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第一章 本編
21 女性高官は……
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メイド試験は十六人が応募していた。
翌日の二次試験の前にメイド長からお話があった。
「みなさん、一次試験合格おめでとう。
しかし、わたくしとしては大変残念なのですが、王宮の予算として、この中から六名しか採用できません」
人数制限があるだろうということはみなが予想していたので、動揺は見られなかった。
「ですから、採用できなかった十人の方には、王妃陛下からの推薦状をお付けします。
推薦状はどこででもお使いいただけますが、現在すでに公爵家から二家、侯爵家から四家の採用希望が届いております」
淑女たちは喜色めいて笑顔になった。王宮ほどではないが、公爵家侯爵家のメイドに採用されることは親類などの繋がりを全く持たない下位貴族令嬢には難しいことなのだ。
「ただし、王妃陛下のお名前でお仕事をなさることをわかった上で、その推薦状を受け取ってください。
二次試験の結果発表は明日行います。推薦状も明日お渡しいたします」
「「「はい。メイド長様」」」
淑女たちは真剣な面持ちで返事をした。
「では、お一人ずつ呼びますので、呼ばれた方は隣室にいらしてください。
こちらにいる間はお話をしていただいて結構ですよ。社交として、親睦を深めよき友人を作ることも大切ですからね」
メイド長は立ち上がり隣室へと赴いた。
〰️ 〰️
女性高官試験を受けたのは、ラビオナとアリーナ・サバライト侯爵令嬢とノエリエラ・パーミル子爵令嬢とミゼレッタ・クイシャス伯爵令嬢だった。
ノエリエラ・パーミルは二年前に学園を卒業した二十歳。今回は『准淑女の称号』を受けた。恋より本が好きで、子爵家に戻るより、文官になって王都で暮らした方が本が読めるという理由で文官を希望するような才女だ。ただし、メイドが行う仕事は苦手だ。
ミゼレッタ・クイシャスは現在学園の二年生で、十七歳。婚約者は三年前に病で儚くなった。仲の良い幼なじみだったのでなかなかのショックであり、次の婚約には前向きになれていない。ミゼレッタも『准淑女の称号』だ。
ラビオナを含めた四人の淑女は長方形のテーブルに並んで座り、その反対側に文官とあの高官、そしてラビオナの兄が座っている。
「私は今回の授業とテストに関わってまいりましたので、みなさんの人となりはずっと見せていただいておりました。ですから、二次試験は行ないません。
みなさんを合格とさせていただきます」
「「「「ありがとうございます」」」」
「クイシャス嬢の採用までは1年間ありますので、採用口が増えているかもしれませんし、クイシャス嬢の希望も変わるかもしれませんので、今は決めないでおきましょう」
「はい。ご配慮いただきましてありがとうございます」
ミゼレッタが幼さの残る笑顔で答えた。
「サバライト嬢とパーミル嬢の希望は、総務ということでよろしいですか?」
「「はいっ!」」
「では。こちらは総務高官のネビルード・テレエルです」
紹介されたラビオナの兄が笑顔で二人を見た。
「貴女たちのような優秀な人材を得ることができ、嬉しく思います。本来四週間後から仕事初めなのですが、今まで女性目線のない職場なので、いろいろと不都合が出てくると思います。その不都合の対処と新人研修を同時に行うことは難しいのです。
なので、お二人には三週間後から職場に来ていただけると助かるのですがどうですか?」
「わたくしは大丈夫ですわ」
「わたくしは……」
ノエリエラが口籠る。
「なんでも言ってください」
ネビルードが優しく声をかけた。
「はい。王都にタウンハウスがないのです。まだアパートも決めておりません」
ノエリエラは子爵令嬢だ。王城勤務をしていない下位貴族は、タウンハウス持たないことは普通だ。社交会シーズンは屋敷を賃貸したり、宿屋を数室借りたりしてまかなう。
「なるほど。領地との往復は大変ですね。今はどちらに?」
「王妃陛下がこのテスト期間は宿屋を貸し切っているのですよ」
高官が代わりに答えた。
「そうでしたか。では、総務のお金でパーミル嬢のお部屋を借り続けましょう。その間にパーミル嬢のアパートを決めましょう」
「メイド部屋を使っていただける予定です。あと三日もすれば使えるそうです」
高官の言葉にネビルードが頷く。
「パーミル嬢。職場の寮だとお考えください。給与から料金は引かれますが、食事も三食出されます。貴女がお嫌でなければ、その部屋はずっとお使いいただいていいですよ」
ノエリエラは笑顔になった。一人でのアパート暮らしは正直なところ不安があった。子爵令嬢なので、着替えや身支度は自分でできるが、食事作りなどは少ししかできない。仕事を始めてみなくては、掃除もできるかはわからない。特にノエリエラはその手のことは苦手だと自覚している。両親に頼んで初めの数ヶ月は通いのメイドをつけてもらう予定でいた。
「大変嬉しいです。是非お願いします!」
メイド部屋といっても王宮内だし、個室だ。学生寮の個室より広いし、家具も整っている。食事もついているとなれば、喜んで入寮する。
「親御様との連絡は大丈夫ですか?」
「はいっ! 今は王都の宿でこの結果報告を待ってくれています」
「そうでしたか。ではあと三日は今までのお部屋を使ってください。三日後の朝、メイドに迎えに行ってもらいますね。
顔を知っていた方がいいね」
ネビルードが壁脇に控えるメイドを呼んだ。
「君、三日後の朝、パーミル嬢を迎えに行って部屋へ案内してもらえるかい?」
「かしこまりました。
パーミル様。カサドラです。よろしくお願いします」
カサドラがノエリエラににっこりとした。
「はいっ! こちらこそ、よろしくお願いします」
ノエリエラは笑顔で頭を下げた。
翌日の二次試験の前にメイド長からお話があった。
「みなさん、一次試験合格おめでとう。
しかし、わたくしとしては大変残念なのですが、王宮の予算として、この中から六名しか採用できません」
人数制限があるだろうということはみなが予想していたので、動揺は見られなかった。
「ですから、採用できなかった十人の方には、王妃陛下からの推薦状をお付けします。
推薦状はどこででもお使いいただけますが、現在すでに公爵家から二家、侯爵家から四家の採用希望が届いております」
淑女たちは喜色めいて笑顔になった。王宮ほどではないが、公爵家侯爵家のメイドに採用されることは親類などの繋がりを全く持たない下位貴族令嬢には難しいことなのだ。
「ただし、王妃陛下のお名前でお仕事をなさることをわかった上で、その推薦状を受け取ってください。
二次試験の結果発表は明日行います。推薦状も明日お渡しいたします」
「「「はい。メイド長様」」」
淑女たちは真剣な面持ちで返事をした。
「では、お一人ずつ呼びますので、呼ばれた方は隣室にいらしてください。
こちらにいる間はお話をしていただいて結構ですよ。社交として、親睦を深めよき友人を作ることも大切ですからね」
メイド長は立ち上がり隣室へと赴いた。
〰️ 〰️
女性高官試験を受けたのは、ラビオナとアリーナ・サバライト侯爵令嬢とノエリエラ・パーミル子爵令嬢とミゼレッタ・クイシャス伯爵令嬢だった。
ノエリエラ・パーミルは二年前に学園を卒業した二十歳。今回は『准淑女の称号』を受けた。恋より本が好きで、子爵家に戻るより、文官になって王都で暮らした方が本が読めるという理由で文官を希望するような才女だ。ただし、メイドが行う仕事は苦手だ。
ミゼレッタ・クイシャスは現在学園の二年生で、十七歳。婚約者は三年前に病で儚くなった。仲の良い幼なじみだったのでなかなかのショックであり、次の婚約には前向きになれていない。ミゼレッタも『准淑女の称号』だ。
ラビオナを含めた四人の淑女は長方形のテーブルに並んで座り、その反対側に文官とあの高官、そしてラビオナの兄が座っている。
「私は今回の授業とテストに関わってまいりましたので、みなさんの人となりはずっと見せていただいておりました。ですから、二次試験は行ないません。
みなさんを合格とさせていただきます」
「「「「ありがとうございます」」」」
「クイシャス嬢の採用までは1年間ありますので、採用口が増えているかもしれませんし、クイシャス嬢の希望も変わるかもしれませんので、今は決めないでおきましょう」
「はい。ご配慮いただきましてありがとうございます」
ミゼレッタが幼さの残る笑顔で答えた。
「サバライト嬢とパーミル嬢の希望は、総務ということでよろしいですか?」
「「はいっ!」」
「では。こちらは総務高官のネビルード・テレエルです」
紹介されたラビオナの兄が笑顔で二人を見た。
「貴女たちのような優秀な人材を得ることができ、嬉しく思います。本来四週間後から仕事初めなのですが、今まで女性目線のない職場なので、いろいろと不都合が出てくると思います。その不都合の対処と新人研修を同時に行うことは難しいのです。
なので、お二人には三週間後から職場に来ていただけると助かるのですがどうですか?」
「わたくしは大丈夫ですわ」
「わたくしは……」
ノエリエラが口籠る。
「なんでも言ってください」
ネビルードが優しく声をかけた。
「はい。王都にタウンハウスがないのです。まだアパートも決めておりません」
ノエリエラは子爵令嬢だ。王城勤務をしていない下位貴族は、タウンハウス持たないことは普通だ。社交会シーズンは屋敷を賃貸したり、宿屋を数室借りたりしてまかなう。
「なるほど。領地との往復は大変ですね。今はどちらに?」
「王妃陛下がこのテスト期間は宿屋を貸し切っているのですよ」
高官が代わりに答えた。
「そうでしたか。では、総務のお金でパーミル嬢のお部屋を借り続けましょう。その間にパーミル嬢のアパートを決めましょう」
「メイド部屋を使っていただける予定です。あと三日もすれば使えるそうです」
高官の言葉にネビルードが頷く。
「パーミル嬢。職場の寮だとお考えください。給与から料金は引かれますが、食事も三食出されます。貴女がお嫌でなければ、その部屋はずっとお使いいただいていいですよ」
ノエリエラは笑顔になった。一人でのアパート暮らしは正直なところ不安があった。子爵令嬢なので、着替えや身支度は自分でできるが、食事作りなどは少ししかできない。仕事を始めてみなくては、掃除もできるかはわからない。特にノエリエラはその手のことは苦手だと自覚している。両親に頼んで初めの数ヶ月は通いのメイドをつけてもらう予定でいた。
「大変嬉しいです。是非お願いします!」
メイド部屋といっても王宮内だし、個室だ。学生寮の個室より広いし、家具も整っている。食事もついているとなれば、喜んで入寮する。
「親御様との連絡は大丈夫ですか?」
「はいっ! 今は王都の宿でこの結果報告を待ってくれています」
「そうでしたか。ではあと三日は今までのお部屋を使ってください。三日後の朝、メイドに迎えに行ってもらいますね。
顔を知っていた方がいいね」
ネビルードが壁脇に控えるメイドを呼んだ。
「君、三日後の朝、パーミル嬢を迎えに行って部屋へ案内してもらえるかい?」
「かしこまりました。
パーミル様。カサドラです。よろしくお願いします」
カサドラがノエリエラににっこりとした。
「はいっ! こちらこそ、よろしくお願いします」
ノエリエラは笑顔で頭を下げた。
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