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第二章 王子の葛藤
4 反省
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こうして三ヶ月平民として働いた俺は、一年三ヶ月より以前の俺を殴りたくなった。
アモの給料と俺が何も考えずに使った金。
できる者が得る金と何もできない俺が無駄な買い物した金。
農家一家が鶏肉を買う金と俺が食べないのに出されるケーキの金。
経済を回すために王侯貴族は金を使う必要があるのだと、その側面ばかりを見て豪遊していた。本当に経済を回すために使うなら他に使い方はあったはずだ。
反省だけで終わるわけにはいかない。
〰️ 〰️ 〰️
俺はラビオナに手紙を書いた。少ない文字数。
『王妃教育は辛かったか? 淑女教育は?』
『はい。幼き頃は辛かったです。いえ。どんなことも、できるようになるまでは辛い時がありました。それはこれからもなくなることはないでしょう』
ラビオナも努力していたことに目を向けていなかった最低な俺。自分だけが辛いと思い、快楽に逃げた。
俺がもっとラビオナと話をしていたら……。
俺がもっと世間を知っていたら……。
俺が働くことも学ぶことも楽ではないのは当たり前だと知っていたら……。
俺とラビオナは政略結婚相手より近い関係になれたのだろうか?
逃げてしまった俺にはもうわからない。
だが、完璧なラビオナは初めから存在していたわけではないことが、俺には嬉しかった。だって、これからでも俺は完璧になれるかもしれないということだ。
『それはこれからもなくなることはないでしょう』
ラビオナの完璧への努力はこれからも続くのだろう。領民のため国のため、やれることは尽きない。
俺も……やっていく!
〰️ 〰️ 〰️
それから三ヶ月はジェードの元で物価や治安など領地経営について学んだ。今までが机上の話だと実感した。目の当たりにしてから聞くとすべてがしっくりして、理解できる。
理解できると焦燥感も出てくる。まだまだやらなければならないことだらけなのだな。
〰️ 〰️ 〰️
卒業式から半年後、王宮に戻った。秋の舞踏会が開かれるからだ。
高位貴族はみな参加しているので、同年代の令息たちに聞いてみた。予想していたが、俺に……いや……王子に見合うご令嬢たちはすでに婚約者がいた。
俺は王位継承権を放棄した。伯爵ほどの領地を与えられ公爵の爵位を賜ることになった。俺はジェードと過ごした街のある領地を希望した。そしてジェードにもクレアンナート公爵家の秘書官長として来てもらうことになった。
〰️ 〰️ 〰️
俺はジェードと過ごした屋敷に暮らすものだと思っていたら、街中から少し離れた小高い丘に連れて来られた。
「ここに公爵邸を建設します」
「は?」
ジェードの提案に俺は眉を寄せる。
「ここより離れたところに王家の別荘があるのですが、さすがにそこでは政務を行うには遠いので」
「それは知っている。昔何度か遊びに来たことがあるかならな。もちろん、あそこでは駄目だろうな」
「ええ。ですからこちらに」
「いらん」
「はい??」
「必要ない。今までは、王家領だったから、あそこが管理人屋敷であったのだろう? これからはクレアンナート公爵領なのだから、あそこを領主屋敷にすればいい」
「いやいや、狭すぎます」
「妻を娶るつもりもないから茶会はやらない。主寝室を改築して会議室にする」
「客間が足りません」
管理人屋敷に来るお客はいないが、公爵邸になったらそうはいかないだろう。それでも急な泊り客に困らない程度の客間はある。後は、予定を組んだ多くの泊り客がある場合の分だ。
「二件隣に高級宿があったな。あれを買い取り従業員をそのまま使う。普段は今まで通り宿屋を経営し、公爵家で使うときにはメイドも回すようにすればいい。もう少し高級感を出すために改築して、宿の値段も上げることにしよう。旅行の貴族が喜んで使うだろう。
管理人屋敷の中に普段使わぬ客間を増やしそのためのメイドを増やすなど無駄だ」
「随分とケチになりましたね」
「倹約と言えっ!」
ジェードは俺の王宮での出費を事細かく調査したようで、時々嫌味を入れてくる。
「経営者夫妻が雇われではなく自営を望むなら領都内でいい土地を見つけそこへ建ててやってくれ。公爵邸を建てるよりよほど安上がりだろう?」
ジェードは呆れたとばかりに両手を上に向けておどけた仕草をしたが、口元は笑っていた。
経営者夫妻は収入が安定するからと喜んで宿の管理人を引き受けてくれた。畑にしていた広い庭もあったので、そこを小規模なガーデンパーティーができるような庭園にする。屋敷にも中庭はあるのだが、数名でお茶ができる程度だったので丁度いい。
宿を公爵家で買い取った金で経営者夫妻の息子夫妻が近くで安宿を始めることにしたそうだ。宿が増えれば人が来る。街が発展に向かうのは嬉しいことだ。
〰️
俺はがむしゃらに学んだ。そしてがむしゃらに働いた。たった一月だが農民として暮らしたので質素な生活を苦だとは思わなくなっている。それでも俺より質素な生活をしている民がほとんどなのだ。
王家領とはいえ片田舎のこの土地は改良すべきことがたくさんあり、金はいくらあっても足りない。両陛下にお願いして、二年間は借金の返済金を公爵位への爵位料だけにしてもらう。
おかげで三年目には生活費からも返済に回せるようになった。
アモの給料と俺が何も考えずに使った金。
できる者が得る金と何もできない俺が無駄な買い物した金。
農家一家が鶏肉を買う金と俺が食べないのに出されるケーキの金。
経済を回すために王侯貴族は金を使う必要があるのだと、その側面ばかりを見て豪遊していた。本当に経済を回すために使うなら他に使い方はあったはずだ。
反省だけで終わるわけにはいかない。
〰️ 〰️ 〰️
俺はラビオナに手紙を書いた。少ない文字数。
『王妃教育は辛かったか? 淑女教育は?』
『はい。幼き頃は辛かったです。いえ。どんなことも、できるようになるまでは辛い時がありました。それはこれからもなくなることはないでしょう』
ラビオナも努力していたことに目を向けていなかった最低な俺。自分だけが辛いと思い、快楽に逃げた。
俺がもっとラビオナと話をしていたら……。
俺がもっと世間を知っていたら……。
俺が働くことも学ぶことも楽ではないのは当たり前だと知っていたら……。
俺とラビオナは政略結婚相手より近い関係になれたのだろうか?
逃げてしまった俺にはもうわからない。
だが、完璧なラビオナは初めから存在していたわけではないことが、俺には嬉しかった。だって、これからでも俺は完璧になれるかもしれないということだ。
『それはこれからもなくなることはないでしょう』
ラビオナの完璧への努力はこれからも続くのだろう。領民のため国のため、やれることは尽きない。
俺も……やっていく!
〰️ 〰️ 〰️
それから三ヶ月はジェードの元で物価や治安など領地経営について学んだ。今までが机上の話だと実感した。目の当たりにしてから聞くとすべてがしっくりして、理解できる。
理解できると焦燥感も出てくる。まだまだやらなければならないことだらけなのだな。
〰️ 〰️ 〰️
卒業式から半年後、王宮に戻った。秋の舞踏会が開かれるからだ。
高位貴族はみな参加しているので、同年代の令息たちに聞いてみた。予想していたが、俺に……いや……王子に見合うご令嬢たちはすでに婚約者がいた。
俺は王位継承権を放棄した。伯爵ほどの領地を与えられ公爵の爵位を賜ることになった。俺はジェードと過ごした街のある領地を希望した。そしてジェードにもクレアンナート公爵家の秘書官長として来てもらうことになった。
〰️ 〰️ 〰️
俺はジェードと過ごした屋敷に暮らすものだと思っていたら、街中から少し離れた小高い丘に連れて来られた。
「ここに公爵邸を建設します」
「は?」
ジェードの提案に俺は眉を寄せる。
「ここより離れたところに王家の別荘があるのですが、さすがにそこでは政務を行うには遠いので」
「それは知っている。昔何度か遊びに来たことがあるかならな。もちろん、あそこでは駄目だろうな」
「ええ。ですからこちらに」
「いらん」
「はい??」
「必要ない。今までは、王家領だったから、あそこが管理人屋敷であったのだろう? これからはクレアンナート公爵領なのだから、あそこを領主屋敷にすればいい」
「いやいや、狭すぎます」
「妻を娶るつもりもないから茶会はやらない。主寝室を改築して会議室にする」
「客間が足りません」
管理人屋敷に来るお客はいないが、公爵邸になったらそうはいかないだろう。それでも急な泊り客に困らない程度の客間はある。後は、予定を組んだ多くの泊り客がある場合の分だ。
「二件隣に高級宿があったな。あれを買い取り従業員をそのまま使う。普段は今まで通り宿屋を経営し、公爵家で使うときにはメイドも回すようにすればいい。もう少し高級感を出すために改築して、宿の値段も上げることにしよう。旅行の貴族が喜んで使うだろう。
管理人屋敷の中に普段使わぬ客間を増やしそのためのメイドを増やすなど無駄だ」
「随分とケチになりましたね」
「倹約と言えっ!」
ジェードは俺の王宮での出費を事細かく調査したようで、時々嫌味を入れてくる。
「経営者夫妻が雇われではなく自営を望むなら領都内でいい土地を見つけそこへ建ててやってくれ。公爵邸を建てるよりよほど安上がりだろう?」
ジェードは呆れたとばかりに両手を上に向けておどけた仕草をしたが、口元は笑っていた。
経営者夫妻は収入が安定するからと喜んで宿の管理人を引き受けてくれた。畑にしていた広い庭もあったので、そこを小規模なガーデンパーティーができるような庭園にする。屋敷にも中庭はあるのだが、数名でお茶ができる程度だったので丁度いい。
宿を公爵家で買い取った金で経営者夫妻の息子夫妻が近くで安宿を始めることにしたそうだ。宿が増えれば人が来る。街が発展に向かうのは嬉しいことだ。
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俺はがむしゃらに学んだ。そしてがむしゃらに働いた。たった一月だが農民として暮らしたので質素な生活を苦だとは思わなくなっている。それでも俺より質素な生活をしている民がほとんどなのだ。
王家領とはいえ片田舎のこの土地は改良すべきことがたくさんあり、金はいくらあっても足りない。両陛下にお願いして、二年間は借金の返済金を公爵位への爵位料だけにしてもらう。
おかげで三年目には生活費からも返済に回せるようになった。
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