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21 レンエールの変化
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ネイベット侯爵は言わずにおこうと思っていたことを言うことにした。
「これでも、バザジール公爵家はご自身の館の改修や町の治安部隊配置、特産品の開発費などのお金は殿下に請求しておりませんので、良心的ですよ」
「どういう意味だ?」
俯いたままレンエールは問うた。
「現在、ボーラン男爵家は、領地の開発と銘打ってご自身の館を改修しております」
バザジール公爵の館の話をするとボーラン男爵の悪口に繋がってしまうので、ネイベット侯爵は躊躇していたのだ。
「なっ! 何?」
レンエールは顔を上げてネイベット侯爵を睨んだ。ネイベット侯爵が嘘をついているのではないかと思ったのだ。
睨みつけてくるレンエールにネイベット侯爵はため息を漏らした。
「意味のない領地開発です。文官から事細かく開発の指示をさせたはずですが、それをせずに個人資産にお使いになっています。
その上……」
ネイベット侯爵が口籠る。
「何だっ!」
レンエールはあまりに酷い話にドッと疲れてイライラした。
「ご家族の装いも装飾品を含めて随分とお使いですし、館内にも骨董品などを蒐集しておりました」
「待て待て待て!」
予想以上の話にレンエールは目を瞑り掌を前に出してネイベット侯爵を遮った。
「どこだ? どこからその金が?」
「わたくしがいくらか投資いたしましたが、それ以上のものですね。わたくしが投資した分以外の金はわかりかねます」
レンエールがしばし『うーん……』と考えた。
「ま、まさか……。父上との約定を破ってはいまいな?」
「さあ?」
ネイベット侯爵はあくまで冷静な顔つきで首を傾げた。
「明日、大臣とともに王城へ参る。詳しい調査が必要であるし、ことによっては、父上の判断を仰がなくてはならない」
「かしこまりました。町の宿屋におりますゆえ、お立ち寄りください」
「バローム。大変であろうがサビマナを頼んだぞ」
「あはは。大変なのは私ではなくメイドたちですよ」
「ああ、そうだな。帰ってきたら労わねばな。
サビマナにゴネられても困る。朝早くに出立しよう」
「朝の勉強は?」
「相変わらずだ。ここに来た意味が理解できていないようだ。それもこれも責任の一端は俺にある。わかるまで説いていくしかあるまい」
ネイベット侯爵は勉強を始めてからの四ヶ月で急に思慮深くなったレンエールに心の中で驚嘆していた。
バロームから、サビマナの勉強が進まぬことと、レンエールがバロームによく相談し話を聞くようになったとの報告は受けていた。
自分より劣る者を引き上げるための世話をすることは、心を成長させることに繋がるのかもしれない。
レンエールは、学園ではただただ恋に溺れサビマナに愛を呟くだけであったが、今はサビマナを支え彼女を高めなければならなくなった。
『ノマーリン嬢は優秀すぎたのだな』
ネイベット侯爵はかの美しい令嬢を思い浮かべた。
翌朝日の出とともに、離宮から馬車で二日程かかる王都へ向けて馬車が二台出立した。
〰️
その頃、何も知らされず学園に残った側近候補たちは、急にいなくなりすでに三月も登校しないレンエールとサビマナのことを訝しんでいた。
『『『サビィは、しかたなく殿下と懇意にしていると言っていた。サビィが本当に好きなのは俺なのだ。だが、この状況はきっと殿下と一緒にいるのだろう。サビィは俺と離れてツラい思いをしているに違いない』』』
レンエールの側近候補者たちは個々にそう思っていた。
「これでも、バザジール公爵家はご自身の館の改修や町の治安部隊配置、特産品の開発費などのお金は殿下に請求しておりませんので、良心的ですよ」
「どういう意味だ?」
俯いたままレンエールは問うた。
「現在、ボーラン男爵家は、領地の開発と銘打ってご自身の館を改修しております」
バザジール公爵の館の話をするとボーラン男爵の悪口に繋がってしまうので、ネイベット侯爵は躊躇していたのだ。
「なっ! 何?」
レンエールは顔を上げてネイベット侯爵を睨んだ。ネイベット侯爵が嘘をついているのではないかと思ったのだ。
睨みつけてくるレンエールにネイベット侯爵はため息を漏らした。
「意味のない領地開発です。文官から事細かく開発の指示をさせたはずですが、それをせずに個人資産にお使いになっています。
その上……」
ネイベット侯爵が口籠る。
「何だっ!」
レンエールはあまりに酷い話にドッと疲れてイライラした。
「ご家族の装いも装飾品を含めて随分とお使いですし、館内にも骨董品などを蒐集しておりました」
「待て待て待て!」
予想以上の話にレンエールは目を瞑り掌を前に出してネイベット侯爵を遮った。
「どこだ? どこからその金が?」
「わたくしがいくらか投資いたしましたが、それ以上のものですね。わたくしが投資した分以外の金はわかりかねます」
レンエールがしばし『うーん……』と考えた。
「ま、まさか……。父上との約定を破ってはいまいな?」
「さあ?」
ネイベット侯爵はあくまで冷静な顔つきで首を傾げた。
「明日、大臣とともに王城へ参る。詳しい調査が必要であるし、ことによっては、父上の判断を仰がなくてはならない」
「かしこまりました。町の宿屋におりますゆえ、お立ち寄りください」
「バローム。大変であろうがサビマナを頼んだぞ」
「あはは。大変なのは私ではなくメイドたちですよ」
「ああ、そうだな。帰ってきたら労わねばな。
サビマナにゴネられても困る。朝早くに出立しよう」
「朝の勉強は?」
「相変わらずだ。ここに来た意味が理解できていないようだ。それもこれも責任の一端は俺にある。わかるまで説いていくしかあるまい」
ネイベット侯爵は勉強を始めてからの四ヶ月で急に思慮深くなったレンエールに心の中で驚嘆していた。
バロームから、サビマナの勉強が進まぬことと、レンエールがバロームによく相談し話を聞くようになったとの報告は受けていた。
自分より劣る者を引き上げるための世話をすることは、心を成長させることに繋がるのかもしれない。
レンエールは、学園ではただただ恋に溺れサビマナに愛を呟くだけであったが、今はサビマナを支え彼女を高めなければならなくなった。
『ノマーリン嬢は優秀すぎたのだな』
ネイベット侯爵はかの美しい令嬢を思い浮かべた。
翌朝日の出とともに、離宮から馬車で二日程かかる王都へ向けて馬車が二台出立した。
〰️
その頃、何も知らされず学園に残った側近候補たちは、急にいなくなりすでに三月も登校しないレンエールとサビマナのことを訝しんでいた。
『『『サビィは、しかたなく殿下と懇意にしていると言っていた。サビィが本当に好きなのは俺なのだ。だが、この状況はきっと殿下と一緒にいるのだろう。サビィは俺と離れてツラい思いをしているに違いない』』』
レンエールの側近候補者たちは個々にそう思っていた。
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