王妃陛下の傍らには、ラビオナとラビオナの夫クロード・バスカット侯爵がいる。俺は二人にライラリンネを紹介するために二人の近くへ赴いた。

 相変わらず完璧なカーテシーをするラビオナは、母親になり美しさを増したようだ。四人での会話は思いの外弾む。

「わたくし、ずっとライラリンネ様を狙っていましたのよ。まさか、クレアンナート公爵閣下に獲られるなんて思っておりませんでしたわ」

 ラビオナが嬉しそうにそう言った。俺は訳がわからず困り顔で眉を寄せる。

「あはは。閣下。ラビオナは本気でしたよ。奥方はそれほど優秀な方だ」

 ラビオナとバスカット侯爵に褒められてライラリンネが頬を染めた。その姿もまた愛らしい。

「その節は本当にお世話になりました。お二人のご助力には、勉強会に参加した者みな、感謝しております」

 ライラリンネも美しいカーテシーで返す。

 合点がいった。ライラリンネは王妃陛下の勉強会において優秀で、高官として声をかけられていたのだろう。それを差し置いて俺の妻になってくれたのだ。
 俺の頬が思わず緩む。

「うふふ。お国のためになるのは高官になることだけではないもの。期待しているわ。
閣下。ご結婚のお祝いに管理領地が増えるそうですね。おめでとうございます」

 ラビオナはさすがに王妃陛下付き高官だ。よく知っている。

「ああ。ここまでの功績を認めていただいたよ。だが、王家が管理すべきところを私に押し付けたのだろう」

 俺の冗談に三人は笑う。

「当然ですわ。両陛下のお仕事を少しでも減らしてさしあげなければ、お二人共過労で倒れてしまいますわよ」

「そうならないように、我々も協力してまいりますよ。アハハ」

 ラビオナの辛辣な冗談に、バスカット侯爵が自嘲気味に笑った。

「素晴らしい妻を娶ったからね。そちらの領地ももっと繁栄させていくよ。
そして、もっと管理地を増やせるようにしていく」

「頼もしいですわ」

 国政に関わるラビオナに褒められるのはむず痒いが嬉しい。

「ラビオナ。いつまでも俺の前を歩いていてくれ」

 バスカット侯爵が驚いた顔をするが、俺は真っ直ぐにラビオナを見ていた。

「ええ。もちろんですわ。わたくしが想う完璧な国にはまだまだですもの」

「そうだな。俺もこれからも完璧を求めて努力し勤勉に働き、国を支える一つの柱となろう。愛しいライリーとともに」

 俺はライラリンネの腰を抱く腕の力を強め、視線を送る。ライラリンネは満面の笑みで頷いてくれた。


〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️

メーデル編、あと2話ほど続きます。
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