上 下
30 / 32

29 結婚式

しおりを挟む
 翌日、筋肉痛の体にムチ打ち、生徒会室に男4人で集合した。

「なんだ3人とも。あれくらいで筋肉痛かよ」

 踊らなくてすんだセオドアがカラカラと笑っていた。

「それで、バージルの目眩があったということは、コンラッドはパティリアーナ嬢に惹かれたのですか?」

 ウォルはセオドアを無視した。

「いや、惹かれはしなかったよ。でも、バージルに教えてもらったセリフは言われた」

『わたくしたちの繋がりが国と国との繋がりになりますのよ』これはそのままの意味で、だからこれからも同世代として仲良くしようという話だったようだ。

「『王様でしたら側室を持つこともゆるされますでしょう』でも、マーシャ様を大切にしないとどこからでも飛んできて怒ります」

 コンラッドは、パティリアーナ嬢のマネをしたのだろうが、全く似ていない。

「だから、『僕は王様にならないよ』と言ったんだよ。そうしたらな、『王族には何があるかわからないのです』だって」

 あまり知られていない話だそうだ。もちろん、僕達も知らなかった。
 パティリアーナ王女殿下には、本当は兄が二人いて、一人は小さい頃に毒殺されたそうだ。だからこそ、パティリアーナ嬢の兄はいつも国王陛下と王妃殿下の近くにいたらしい。毒見役など、そうたくさんはいるものではない。

「万が一の時には『あなたが王になるのですよ』公爵になった後でも、外での食事などには気を配らなければなりませんよ」と王族としての心構えの話だったようだ。

「僕よりよほど王族としての心構えをご存知の方だったよ」

 コンラッドは、本気で感心していた。

〰️ 〰️ 〰️

 新年の王城での舞踏会には、今まで浮いた話が何もなかった公爵家の跡取りと、辺境伯の跡取りが揃って美しい女性を伴っていたと大ニュースになった。その女性の正体がまさか学生さらに留学生だと思わなかったようで、一月以上、謎の美女たちと言われていた。大人びた化粧も技術の1つなのだろう。本当に女性は怖い。

 コンラッドは成人したので、今年からこの舞踏会に王子としてマーシャとともに参加したのだった。セオドアは専属護衛として脇にいたそうだ。
 ゼンディールさんのお相手がコレッティーヌ嬢の化粧変えとマーシャから聞き、二人とも口が閉まらなかったと、マーシャが笑って教えてくれた。

〰️ 〰️ 〰️

 2月、ディリックさんの結婚式に、僕たちは家族で招待された。その際、ティナはウォルを僕はクララを婚約者として同伴した。
 ディリックさんのお嫁さんは、侯爵家のご令嬢で、去年の卒業とともにすでにディリックさんと伯爵領へ行き、花嫁修業という名の領地経営をしているそうだ。

「全く!兄上が待て待てと言うから、結局年を越してしまったよ!」

 ディリックさんは、ゼンディールさんに怒っていたが、その理由がゼンディールさんがコレッティーヌ嬢に求婚したくて足掻いていたからだと知り、溜飲を下げていた。なんやかんやと相手のいなかった兄を心配していたのだろう。
 コレッティーヌ嬢を紹介され、納得した表情をしていた。コレッティーヌ嬢は今日は素顔の美人化粧だ。

「何度見てもすごいね」

 ウォルは感心していたし、初めて見たティナはジロジロと舐めるように見ていた。ティナはコレッティーヌ嬢の不細工化粧しか知らなかったのだ。とはいえ、最近は随分と素顔に近くなっているそうだが。……いやいやいや。

 エイムズ公爵邸で行われた披露宴なので、パティリアーナ嬢も参加していた。お相手の辺境伯様はカッコいいが強面で近寄りがたい。と、思っていたら、パティリアーナ嬢を見る目がデレデレで、クララが嬉しそうに笑っていた。

「コレット様から教えていただいたのですけど、ダリライト様はパティ様が王女殿下であることをご存知なのですって。その上でご一緒なのですもの、素敵な方ね」

 つま先を一生懸命にあげて僕の耳元で内緒話をするクララの腰を支える。クララの甘い香りが僕を気持ちよくクラクラさせる。本人はそんなこともにも気が付かず、無邪気に喜んで報告してくれる。
 来年の今頃は僕たちも夫婦になっている予定だが、僕はそこまで我慢ができるのだろうか。

 クララの腰に回した手に力を入れてクララの方を向けば、耳元にあった柔らかいものに僕の唇が当たる。わざとだけど。
 クララがその場に膝を崩した。僕は支える腕をそのままに、心配するような仕草で椅子へと連れて行った。キスをするのは初めてではないなに、いつも可愛らしく反応してくれることに嬉しくなってしまう。
 落ち着いた頃のクララに怒られることになるのだが、その仕草も可愛らしいので、怒られることなどなんてことはないのだ。

〰️ 〰️ 〰️

 ディリック様の結婚式です。披露宴も随分と盛り上がった頃、いつの間にか、女4人でお茶をしておりました。

「マーシャ様は今日はお一人ですのね」

 わたくしはキョロキョロとしました。今日、ウォルバック様とボブバージル様とはご挨拶いたしましたが、コンラッド王子殿下にはご挨拶していなかったので、気になったのです。

「まだ王子殿下ですから、式にお呼びするわけにはまいりませんでしたの。本人は悔しがっておりましたわ。オホホホ」

「あ、だから、マーシャ様はディリック様としか踊られないのですね」

 パティ様も気にしていらっしゃったようですわね。
 花婿様花嫁様へのお祝辞で、ご本人様と少しずつダンスをする習わしがあるそうですの。曲の途中でクルクルと相手を変えるのです。わたくしは初めての参加でしたので、タイミングが難しかったですわ。なんとかディリック様のお手を取ることができ、お祝いのダンスに参加できましたの。パティ様も初めてのはずですのに、流石にわたくしとはテクニックが違うようで、すんなりと踊ってらっしゃいました。
 1曲すべてを踊れるのは、花嫁のお父上様、花婿のお母上様だけだそうですわ。ステキな習わしですわね。

「そういうパティ様も、リックお兄様以外は、ダリライト様だけですのね。うふふ」

 マーシャ様は一人っ子で、小さな頃からお隣に住むエイムズ公爵家の人たちと仲が良かったそうで、ディリック様のこともゼンディール様のことも『お兄様』と呼ばれます。
 パティ様は顔を赤らめて、小さく頷きました。

「ダリライト様もパティ様を大切になさっているように見えますわ。お二人の並んだお姿はとても素敵でしたわよ」

 クララ様は聖母の笑顔で褒めていらっしゃいました。『はるか』は、前世でキリスト教なる宗教の信者であったそうですの。わたくしがクララ様を初めて見た時から好きだったのは、『はるか』の影響があるのでしょう。
 今ではクララ様の全部が好きなので、きっかけなど、些末なことでございますわ。

「パティ様、やはりあのお菓子事件がきっかけですの?」

 マーシャ様が身を乗り出してお聞きしております。

「そのお菓子事件って何ですの?わたくし、参加しておりませんから、知りませんの」

 わたくしが少し悲しそうに言うと、マーシャ様が説明してくださいました。

 初めてダリライト様が『マーシャ様の会』に参加なされた時のことです。一通りお話番が終わり、自由な時間となりました。パティ様は給仕係にケーキをよそってもらう際、少し余所見をしてしまい、ケーキを落とされてしまったのです。慌てる給仕係と謝るパティ様。注目される視線。
 そんな中で、ダリライト様はお皿をぶちまけ、大きな声で謝られたそうです。
 「すまないっ!」強面のダリライト様がお菓子を落とされて謝る姿を凝視できる者はおらず、パティ様への視線もなくなりました。
 ダリライト様が庇おうとしていたのが、給仕係なのかパティ様なのかはわかりません。どちらであったとしても、庇おうとするその姿勢がステキに見えたそうです。

「それにしましても、不器用な庇い方だとは思いませんか?わたくしより不器用な方もいらっしゃるのねと思い、なんだかほっこりしてしまいましたの」

 マーシャ様のご説明に、パティ様はご自分のお気持ちを付け足されました。それをお話するパティ様は、とても美しく、まさに恋する乙女でございました。

 マーシャ様のご説明の中の『謝るパティ様』というところで、ゴクリと息を飲んでしまったことは誰にも秘密です。パティ様の変化はよくわかっておりますが、それでも心配になってしまうのです。そして、その心配が杞憂に終わると、後からとても嬉しい気持ちが湧いてまいります。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】元悪役令嬢の劣化コピーは白銀の竜とひっそり静かに暮らしたい

豆田 ✿ 麦
恋愛
 才色兼備の公爵令嬢は、幼き頃から王太子の婚約者。  才に溺れず、分け隔てなく、慈愛に満ちて臣民問わず慕われて。  奇抜に思える発想は公爵領のみならず、王国の経済を潤し民の生活を豊かにさせて。  ―――今では押しも押されもせぬ王妃殿下。そんな王妃殿下を伯母にもつ私は、王妃殿下の模倣品(劣化コピー)。偉大な王妃殿下に倣えと、王太子の婚約者として日々切磋琢磨させられています。  ほら、本日もこのように……  「シャルロット・マクドゥエル公爵令嬢!身分を笠にきた所業の数々、もはや王太子たる私、エドワード・サザンランドの婚約者としてふさわしいものではない。今この時をもってこの婚約を破棄とする!」  ……課題が与えられました。  ■■■  本編全8話完結済み。番外編公開中。  乙女ゲームも悪役令嬢要素もちょっとだけ。花をそえる程度です。  小説家になろうにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

処理中です...