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第一章 本編
29 その後の勉強会は……
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あの騒動からもうすぐ六年になる二月末、メーデルが友人との付き合いで伯爵家のパーティーに出席した。最近では少しずつ女性たちとも話ができるようになってきていたが、メーデルは以前ほど女性への飢えや情熱が持てなかった。
そんなメーデルが一人になったタイミングでうら若き女性から声をかけられた。
「クレアンナート公爵閣下。はじめまして。わたくし、ムワタンテ子爵家が次女ライラリンネと申します」
ムワタンテ子爵領はクレアンナート公爵領の隣で、メーデルもムワタンテ子爵とは気候が似ていることからよく農地の話などをしていた。そう言われれば、黄緑がかった髪に優しいブラウンの瞳がムワタンテ子爵と同じで、可愛らしい目元が子爵に似ている少女である。
ちなみにムワタンテ子爵家の後継者になるであろう男の子はまだ九歳だ。
「ムワタンテ嬢。はじめまして。お父上とは面識があるよ。君のお父上は勉強家で大変立派な方だ。私もいろいろと学ばせてもらっているよ」
メーデルは若い淑女に笑顔で答えた。
「はいっ! 父からもクレアンナート公爵閣下のお話をよく聞きます。クレアンナート公爵閣下は真面目で実直で領民に優しい方だと父は大変褒めていました」
「ハハハ。そうか。そのように見てくれる者もいるのか。五年か……、頑張ってきた甲斐があったというものだ」
メーデルは本当に嬉しく思っていた。思わず口角が上がる。
「お気を悪くなさらないでいただきたいのですが……」
メーデルはライラリンネに誤解されたかもしれないと慌てた。昔ほど表情に出さなくなったことで不機嫌かと思われることがこれまで一度や二度ではない。それでも微笑んでしまったと自覚しているメーデルはどう答えていいかわからず、ライラリンネの次句を待った。
ライラリンネは揺れることのないまっすぐな瞳をメーデルにぶつけた。『お気を悪くなさらないで』と前振りをしてはいるが、後ろめたいことは何もないということだとメーデルは判断し、キチンと聞く姿勢をとった。
「実はわたくしの姉はクレアンナート公爵閣下の妃候補試験を受けておりました。王妃陛下から『准淑女の称号』をいただいたと今でも話をしております」
メーデルは久しぶりに聞いた昔の恥ずかしい話に心は動揺した。
この五年でポーカーフェイスも板についているメーデルは、動揺した心を見せることなく何食わぬ顔で返答した。
「そうか。あれ以来女性たちの活躍が目覚ましいな。とても素晴らしいことだと思っているよ。気を悪くするなど、とんでもない。
君の姉上も活躍なさっているのかな?」
メーデルはムワタンテ子爵から長女のことは聞き及んでいたが、ライラリンネの話を遮ることなく聞いていた。
「姉は王宮メイドに採用され、四年前に侯爵様のご次男様で高官をなさっている方と婚姻いたしました。お義兄様は准男爵となりましたの」
これもムワタンテ子爵から破顔しながらすでに報告されている。先月には子供も生まれたそうだ。その夫は二年前に優秀な高官として准男爵位を賜った。
准男爵位は本来一代限りの爵位だが、この国では、子孫が部局にかかわらず高官となり国に貢献すれば、爵位を世襲できるようになっている。騎士爵も同じだ。
准男爵は領地を持つわけではないが、爵位があれば学園にも通えるし、信用も桁違いだし、就職もしやすい。多少だが毎月爵位金が給料に上乗せされる。
閑話休題
メーデルはライラリンネの話を始めて聞いた話のように頷きながら楽しげに聞いている。
「そうか。王宮メイドとは。それは優秀な姉上なのだな。義兄上も優秀なようだ」
「はい。自慢の姉夫婦ですわ。
その姉が勉強した『王妃陛下の勉強会』なのですが、来年度に三回目が行われます。ご存知ですか?」
両陛下は女性たちの躍進を望み、勉強会を続行することにした。三年に一度、定員は四十名。入会試験を行い四十名を決める。学園卒業生の部二十名、学園生の部二十名だ。
期間は一年間で、学園をすでに卒業している女性たちは昼間に、学園生たちは夕方から夜に授業がある。毎月のテストはあるが、余程でない限り落ちることはない。なにせ、入会試験があるので入会した時点である程度優秀であり、心構えもできているので不真面目な者など皆無だ。
最終試験の結果で、『淑女の称号』または『准淑女の称号』を得ることができる。
文官や騎士たちの要望により、補習会も行われた。王妃陛下の機転で、婚約者のいる女性といない女性がわかるように胸に小さなリボンをしている。
かといって、婚約者がいるかいないかで差別するような男性はすぐに女性たちから嫌われるので、婚約者がいるからといって補習会で冷遇されることはなかった。
メーデルは勉強会が続いていることは国にとっていいことだと思っている。
「そのようだね。三年前の淑女たちも王城や王宮、領地経営などで活躍していると聞いているよ」
「わたくし、来年度は学園の三学年になりますの。学園生の部に申し込む予定でおります」
「ほぉ。入会者は試験制になったのだったな。ムワタンテ嬢は優秀なのだな」
メーデルは素直にライラリンネに感心している。
そんなメーデルが一人になったタイミングでうら若き女性から声をかけられた。
「クレアンナート公爵閣下。はじめまして。わたくし、ムワタンテ子爵家が次女ライラリンネと申します」
ムワタンテ子爵領はクレアンナート公爵領の隣で、メーデルもムワタンテ子爵とは気候が似ていることからよく農地の話などをしていた。そう言われれば、黄緑がかった髪に優しいブラウンの瞳がムワタンテ子爵と同じで、可愛らしい目元が子爵に似ている少女である。
ちなみにムワタンテ子爵家の後継者になるであろう男の子はまだ九歳だ。
「ムワタンテ嬢。はじめまして。お父上とは面識があるよ。君のお父上は勉強家で大変立派な方だ。私もいろいろと学ばせてもらっているよ」
メーデルは若い淑女に笑顔で答えた。
「はいっ! 父からもクレアンナート公爵閣下のお話をよく聞きます。クレアンナート公爵閣下は真面目で実直で領民に優しい方だと父は大変褒めていました」
「ハハハ。そうか。そのように見てくれる者もいるのか。五年か……、頑張ってきた甲斐があったというものだ」
メーデルは本当に嬉しく思っていた。思わず口角が上がる。
「お気を悪くなさらないでいただきたいのですが……」
メーデルはライラリンネに誤解されたかもしれないと慌てた。昔ほど表情に出さなくなったことで不機嫌かと思われることがこれまで一度や二度ではない。それでも微笑んでしまったと自覚しているメーデルはどう答えていいかわからず、ライラリンネの次句を待った。
ライラリンネは揺れることのないまっすぐな瞳をメーデルにぶつけた。『お気を悪くなさらないで』と前振りをしてはいるが、後ろめたいことは何もないということだとメーデルは判断し、キチンと聞く姿勢をとった。
「実はわたくしの姉はクレアンナート公爵閣下の妃候補試験を受けておりました。王妃陛下から『准淑女の称号』をいただいたと今でも話をしております」
メーデルは久しぶりに聞いた昔の恥ずかしい話に心は動揺した。
この五年でポーカーフェイスも板についているメーデルは、動揺した心を見せることなく何食わぬ顔で返答した。
「そうか。あれ以来女性たちの活躍が目覚ましいな。とても素晴らしいことだと思っているよ。気を悪くするなど、とんでもない。
君の姉上も活躍なさっているのかな?」
メーデルはムワタンテ子爵から長女のことは聞き及んでいたが、ライラリンネの話を遮ることなく聞いていた。
「姉は王宮メイドに採用され、四年前に侯爵様のご次男様で高官をなさっている方と婚姻いたしました。お義兄様は准男爵となりましたの」
これもムワタンテ子爵から破顔しながらすでに報告されている。先月には子供も生まれたそうだ。その夫は二年前に優秀な高官として准男爵位を賜った。
准男爵位は本来一代限りの爵位だが、この国では、子孫が部局にかかわらず高官となり国に貢献すれば、爵位を世襲できるようになっている。騎士爵も同じだ。
准男爵は領地を持つわけではないが、爵位があれば学園にも通えるし、信用も桁違いだし、就職もしやすい。多少だが毎月爵位金が給料に上乗せされる。
閑話休題
メーデルはライラリンネの話を始めて聞いた話のように頷きながら楽しげに聞いている。
「そうか。王宮メイドとは。それは優秀な姉上なのだな。義兄上も優秀なようだ」
「はい。自慢の姉夫婦ですわ。
その姉が勉強した『王妃陛下の勉強会』なのですが、来年度に三回目が行われます。ご存知ですか?」
両陛下は女性たちの躍進を望み、勉強会を続行することにした。三年に一度、定員は四十名。入会試験を行い四十名を決める。学園卒業生の部二十名、学園生の部二十名だ。
期間は一年間で、学園をすでに卒業している女性たちは昼間に、学園生たちは夕方から夜に授業がある。毎月のテストはあるが、余程でない限り落ちることはない。なにせ、入会試験があるので入会した時点である程度優秀であり、心構えもできているので不真面目な者など皆無だ。
最終試験の結果で、『淑女の称号』または『准淑女の称号』を得ることができる。
文官や騎士たちの要望により、補習会も行われた。王妃陛下の機転で、婚約者のいる女性といない女性がわかるように胸に小さなリボンをしている。
かといって、婚約者がいるかいないかで差別するような男性はすぐに女性たちから嫌われるので、婚約者がいるからといって補習会で冷遇されることはなかった。
メーデルは勉強会が続いていることは国にとっていいことだと思っている。
「そのようだね。三年前の淑女たちも王城や王宮、領地経営などで活躍していると聞いているよ」
「わたくし、来年度は学園の三学年になりますの。学園生の部に申し込む予定でおります」
「ほぉ。入会者は試験制になったのだったな。ムワタンテ嬢は優秀なのだな」
メーデルは素直にライラリンネに感心している。
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