上 下
19 / 57

19 メイロッテの卒業

しおりを挟む
 アリサたちの一学年上となるメイロッテたちの卒業が間近になり教師たちが選ぶ優秀生徒十人が発表された。Aクラスの者が多いが、Bクラスからは武術に優れた者がCクラスから刺繍に優れた者がDクラスから美術に優れた者が選ばれていたので生徒たちのテンションは上がる。
 生徒たちは一人一枚配られる投票用紙にその十人の中から一人を選び名前を書き投票箱に入れるのだ。卒業式の式典内で発表されるためその間は予想やら期待やらでその話でもちきりになる。

 そうして迎えた卒業式。

「優秀生徒へ記念品贈呈」

 司会の教師によって十人の名前が呼ばれ十人は壇上に上がり学園長から記念品を受け取った。そして会場の方へと向く。

「ではこの中からみなさんが選んだ最優秀生徒を発表します。
最優秀生徒は……メイロッテ・コンティ!」

 割れんばかりの拍手と歓声にメイロッテは一つお辞儀をして手を振った。

『ふざけんな! あんな女の何がいいのよ!』
『メイロッテのやつ調子に乗りやがって!』

 パレシャは美術が得意で美形の男子生徒に投票して図々しくも投票してやったと本人にアピールして冷たくあしらわれていたし、ズバニールにいたっては自分より優秀な者を認める心の広さは持ち合わせていないので無投票である。

 そのような状況でのメイロッテたちの卒業パーティーではズバニールはメイロッテの入場エスコートをするとダンスもせずにとっとと帰ってしまい、卒業生からパートナーに選ばれるわけもないパレシャは参加もしていなかった。在校生は生徒会の生徒とボランティアでパーティーを手伝う生徒だけで二人は生徒会ではないしボランティアをするような者ではない。

 ズバニールは講堂を抜け出すと月夜の明かりを頼りに中庭の噴水前に急いだ。

「夜に火の明かりもないのにこんなに明るいなんてさすがに乙女ゲームだよね。こんなに離れているのに音楽が聞こえるっていうのもありえなくない?」

 ベンチに座るパレシャは月を見上げて独り言を呟いた。

「やっとイベントらしいイベントができそうだわ」

 パレシャはグッと気合を入れた。『よるコン』では生徒会に入っているパレシャが休憩時間に中庭の噴水前で休んでいると一番好感度の高いキャラクターが現れてダンスをすることになっている。

「ズバニールも生徒会長じゃないし私も生徒会に入れなかったのにズバニールが会おうって言ってくれてびっくりしたよねぇ」

 ゲーム内ではその学年各クラス二人選ばれる生徒会役員にCクラスからパレシャとテッドが選ばれるのだが現在Eクラスで浮いている状況のパレシャが選ばれるわけはない。

「待たせたな」

 パレシャが物思いに耽っているところに後ろからズバニールが声をかけた。パレシャは笑顔で振り返る。

『うわぁ! かっこいい…』

 緑の髪を後ろに撫でつけいつもにも増して凛々しくしているズバニールは銀のタキシードが似合っている。

「月の神様みたい…」

「それならば夜空を守る天使とダンスをする権利はあるかな?」

 ズバニールはパレシャに手を差し出した。

「喜んで!」

 飛び上がるように立ち上がったパレシャはその勢いのままズバニールに抱きついた。幼子ならともかく十七歳になって異性に抱きつくなど淑女らしからぬことだがここに咎める者はいない。驚いたズバニールであったがそっと抱きしめ返した。

 二人はぎこちないステップを踏み始めたが二人きりなので気にするものはなにもなく互いの瞳には互いしか映らない。

「そのドレス、とても似合っている。本物の天使のようだ」

「プレゼントしてくれてありがとう。ズバニールとお揃いだなんてうれしい」

 藍色の夜空に浮かぶ月は銀色に光り、そよ風が木々を優しく揺らしていた。

 〰 〰 〰 

 ズバニールの誕生パーティーの場ではまだズバニールとメイロッテが対峙している。

 メイロッテたちの卒業パーティーの日のダンスを思い出しよだれを流しそうになっているパレシャはさておき、パレシャに抱きつかれて愉悦に浸るズバニールはさらに鼻の穴を大きくしてメイロッテを言い負かす気満々であった。

「そのような暴言だけではないぞ。お前はアリサに酷い行いまでさせていたな!」

「具体的にはアリサはどのようなことをいたしましたの?」

「命じたお前が知らぬわけがあるまい! だがここに皆の前で詳らかにしてやろう!」

 ズバニールはパレシャを抱く力を強めた。

「アリサはパレシャの文房具を取り上げたりノートを破ったり雨上がりの水たまりに突き飛ばしたりしたのだぞ!」

 パレシャはズバニールの胸に顔を埋め震えていた。当然演技で。

『あの震え方が演技ですか? 説明を受けていなかったらわたくしも信じてしまっていたでしょうね』

 メイロッテはズバニールの言動よりパレシャの演技に関心を寄せていた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

聖なる幼女のお仕事、それは…

咲狛洋々
ファンタジー
とある聖皇国の聖女が、第二皇子と姿を消した。国王と皇太子達が国中を探したが見つからないまま、五年の歳月が過ぎた。魔人が現れ村を襲ったという報告を受けた王宮は、聖騎士団を差し向けるが、すでにその村は魔人に襲われ廃墟と化していた。  村の状況を調べていた聖騎士達はそこである亡骸を見つける事となる。それこそが皇子と聖女であった。長年探していた2人を連れ戻す事は叶わなかったが、そこである者を見つける。  それは皇子と聖女、二人の子供であった。聖女の力を受け継ぎ、高い魔力を持つその子供は、二人を襲った魔人の魔力に当てられ半魔になりかけている。聖魔力の高い師団長アルバートと副団長のハリィは2人で内密に魔力浄化をする事に。しかし、救出したその子の中には別の世界の人間の魂が宿りその肉体を生かしていた。  この世界とは全く異なる考え方に、常識に振り回される聖騎士達。そして次第に広がる魔神の脅威に国は脅かされて行く。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

婚約破棄なら慰謝料をお支払いします

編端みどり
恋愛
婚約破棄の慰謝料ってどちらが払います? 普通、破棄する方、または責任がある方が払いますよね。 私は、相手から婚約破棄を突きつけられました。 私は、全く悪くありません。 だけど、私が慰謝料を払います。 高額な、国家予算並み(来年の国家予算)の慰謝料を。 傲慢な王子と婚約破棄できるなら安いものですからね。 そのあと、この国がどうなるかなんて知ったこっちゃありません。 いつもより短めです。短編かショートショートで悩みましたが、短編にしました。

処理中です...