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11 朝の勉強時間
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レンエールがサビマナのマナーを指摘しようとしたところ、メイドの一人がレンエールのそばに来た。
「マナーのご指導は明日よりさせていただきます。本日のところは、レンエール殿下におきましては、ボーラン様の現時点でのご様子を心にお止めいただきたく存じます」
レンエールがメイドを見ると、そのメイドはバロームの妻コリンヌだった。黒に近い茶髪をきれいに纏めてお団子にし、水色の瞳はいつでも優しげに垂れている。
レンエールがコリンヌに諭されると不思議と落ち着くのは昔からであった。
『そうだな。数日後にはマナーくらいはわかるようになるだろうから、今日の様子を覚えておいて、できたときに褒めてやることにしよう』
レンエールはコリンヌと目を合わせて頷いた。コリンヌはさらに垂れ目にして微笑んだ。
「すまないな。私が早急すぎたようだ。明日からの活力のためにもたくさん食べてくれ」
「わーい!」
サビマナは大きな口を開けて肉を頬張った。くちゃくちゃと咀嚼の音がする。
レンエールの眉がピクリとしたが、心の中で息を吐き出し、笑顔を取り繕った。
そうしてレンエールがピクピクするのを耐えながら済ませた食事後、サビマナはレンエールをサビマナの部屋でのお茶に誘った。しかし、レンエールは昼間の茶会や今の食事など、マナーについてサビマナに一言と言わず多言述べたいとずっと思ってきたのだ。これ以上見せられたら、思わず言ってしまうだろう。
そう考えたレンエールは、グッと堪えて誘いを断る決断をした。
「明日は四時から勉強が始まる。私達の婚姻のためなんだ。今日は早く寝ることにしよう。
それに寝室での様子も、男爵家とは異なるだろう。メイドにいろいろと教わるといい」
サビマナは唇を尖らせた。
「もうっ! せっかくの初日なのにぃ。
わかったわ。じゃあ、また明日ね」
サビマナが椅子を引かれる前に横向きになって自分で椅子を引き立ち上がった。そしてメイドに誘導されて跳ねるように歩き出し、食事をした客室を出ていった。
それを見送ったレンエールは崩れるようにテーブルに突っ伏した。
「あれでは、私の食欲がなくなってしまう……。お茶といい食事といい、本当に教育を受けた貴族なのか?」
一旦頭をあげて、今日のサビマナの様子を思い出してみた。
「あぁ……テストの結果を思い出し……た……」
レンエールはテーブルに肘を付き頭を抱えて、ブツブツブツブツといつまでも独り言ちていた。
〰️ 〰️ 〰️
翌朝、四時に起床し四時半に勉強部屋となる客室へ赴いたレンエールはキョロキョロと見回した。そこには教師二人とメイド二人がいるだけだった。
「サビマナは?」
メイドが首を横に振る。
「まだいらしておりません」
「そうか。女性の支度は時間がかかるからな」
そこへ別のメイドが入室してきた。先程答えたメイドに耳打ちする。メイドが眉間にシワを寄せてから頷く。
入室してきたメイドはすぐに退室した。
「サビマナ様はまだ起床されておられないそうです。頭から毛布を被り、何をお聞きしてもお答えにならないそうです。
レンエール殿下のお勉強を先に始めてくださいませ」
耳打ちされたメイドは耳打ちされた時とは打って変わり、無表情で報告する。レンエールは眉間に指を当てて頭痛を抑えた。
〰️
朝食までの時間、レンエールは語学の勉強をしてサビマナを待っていたが、結局サビマナは来なかった。
そして朝食をとるため、客室に用意されたテーブルについてしばらくするとようやくサビマナが現れた。
「レン! おはよう! 起きることができなくてごめんね。明日は頑張るわ」
「うん。まだ一日目だ。あまり気にしなくていい」
周りから見たら、『一日目なのだから起きろよ』と思うが、サビマナに甘いレンエールはそれを許してしまった。聞いていたメイドや執事は心の中でため息を零した。
「マナーのご指導は明日よりさせていただきます。本日のところは、レンエール殿下におきましては、ボーラン様の現時点でのご様子を心にお止めいただきたく存じます」
レンエールがメイドを見ると、そのメイドはバロームの妻コリンヌだった。黒に近い茶髪をきれいに纏めてお団子にし、水色の瞳はいつでも優しげに垂れている。
レンエールがコリンヌに諭されると不思議と落ち着くのは昔からであった。
『そうだな。数日後にはマナーくらいはわかるようになるだろうから、今日の様子を覚えておいて、できたときに褒めてやることにしよう』
レンエールはコリンヌと目を合わせて頷いた。コリンヌはさらに垂れ目にして微笑んだ。
「すまないな。私が早急すぎたようだ。明日からの活力のためにもたくさん食べてくれ」
「わーい!」
サビマナは大きな口を開けて肉を頬張った。くちゃくちゃと咀嚼の音がする。
レンエールの眉がピクリとしたが、心の中で息を吐き出し、笑顔を取り繕った。
そうしてレンエールがピクピクするのを耐えながら済ませた食事後、サビマナはレンエールをサビマナの部屋でのお茶に誘った。しかし、レンエールは昼間の茶会や今の食事など、マナーについてサビマナに一言と言わず多言述べたいとずっと思ってきたのだ。これ以上見せられたら、思わず言ってしまうだろう。
そう考えたレンエールは、グッと堪えて誘いを断る決断をした。
「明日は四時から勉強が始まる。私達の婚姻のためなんだ。今日は早く寝ることにしよう。
それに寝室での様子も、男爵家とは異なるだろう。メイドにいろいろと教わるといい」
サビマナは唇を尖らせた。
「もうっ! せっかくの初日なのにぃ。
わかったわ。じゃあ、また明日ね」
サビマナが椅子を引かれる前に横向きになって自分で椅子を引き立ち上がった。そしてメイドに誘導されて跳ねるように歩き出し、食事をした客室を出ていった。
それを見送ったレンエールは崩れるようにテーブルに突っ伏した。
「あれでは、私の食欲がなくなってしまう……。お茶といい食事といい、本当に教育を受けた貴族なのか?」
一旦頭をあげて、今日のサビマナの様子を思い出してみた。
「あぁ……テストの結果を思い出し……た……」
レンエールはテーブルに肘を付き頭を抱えて、ブツブツブツブツといつまでも独り言ちていた。
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翌朝、四時に起床し四時半に勉強部屋となる客室へ赴いたレンエールはキョロキョロと見回した。そこには教師二人とメイド二人がいるだけだった。
「サビマナは?」
メイドが首を横に振る。
「まだいらしておりません」
「そうか。女性の支度は時間がかかるからな」
そこへ別のメイドが入室してきた。先程答えたメイドに耳打ちする。メイドが眉間にシワを寄せてから頷く。
入室してきたメイドはすぐに退室した。
「サビマナ様はまだ起床されておられないそうです。頭から毛布を被り、何をお聞きしてもお答えにならないそうです。
レンエール殿下のお勉強を先に始めてくださいませ」
耳打ちされたメイドは耳打ちされた時とは打って変わり、無表情で報告する。レンエールは眉間に指を当てて頭痛を抑えた。
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朝食までの時間、レンエールは語学の勉強をしてサビマナを待っていたが、結局サビマナは来なかった。
そして朝食をとるため、客室に用意されたテーブルについてしばらくするとようやくサビマナが現れた。
「レン! おはよう! 起きることができなくてごめんね。明日は頑張るわ」
「うん。まだ一日目だ。あまり気にしなくていい」
周りから見たら、『一日目なのだから起きろよ』と思うが、サビマナに甘いレンエールはそれを許してしまった。聞いていたメイドや執事は心の中でため息を零した。
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