【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
35 / 49
第二章 王子の葛藤

4 反省

しおりを挟む
 こうして三ヶ月平民として働いた俺は、一年三ヶ月より以前の俺を殴りたくなった。

 アモの給料と俺が何も考えずに使った金。
 できる者が得る金と何もできない俺が無駄な買い物した金。
 農家一家が鶏肉を買う金と俺が食べないのに出されるケーキの金。
 
 経済を回すために王侯貴族は金を使う必要があるのだと、その側面ばかりを見て豪遊していた。本当に経済を回すために使うなら他に使い方はあったはずだ。
 反省だけで終わるわけにはいかない。

〰️ 〰️ 〰️


 俺はラビオナに手紙を書いた。少ない文字数。

『王妃教育は辛かったか? 淑女教育は?』

『はい。幼き頃は辛かったです。いえ。どんなことも、できるようになるまでは辛い時がありました。それはこれからもなくなることはないでしょう』

 ラビオナも努力していたことに目を向けていなかった最低な俺。自分だけが辛いと思い、快楽に逃げた。

 俺がもっとラビオナと話をしていたら……。
 俺がもっと世間を知っていたら……。
 俺が働くことも学ぶことも楽ではないのは当たり前だと知っていたら……。

 俺とラビオナは政略結婚相手より近い関係になれたのだろうか?

 逃げてしまった俺にはもうわからない。

 だが、完璧なラビオナは初めから存在していたわけではないことが、俺には嬉しかった。だって、これからでも俺は完璧になれるかもしれないということだ。
 
『それはこれからもなくなることはないでしょう』

 ラビオナの完璧への努力はこれからも続くのだろう。領民のため国のため、やれることは尽きない。

 俺も……やっていく!


〰️ 〰️ 〰️


 それから三ヶ月はジェードの元で物価や治安など領地経営について学んだ。今までが机上の話だと実感した。目の当たりにしてから聞くとすべてがしっくりして、理解できる。

 理解できると焦燥感も出てくる。まだまだやらなければならないことだらけなのだな。


〰️ 〰️ 〰️

 卒業式から半年後、王宮に戻った。秋の舞踏会が開かれるからだ。

 高位貴族はみな参加しているので、同年代の令息たちに聞いてみた。予想していたが、俺に……いや……王子に見合うご令嬢たちはすでに婚約者がいた。
 
 俺は王位継承権を放棄した。伯爵ほどの領地を与えられ公爵の爵位を賜ることになった。俺はジェードと過ごした街のある領地を希望した。そしてジェードにもクレアンナート公爵家の秘書官長として来てもらうことになった。

〰️ 〰️ 〰️

 俺はジェードと過ごした屋敷に暮らすものだと思っていたら、街中から少し離れた小高い丘に連れて来られた。

「ここに公爵邸を建設します」

「は?」

 ジェードの提案に俺は眉を寄せる。

「ここより離れたところに王家の別荘があるのですが、さすがにそこでは政務を行うには遠いので」

「それは知っている。昔何度か遊びに来たことがあるかならな。もちろん、あそこでは駄目だろうな」

「ええ。ですからこちらに」

「いらん」

「はい??」

「必要ない。今までは、王家領だったから、あそこが管理人屋敷であったのだろう? これからはクレアンナート公爵領なのだから、あそこを領主屋敷にすればいい」

「いやいや、狭すぎます」

「妻を娶るつもりもないから茶会はやらない。主寝室を改築して会議室にする」

「客間が足りません」

 管理人屋敷に来るお客はいないが、公爵邸になったらそうはいかないだろう。それでも急な泊り客に困らない程度の客間はある。後は、予定を組んだ多くの泊り客がある場合の分だ。

「二件隣に高級宿があったな。あれを買い取り従業員をそのまま使う。普段は今まで通り宿屋を経営し、公爵家で使うときにはメイドも回すようにすればいい。もう少し高級感を出すために改築して、宿の値段も上げることにしよう。旅行の貴族が喜んで使うだろう。
管理人屋敷の中に普段使わぬ客間を増やしそのためのメイドを増やすなど無駄だ」

「随分とケチになりましたね」

「倹約と言えっ!」

 ジェードは俺の王宮での出費を事細かく調査したようで、時々嫌味を入れてくる。

「経営者夫妻が雇われではなく自営を望むなら領都内でいい土地を見つけそこへ建ててやってくれ。公爵邸を建てるよりよほど安上がりだろう?」

 ジェードは呆れたとばかりに両手を上に向けておどけた仕草をしたが、口元は笑っていた。

 経営者夫妻は収入が安定するからと喜んで宿の管理人を引き受けてくれた。畑にしていた広い庭もあったので、そこを小規模なガーデンパーティーができるような庭園にする。屋敷にも中庭はあるのだが、数名でお茶ができる程度だったので丁度いい。

 宿を公爵家で買い取った金で経営者夫妻の息子夫妻が近くで安宿を始めることにしたそうだ。宿が増えれば人が来る。街が発展に向かうのは嬉しいことだ。

〰️ 

 俺はがむしゃらに学んだ。そしてがむしゃらに働いた。たった一月だが農民として暮らしたので質素な生活を苦だとは思わなくなっている。それでも俺より質素な生活をしている民がほとんどなのだ。

 王家領とはいえ片田舎のこの土地は改良すべきことがたくさんあり、金はいくらあっても足りない。両陛下にお願いして、二年間は借金の返済金を公爵位への爵位料だけにしてもらう。
 おかげで三年目には生活費からも返済に回せるようになった。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

何故恋愛結婚だけが幸せだと思うのか理解できませんわ

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のファラーシャは男爵家庶子のラーケサに婚約者カティーブとの婚約を解消するように迫られる。 理由はカティーブとラーケサは愛し合っており、愛し合っている二人が結ばれるのは当然で、カティーブとラーケサが結婚しラーケサが侯爵夫人となるのが正しいことだからとのこと。 しかし、ファラーシャにはその主張が全く理解できなかった。ついでにカティーブもラーケサの主張が理解できなかった。 結婚とは一種の事業であると考える高位貴族と、結婚は恋愛の終着点と考える平民との認識の相違のお話。 拙作『法律の多い魔導王国』と同じカヌーン魔導王国の話。法律関係何でもアリなカヌーン王国便利で使い勝手がいい(笑)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...