【完結】公爵子息の僕の悪夢は現らしいが全力で拒否して大好きな婚約者を守りたい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
33 / 36
学園二年生編

32 登城

しおりを挟む
 翌日、登城すると、まっすぐに王城の国王陛下の執務室へと向かった。国王陛下にすすめられたソファーに腰を下ろす。父上と兄上が僕の両脇でソファーに座る。
 向かい側に座るのは、国王陛下。隣には王妃殿下。その後ろには、ブランドン第一王子とコンラッド第二王子が立っていて、その更に後には知らない人が何人か立っていた。少し離れたところに座る女性は、側妃様かもしれない。

「バージル、気分はどうだ?」

 国王陛下が、まず僕の心配をしてくれる。

「恐れながら、」

「よいよい、今は、畏まって話す必要はない。それより、お前のことをゆっくり聞きたいからな。今日は、親類の集まりだと思え」

 国王陛下の優しい口調。僕は父上の顔を見たら、父上が頷いてくれた。

「はい。気分は、今は大丈夫です」

「そうか。大変だったようだな。そうだなぁ、何から聞けばよいのだろうなぁ」

 国王陛下は、父上の方をチラリと見たが、僕は家族や友人には聞けないことを聞いてみた。

「僕の頭はおかしいのですか?」

 国王陛下は、眉をあげて目を見開いて、もう一度、父上をチラリと見た。父上は何もしないので、国王陛下に任せるという意味だろう。

「なぜ、そう思うのだ?」

「現実みたいな夢をみるのです。まるで動く写真付きで、本を読まされているような。家族や友人は受け入れてくれましたが、それでも、僕は頭がおかしいのだと思うのです」

 僕は目線を下にしたまま、思っていたことを口にした。

「コンラッドに噴水前のベンチに一人で行くなと言ったそうだな。それもそのおかしな夢なのか?」

 国王陛下は、僕が答えやすい質問をしてくれる。

「はい。コンラッドが、あ、コンラッド殿下が、」

「それもよい。お前たちは友達なのだろう」

 僕はコンラッドを見た。コンラッドが頷いてくれる。

「はい。そうです。コンラッドが一人でベンチにいるとシンシア嬢が現れて、コンラッドに何か言うのです。そうすると、コンラッドはシンシア嬢に夢中になってしまいます」

「んー、いいことではないが、恋をしてしまうのは、しかたないとも言えないか?」

 国王陛下のこの発言に、王妃殿下とブランドン第一王子が、国王陛下の膝と肩を『パシリ』と叩いた。

「コンラッドには婚約者がいます。それに、コンラッドの裏切りに嫉妬したマーシャが、シンシア嬢を虐めるようになって、コンラッドがマーシャに婚約破棄を言い渡すのです」

「それが、バージルが見た夢か?」

「えっと、夢自体は、その時に近い場面を見ることが多くて、今の説明は、コンラッドだけをまとめると、そうなっていく予定だったというか…」

「なるほどな。他の者が主役のこともあるというわけだな」

 僕のしどろもどろの話も国王陛下は理解してくれているようだ。

「はい。ウォルのも見ました。だから、ウォルには、中庭で本を読むなって言ったのに、ウォルはそこに行ってしまったのです。次の日には、シンシア嬢とウォルが二人で昼食をしていました。ウォルにそれを、やめてもらうために、ティナとディリックさんを会わせてそれをウォルに見せつけたんです」

「うむ、それはコンラッドからも聞いている。セオドアにも同じようなことだな」

「はい。僕のもありました」

 僕はいつの間にか、国王陛下の目を見て話せるようになっていた。

「4人のうちの誰かが、シンシア嬢と恋をしたら、どうなったのだ?」

「シンシア嬢を階段から突き落としたという冤罪をそれぞれの婚約者にきせて、殺人未遂で市井に落とすことになっていました」

「冤罪なのか?」

「シンシア嬢が、階段から落ちるけど、その恋人になった誰かに助けられて軽症なのは、本当??で、犯人ははっきりしないけど、婚約者だろうという流れだった気がします」

 僕は夢を一生懸命に思い出そうとしていた。

「兄上、バージルとコンラッドたちは、そうなる前に恋をしない方法をとったので、それらは、何も起きておりません」

 父上がフォローをしてくれる。

「おお、そうか。なかなか物語としては、興味があってな、すまんすまん。起きてもいないことを聞いても仕方がないな。わかった。では、ブランドンとアレクシスのことはどうなのだ?」

「ダリアナ嬢に、兄上はもうすぐ死ぬから僕が公爵になるのだと言われました」

「うむ、それは、公爵家路の護衛からも調書がとれている。びっくりしただろう?」

「はい。でも、ダリアナ嬢が僕を狙う理由がわからなかったので、そう思っているからかと、納得するところもありました」

「なるほどな。その前から口説かれていたらしいの」

「はい。しつこいほどに……。そのために、クララをイジメていたし……」

 僕は思い出したら、僕のせいでクララはイジメられたのだと気がついた。

「だが、バージルの婚約者も無事で、伯爵の結婚も離縁できて、よかったな」

 『よかった』そう、結果はそうだ、と僕は思い直して、話を続けた。

「でも、その夜に、兄上が野盗に襲われる夢を見たのです。だから、伯爵邸から家に戻った時に、兄上に護衛を増やしてくれとお願いしました。僕は兄上にそのお願いをするまで、ブランドン殿下が一緒に行くなんて知らなかったから」

「そうだな。結果的に、バージルのお陰で、二人は死んではおらん」

 『二人は死んでいるはずでしょう?』シンシア嬢の言葉が、フラッシュバックして、僕は少し混乱した。

「そう、そのはずなのに、シンシア嬢は、僕が公爵を継ぐかのように言ってきて。それで、それで、僕が公爵を継ぐのを嫌がっているとか、兄上の影に怯えてるとか……。だから、僕は、兄上は生きてるから、僕は公爵にならないって言ったんです!」

 僕は口調が早くなり、少し落ち着かない気持ちになっていくのを抑えられなかった。

「うむ、それで…」

「僕は兄上は生きてるとしか、言ってないのに、シンシア嬢は、なぜか、ブランドン殿下も生きてるのか?って言い出して!ブランドン殿下が生きていたら、コンラッドを落としても王妃になれないとかなんとか、僕にはわけがわからない話でっ!」

 まくしたてるように一人で、話を続けた。

「うむ、その日のブランドンのことは公にはしておらぬが。王妃の座まで言っていたか」

「僕も、ブランドン殿下のことは、セオドアやウォルやクララにも言ってません。なのにっ!!」

「そうだな。知っているのは、おかしいな。
バージル、少し茶でも飲もう」

 紅茶はすでに、冷めていた。メイドが入れ直そうとしたが、僕が一気に飲み干すのを見て、国王陛下は、僕に合わせて、温いままの紅茶を口にした。テーブルにいた3人もそれにならった。

「ふぅ~」

 僕は大きく息を吐いた。

「シンシア嬢のことは、いつから気がついていたのだ?」

「学園の2年生になってから、すぐです。
夢で見たのは、シンシア嬢が僕たちと仲良くすることで僕たちの婚約者に虐められて、それを理由に僕たちは、婚約破棄をするって話だったのです」

「先程のか。その対策をしたのだな」

「そうです。僕は僕たちがシンシア嬢と仲良くならなければ、婚約者たちもシンシア嬢を虐めないし、婚約破棄もないって、考えて……」

「うむ、結果的に正しい判断だったではないか。バージルのアドバイスは適切だっただろう?」

「でも、でも、そうしたら、シンシア嬢は、僕が夢で見なかったようなやり方でコンラッドに近づこうとするし、最後は、シンシア嬢が自分を虐めないマーシャが悪いって、マーシャを襲おうとして。
僕は、僕は、そんなことにまでなるなんて思わなくて。マーシャを、危険な目にあわせるつもりなんて、そんなつもりなんてなかったんです!!」

 僕が少し興奮してしまい、兄上が心配いらないとばかりに背を擦る。

「そうか、不思議な夢を見たもんだな。それも正夢か。大変だったな。そんな不誠実な理由でコンラッドがマーシャとの婚約を破棄なんぞしたら、コンラッドこそが、国外追放であっただろうな。なんといっても、マーシャは公爵令嬢だからな」

 『カタン!』コンラッドが動揺している。

「ブランドンの命を助けてもらったのは、先程の話通りだ。バージルには、息子を二人とも助けてもらった。父として、礼を言う。バージル、感謝する。ありがとう」

 国王陛下と王妃殿下、ブランドン殿下とコンラッドが頭を下げた。僕は父上を見た。

「兄上、王家を守る公爵家として、バージルがしたことは、当たり前のことです。これまでにしてください。バージルもそれでいいな」

「はい。父上」

 僕は父上に頷いてた。

「バージル、頭がおかしいなどと思うな。その力のおかげで助かった者はたくさんいるのだ。神から授かった力だと思え。
まあ、あまり吹聴するのは良くないからな。バージルが信用できる者だけに話すがよいぞ」

「はい。そうします」

「うむ。そうだ!バージル、お前は、マクナイト家に婿入りするのだったな」

「はい」

「マクナイト領の隣に王家の領地がある。それを下賜しよう。領地が拡大するのだ。侯爵に陞爵させよう」

「えっ!」

「バージル、受けておきなさい。結婚祝いだと思えばいい」

「そうだぞ。叔父から甥っ子への結婚祝いだ。結婚式に下賜することにしよう。そして、その後、叙勲式だ。それがいいな」

「は、はい」

「バージル、今度怪しい夢を見たら、コンラッドでもよい、相談いたせ。国が動くことが必要ならば、ワシに相談いたせ。お前の家族はどこよりも頼りになるぞ。家族に相談いたせ。よいな」

「はい」

「それにな、どうやらその力は完璧ではないようだ。だから、その力に溺れることなく、人を頼ることを覚えるのだ。よいな?」

「は、はい…」

 僕の目には涙が溢れてきてしまった。
 
「バージル、忘れるな。ワシは確かに国王である。しかし、お前の叔父でもあるのだ。家族だ。わかるか?」

「は、はい」

 僕は少しだけ泣いていた。父上と兄上が僕の膝に手を乗せてくれる。

「夢のことだけではないぞ。何でも相談してこい。
これからも、コンラッドと仲良くな」

「はい」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...