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26 サビマナの帰還
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メイドがお茶を淹れ、レンエールは執務机からソファへ移動した。その際、立っていたネイベット侯爵も誘う。
メイドは二人分のお茶とお茶菓子をセットすると部屋から下がった。主人のことをよく理解しているできたメイドである。
「明日にでも領地の屋敷にも人を向かわせてくれ」
「そちらは大丈夫です」
「そうなのか?」
「はい。新たに雇われた執事は私の手の者なので、家財の売買はさせません」
「…………よく採用されたな」
「何人かを介して執事の方に紹介させましたので」
「身分も確認せずに採用されたのか?」
「そのようです。一応、准男爵の次男という仮の身分を与えておきましたが、問い合わせはなかったと聞いております」
「人事までいい加減であるとは……。よく今まで領地の経営などできたものだな」
「前男爵はなかなかの手腕だったようです。その方も五年前に亡くなり、そこからは年々納税も減っているそうです」
「それも最近雇われた執事からの報告か?」
納税額がわかるのは政務局だ。王宮総務局が知るはずはない。
「はい。帳簿など隠すつもりもないようです」
「なるほどな。誤魔化さないだけましか」
「それはありますが、このままでは領民は守れません。それは貴族としていかがなものかと……」
「そうだな……。子息は?」
「男爵と血縁ではありますが、現夫人の子で、三年前まで平民です。領民経営など学んではおりません。文字の読み書きも覚束ないかと」
「「はぁ……」」
レンエールとネイベット侯爵は自分を落ち着かせるかのようにお茶菓子を頬張った。
「とりあえず、王都の屋敷売却で父上から恩情をいただければよいが……」
「そうですね。隠し通せるとは考えにくいですからね」
レンエールは決してボーラン男爵一家を憎くて軟禁の上、屋敷売却を考えたわけではない。少しでも咎を少なくしてやりたいとの想いからだ。ネイベット侯爵もレンエールの想いをわかっていて、ボーラン男爵への演技にもその後の処理にも付き合っている。
ボーラン男爵一家の行いは無知故にやってしまったことであるが、貴族としてはそれが理由でも許されるわけではない。そして、政治の中枢にいる者として、それを見逃すわけにもいかない。
〰️ 〰️ 〰️
ボーラン男爵一家が軟禁された翌日、離宮から早馬が来た。
レンエールがいないことにサビマナが癇癪を起こし、とうとう抑えきれなくなったので王都へ帰ってくるという連絡だった。
レンエールもネイベット侯爵もそろそろだろうと覚悟していたことだったので、すんなりと受け入れられた。
しかし、さらに翌日にもたらされた内容にはさすがのレンエールも青ざめた。
サビマナたちは王都までの道で、王都からほど近い町で昼休憩をしていた。その時、ある男がサビマナを攫おうとして護衛に捕縛された。
その男は、レンエールのクラスメートで、レンエールの側近候補と言われていた者であったのだ。
その男は王城へ来た時には後ろ手に縛られていたが、レンエールによって身柄の確認をされ客室に軟禁されることになった。
レンエールは随伴していた護衛騎士やメイドたちに話を聞いた後、その男を自身の執務室へ呼んだ。
その男がレンエールの執務室へ入ってくるとソファにいたサビマナが立ち上がりその男に駆け寄った。
「ゾフィ! 大丈夫?」
ゾフキロ・ムアコル。ムアコル侯爵家三男。ムアコル侯爵は騎士団の団長である。赤みの入った茶髪はレンエールが知るより短くなっていた。それにいつもなら凛々しい吊り目がちな赤み入った黒目は少し虚ろだ。
「ゾフィ。そこに座ってくれ」
レンエールはソファに座るよう指示した。サビマナとゾフキロはソファまで来ると二人掛けに並んで座った。レンエールは一人掛けのソファに座っている。
しかし、レンエールはそれを咎めたりしなかった。
「ゾフィ。久しぶりだな。元気だったか?」
今までと同じように話を始めたレンエールに対してゾフキロは驚きを隠せなかった。
メイドは二人分のお茶とお茶菓子をセットすると部屋から下がった。主人のことをよく理解しているできたメイドである。
「明日にでも領地の屋敷にも人を向かわせてくれ」
「そちらは大丈夫です」
「そうなのか?」
「はい。新たに雇われた執事は私の手の者なので、家財の売買はさせません」
「…………よく採用されたな」
「何人かを介して執事の方に紹介させましたので」
「身分も確認せずに採用されたのか?」
「そのようです。一応、准男爵の次男という仮の身分を与えておきましたが、問い合わせはなかったと聞いております」
「人事までいい加減であるとは……。よく今まで領地の経営などできたものだな」
「前男爵はなかなかの手腕だったようです。その方も五年前に亡くなり、そこからは年々納税も減っているそうです」
「それも最近雇われた執事からの報告か?」
納税額がわかるのは政務局だ。王宮総務局が知るはずはない。
「はい。帳簿など隠すつもりもないようです」
「なるほどな。誤魔化さないだけましか」
「それはありますが、このままでは領民は守れません。それは貴族としていかがなものかと……」
「そうだな……。子息は?」
「男爵と血縁ではありますが、現夫人の子で、三年前まで平民です。領民経営など学んではおりません。文字の読み書きも覚束ないかと」
「「はぁ……」」
レンエールとネイベット侯爵は自分を落ち着かせるかのようにお茶菓子を頬張った。
「とりあえず、王都の屋敷売却で父上から恩情をいただければよいが……」
「そうですね。隠し通せるとは考えにくいですからね」
レンエールは決してボーラン男爵一家を憎くて軟禁の上、屋敷売却を考えたわけではない。少しでも咎を少なくしてやりたいとの想いからだ。ネイベット侯爵もレンエールの想いをわかっていて、ボーラン男爵への演技にもその後の処理にも付き合っている。
ボーラン男爵一家の行いは無知故にやってしまったことであるが、貴族としてはそれが理由でも許されるわけではない。そして、政治の中枢にいる者として、それを見逃すわけにもいかない。
〰️ 〰️ 〰️
ボーラン男爵一家が軟禁された翌日、離宮から早馬が来た。
レンエールがいないことにサビマナが癇癪を起こし、とうとう抑えきれなくなったので王都へ帰ってくるという連絡だった。
レンエールもネイベット侯爵もそろそろだろうと覚悟していたことだったので、すんなりと受け入れられた。
しかし、さらに翌日にもたらされた内容にはさすがのレンエールも青ざめた。
サビマナたちは王都までの道で、王都からほど近い町で昼休憩をしていた。その時、ある男がサビマナを攫おうとして護衛に捕縛された。
その男は、レンエールのクラスメートで、レンエールの側近候補と言われていた者であったのだ。
その男は王城へ来た時には後ろ手に縛られていたが、レンエールによって身柄の確認をされ客室に軟禁されることになった。
レンエールは随伴していた護衛騎士やメイドたちに話を聞いた後、その男を自身の執務室へ呼んだ。
その男がレンエールの執務室へ入ってくるとソファにいたサビマナが立ち上がりその男に駆け寄った。
「ゾフィ! 大丈夫?」
ゾフキロ・ムアコル。ムアコル侯爵家三男。ムアコル侯爵は騎士団の団長である。赤みの入った茶髪はレンエールが知るより短くなっていた。それにいつもなら凛々しい吊り目がちな赤み入った黒目は少し虚ろだ。
「ゾフィ。そこに座ってくれ」
レンエールはソファに座るよう指示した。サビマナとゾフキロはソファまで来ると二人掛けに並んで座った。レンエールは一人掛けのソファに座っている。
しかし、レンエールはそれを咎めたりしなかった。
「ゾフィ。久しぶりだな。元気だったか?」
今までと同じように話を始めたレンエールに対してゾフキロは驚きを隠せなかった。
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