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第一章 本編
7 学園の秩序は……
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胸を撫で下ろした様子のノエルダムを見て、コームチア公爵はさらに笑顔を増した。
「いやぁ。お前の婿入り先を見つけるのに三週間もかかってしまったよ。だが、無事に見つかってよかったよかった。ハッハッハ」
「まあ! それはおめでとうございます」
ヘレナーシャはコームチア公爵にニッコリとして頭を下げた。ノエルダムは予想と違う話に真っ青になっている。
「でも、まさか婚約破棄をご存知なかったとは思いませんでしたわ」
「ノエルダムをびっくりさせたくてなぁ。婿入り先が見つかるまで、婚約を破棄されたことは隠しておいたんだ。わっはっは」
コームチア公爵の確信犯であったことに野次馬たちはゾッとした。新しい婚約者への興味と恐怖が頭を巡る。
コームチア公爵は壮年ながら美形紳士笑顔でヘレナーシャに語りかけた。
「ヘレナーシャ嬢。その節は色々と申し訳なかったね。その後、おモテになっているそうじゃないか」
女子生徒たちはゴクリとつばを飲んだ。しかし、ノエルダムと婚約者であったため見慣れているヘレナーシャは気にも止めない。
「ふふふ、騎士団の方々が多いのですが、みなさま真摯で誠実で一途のようですわ。まずはお父様が選定してくれておりますの」
ヘレナーシャの父親エッセリウム伯爵は、騎士団で副団長をしている。その家への婿入りだ。ヘレナーシャには騎士団所属の高位貴族次男三男からの釣書が山のように来ていた。
「そうか。女性にとって男が一途であることは幸せの必須であろうな。
そんなこともできぬ愚息でなぁ。困ったものだ」
「お、俺は……何もしてい、いない……」
「おいおい、市井で肩を組んで歩き、自慢して回っていたそうじゃないか?」
コームチア公爵は困った子供に話しかけるようにゆっくりと話した。
「寮でもお前が、シエラ嬢の部屋の窓から出てくるところをな、掃除婦が見ているぞぉ。お前を見たのは、長期休み限定の掃除婦だったそうだ。それで、報告が遅れたようだがなぁ」
コームチア公爵は、ウデルタとユリティナの婚約破棄を不審に思い調べた。するとノエルダムもウデルタと同じような状態だったのだ。
コームチア公爵はエッセリウム伯爵―ヘレナーシャの家―に平謝りし、相当の賠償金を払いコームチア公爵家の有責として婚約破棄をしてもらった。
エッセリウム伯爵はヘレナーシャに婚約破棄という醜聞があっても、ヘレナーシャならよい婚約者は見つかるとの自信があった。
「「「ひっ!」」」
野次馬の女子生徒たちから悲鳴が漏れた。女子寮には、淑女を守るために男子禁制の規則があるのだ。シエラの部屋は一階であるとはいえ男子禁制の寮に男子が入っていたことに、女子生徒たちは驚き恐怖を感じた。
「まさか我が家から学園のルールも守れず、学園の秩序を乱す者が出るとは思わなかったよ。はぁ、恥ずかしい。
学園にも謝罪として多額の寄付をした。女子寮のまわりに侵入防止柵を付けてもらうことにしたんだ」
コームチア公爵は『困った困った』と頭を振った。確かに宰相という立場は率先してルールを破っていいわけはない。また女子寮だけでもなかなか大きく、それを囲う柵となると多額になることは容易に考えられた。
「で、でも……不純な行為は……しておりません……」
ノエルダムは両手を額の前で組み懇願する仕草で、わかってほしいというように呟く。
「女性の純潔は検査でわかっても、男の不貞は調べようがないだろう? それに、シエラ嬢も純潔ではないようだしな。それを散らした者がお前でないと言い切れないだろう?」
シエラが純潔でないだろうということはメーデルのことがあるので予想していたことだが、野次馬たちはざわざわと噂する。シエラはメーデルの後ろに隠れてコームチア公爵の視線から逃げた。
「お前は体がデカいだけで勉学を嫌う。だから副団長殿の婿養子にしていただく予定だったのにな。副団長殿は領地経営は優秀な管理人にさせているそうだから、お前でも務まると思ったのだ」
ノエルダムは学術はCクラスである。武術はAクラスであるので、宰相家としては変わり種だ。ノエルダムは次男であり、長男はすでに宰相補佐官をしている。ノエルダムは卒業後騎士団に所属する予定であった。
「とにかく、支度は済ませた。我が家に学園の秩序を乱す輩は置いておけぬ。宰相一家が秩序を守れぬなど政治腐敗の始まりになりかねんからな。
騎士団でも団員がそれでは困っただろうしな。
仕事に就く前に気がついてよかったよかった」
ウンウンと頷きながら話すコームチア公爵は素晴らしい笑顔だ。
ノエルダムの目はすでに死人である。
「ヨベリス前南方辺境伯殿の未亡人様がお前を引き取ってくれることになったのだ。ルールを守ることも婚約者を慮ることもできぬお前でも、根気強く矯正してくれるそうだ。ありがたいな」
コームチア公爵がヨベリス未亡人の広い心を思い、感謝の念で本当に優しい目をした。周りは逆にそれが怖いと思った。
「いやぁ。お前の婿入り先を見つけるのに三週間もかかってしまったよ。だが、無事に見つかってよかったよかった。ハッハッハ」
「まあ! それはおめでとうございます」
ヘレナーシャはコームチア公爵にニッコリとして頭を下げた。ノエルダムは予想と違う話に真っ青になっている。
「でも、まさか婚約破棄をご存知なかったとは思いませんでしたわ」
「ノエルダムをびっくりさせたくてなぁ。婿入り先が見つかるまで、婚約を破棄されたことは隠しておいたんだ。わっはっは」
コームチア公爵の確信犯であったことに野次馬たちはゾッとした。新しい婚約者への興味と恐怖が頭を巡る。
コームチア公爵は壮年ながら美形紳士笑顔でヘレナーシャに語りかけた。
「ヘレナーシャ嬢。その節は色々と申し訳なかったね。その後、おモテになっているそうじゃないか」
女子生徒たちはゴクリとつばを飲んだ。しかし、ノエルダムと婚約者であったため見慣れているヘレナーシャは気にも止めない。
「ふふふ、騎士団の方々が多いのですが、みなさま真摯で誠実で一途のようですわ。まずはお父様が選定してくれておりますの」
ヘレナーシャの父親エッセリウム伯爵は、騎士団で副団長をしている。その家への婿入りだ。ヘレナーシャには騎士団所属の高位貴族次男三男からの釣書が山のように来ていた。
「そうか。女性にとって男が一途であることは幸せの必須であろうな。
そんなこともできぬ愚息でなぁ。困ったものだ」
「お、俺は……何もしてい、いない……」
「おいおい、市井で肩を組んで歩き、自慢して回っていたそうじゃないか?」
コームチア公爵は困った子供に話しかけるようにゆっくりと話した。
「寮でもお前が、シエラ嬢の部屋の窓から出てくるところをな、掃除婦が見ているぞぉ。お前を見たのは、長期休み限定の掃除婦だったそうだ。それで、報告が遅れたようだがなぁ」
コームチア公爵は、ウデルタとユリティナの婚約破棄を不審に思い調べた。するとノエルダムもウデルタと同じような状態だったのだ。
コームチア公爵はエッセリウム伯爵―ヘレナーシャの家―に平謝りし、相当の賠償金を払いコームチア公爵家の有責として婚約破棄をしてもらった。
エッセリウム伯爵はヘレナーシャに婚約破棄という醜聞があっても、ヘレナーシャならよい婚約者は見つかるとの自信があった。
「「「ひっ!」」」
野次馬の女子生徒たちから悲鳴が漏れた。女子寮には、淑女を守るために男子禁制の規則があるのだ。シエラの部屋は一階であるとはいえ男子禁制の寮に男子が入っていたことに、女子生徒たちは驚き恐怖を感じた。
「まさか我が家から学園のルールも守れず、学園の秩序を乱す者が出るとは思わなかったよ。はぁ、恥ずかしい。
学園にも謝罪として多額の寄付をした。女子寮のまわりに侵入防止柵を付けてもらうことにしたんだ」
コームチア公爵は『困った困った』と頭を振った。確かに宰相という立場は率先してルールを破っていいわけはない。また女子寮だけでもなかなか大きく、それを囲う柵となると多額になることは容易に考えられた。
「で、でも……不純な行為は……しておりません……」
ノエルダムは両手を額の前で組み懇願する仕草で、わかってほしいというように呟く。
「女性の純潔は検査でわかっても、男の不貞は調べようがないだろう? それに、シエラ嬢も純潔ではないようだしな。それを散らした者がお前でないと言い切れないだろう?」
シエラが純潔でないだろうということはメーデルのことがあるので予想していたことだが、野次馬たちはざわざわと噂する。シエラはメーデルの後ろに隠れてコームチア公爵の視線から逃げた。
「お前は体がデカいだけで勉学を嫌う。だから副団長殿の婿養子にしていただく予定だったのにな。副団長殿は領地経営は優秀な管理人にさせているそうだから、お前でも務まると思ったのだ」
ノエルダムは学術はCクラスである。武術はAクラスであるので、宰相家としては変わり種だ。ノエルダムは次男であり、長男はすでに宰相補佐官をしている。ノエルダムは卒業後騎士団に所属する予定であった。
「とにかく、支度は済ませた。我が家に学園の秩序を乱す輩は置いておけぬ。宰相一家が秩序を守れぬなど政治腐敗の始まりになりかねんからな。
騎士団でも団員がそれでは困っただろうしな。
仕事に就く前に気がついてよかったよかった」
ウンウンと頷きながら話すコームチア公爵は素晴らしい笑顔だ。
ノエルダムの目はすでに死人である。
「ヨベリス前南方辺境伯殿の未亡人様がお前を引き取ってくれることになったのだ。ルールを守ることも婚約者を慮ることもできぬお前でも、根気強く矯正してくれるそうだ。ありがたいな」
コームチア公爵がヨベリス未亡人の広い心を思い、感謝の念で本当に優しい目をした。周りは逆にそれが怖いと思った。
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