【完結】お義姉様が悪役令嬢?わたくしがヒロインの親友?そんなお話は存じあげません

宇水涼麻

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41 違う未来

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 オルクス公爵が嘆息とともに身を前のめりにして肘を膝に乗せた。

「気になるのはあれが言っていた内容が全くありえない話ではないものだということだ」

「そうなのです。テッドの騎士団長やルナセイラ様の音楽家の話もそうですが、僕にも公爵になると断言しておりました。何よりズバニールさんが宰相になると断言していたことが不思議です」

 ズバニールが優秀でないことは結構有名な話で、オルクス公爵家の未来が心配されていたことは公然の噂で公然の秘密である。アリサの優秀さも有名であったがこの国に女性に継承権はないし、そういう国なので女性が領地経営に携わることをよく思わない男性が多く、優秀な女性は婚姻相手としても敬遠される存在であった。
 ケネシスの姉ワイドン公爵令嬢のお相手のように優秀な女性を認める男性が全くいないわけではない。
 だが王族となれば話は別だ。噂の才女アリサは早くから王太子の婚約者候補になっていた。

『きっと前世でこの世界は小説やゲームの物語だったのでしょう。それぞれのキャラクターが目指していた職業なのでしょうね』

 アリサは前世で持っていた情報とパレシャの行動を鑑みてアリサが知らない何かしらの物語の中であるのだろうと推測していた。

『それでもこの世界で生きていかなくてはならない以上順応すべきですわ。スカートを短くしてこの世界のスタイルをイケてないと貶すなど頑固なのか自分勝手なのか……』

 一年ほど前に保健室の外で聞いたパレシャとマナー教師との会話を思い出していた。 

「ズバニールについても世襲を考えたのだろうな」

 パレシャの世襲制度批判ということで話がまとまりそうでアリサは少しホッとしていた。

「ですが、わたくしとアリサとテッド様がCクラスのはずだという言葉は世襲とは無関係ですわ」

 パレシャが前世持ちでることはアリサは確信しているが万が一自分のことも知られてしまいたくないアリサはメイロッテの指摘に動揺を見せないよう相槌を打って賛同してみせる。

「わたくしは確かに勉強について前向きではない子供でした。それを助けてくれたのはアリサの絵本です」

 話の矛先が変わってホッとしたこととメイロッテに極上の笑顔を向けられたアリサは照れて頬を染めた。

「僕の姉も同じことを言っていますよ」

 ケネシスも嬉しそうにアリサを見つめる。

 〰 〰 〰

 アリサはメイロッテに会った翌日から前世の記憶を思い出して絵を書いてみた。優秀とはいえまだ幼いし前世の記憶があってもこの世界の文字についての学習はまだ幼児程度であるため多少読めるが書ける文字は少ない。

「お……嬢様……。それはなんですか?」

 引きつり笑いの若い執事見習いジャルフがアリサの落書き用紙を覗き込んできた。あきらかに笑いを堪えている。
 
 前世の美少女戦士と現世で許される範囲の衣装を考慮した結果なんともちぐはぐな戦闘少女の絵になっている。……………………とアリサは思っていた。

 アリサはメイロッテを一目見て記憶が蘇るほど美少女戦士オタクであった。実家の部屋も大学の寮も部屋にはそのポスターが貼られフィギュアを並べDVD鑑賞をしていたほどである。

 アリサは美少女戦士の話ができることがうれしくてうきうきと絵の説明をする。執事見習いジャルフは真面目に話を聞いた。

「なるほど。これは女の子の絵だったのですね。私はてっきり童話に出てくる赤ヒキガエルのモンスターかと思いました」

ぺちっ

 前世で十八歳だったアリサが十八歳のジャルフのおでこを叩いたのはしかたがないことだと思われる。赤ヒキガエルに見えたのはアリサがこの部屋にあるもので描いた結果黒インクと赤インクしかなかったからだ。

『幼児の手だから上手く動かせないからこの画力でもしかたがないのですわ!』

 アリサは自分自身に目一杯言い訳したが数年後には本当に絵心がないことを目の当たりにすることになる。
 それはさておきジャルフはアリサの絵を真剣に見ていた。

「つまり、この少女は剣が得意でかといって乱暴者でもなく大変におしゃれな方なわけですね」

 幼い少女アリサの話を受け止め理解しようとしているジャルフにアリサの目が輝いたのは言うまでもない。

「私は絵が得意なのでお嬢様のお話を聞いたイメージを描いてみてもよろいしでしょうか?」

「ええ! ええ! ええ! もちろんいいわよ。
さあ、こちらにお座りなさい」

 アリサがポンポンとソファーの自分の隣の席を叩いた。
 あくまでも幼児のお嬢様と若い執事見習いなのでなんとなく上からの言い方だが大変に可愛らしいお嬢様が目をキラキラさせて言うためジャルフは心がポカポカして自然に笑顔になる。

「では失礼いたします」

 アリサの隣に座ったジャルフが羽ペンを走らせると次々になめらかな流線が現れてアリサはその様子を興奮気味に見ていた。やはり自分が持っていないものへの憧れや羨望は身分に関係なく出てしまうものなのだ。 

 
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