【完結】お義姉様が悪役令嬢?わたくしがヒロインの親友?そんなお話は存じあげません

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
7 / 57

7 ケネシスとパレシャの出会い

しおりを挟む
  アリサとパレシャが出会って一ヶ月経つ頃、静まり返る図書室の入り口で可愛らしい少女パレシャがキョロキョロして誰かを探していた。その目的の人物を見つけたようでニッコリと笑うと走り出した。

「アリサぁぁ!!! やっとみつけたぁぁ!!」

 ここは図書室である。

「そこの貴女。走るなどはしたない。場を弁えてお静かになさい」

 怒鳴ったわけではないが威厳のある声が受付カウンターから響き少女はピッタっと止まった。

「ごめんなさぁい」

 司書官の女性に向き一応頭を下げたが腕は体の脇でまっすぐになったままであったため藍色のツインテールと相まりまるでペンギンのお辞儀のようである。

「手をお腹の前で重ね背筋を伸ばして腰から曲げ『申し訳ございません』とおっしゃるべきどうしょう? 貴女は本当にこの学園の生徒ですか?」

 ここは貴族学園であるので司書官の意見は尤もである。司書官はあまりに呆れて口調は幼子を諭すようなものになっている。

「はあい。気をつけまぁす」

 司書官は図書室の秩序を守ることは仕事の一つであるが教師ではないのでこれ以上は何も言わずひらひらと手を払いさっさと行けと表した。

 パレシャが満面の笑みで振り向くと席を離れようとしていたアリサが目に入った。

「やだっ! アリサっ! 行かないでよ」

 アリサに向かって走り出したパレシャに司書官は淑女のマナーを注意することは仕事ではないと割り切りパレシャの求めた相手がアリサであったためアリサへの期待を込めてパレシャを見送った。
 アリサはため息を吐くとともに足を止め横を向く。

「何かご用かしら? 何度も申し上げますが名前呼びはお止めください」

「わかったわよぉ。みんなの前ではそうするぅ」

『皆の前と言わずいつでもそうしていただきたいわ。この方と個人的に親しくなることはありえませんから名前呼びはありえないですのに……』
 
 不貞腐れたように口を尖らせたパレシャは呆れ顔のアリサの腕を引いていき、アリサは自己犠牲を覚悟しなされるがままになることにした。

『今騒ぎを起こすことは皆さんにご迷惑をかけることになってしまうわ』

「こんなところに来るもの好きって結構いるのねぇ。お話する相手もいなくて暇な人たちなんでしょうねぇ」

 座って本を読んだり勉強したりしている生徒たちを嘲笑うようにニヤけた。

『もの好き? 暇? 学生でしたら当然利用する施設だと思いますけど…。余程お勉強が嫌いなのですわね。どうして学園に入学なさったのかしら?』

 貴族と言えど学園入学は義務ではない。女性ならメイド奉公に出てマナーや社交を学んだり市井で働き口を探したり自領の手伝いをしたりする者も少なからずいる。

『それにこの方とお話をする方が多くいらっしゃるとは思えないのですが?』

 アリサは一ヶ月ほど前にパレシャのクラスメイトの女子生徒がパレシャへの付き添いを嫌がっていた姿を頭に浮かべた。
 
 先程までアリサが座っていた席へと戻る。

 アリサは諦めて席に座るとその隣にパレシャも座った。
 アリサを呼び止めてまで席に座ったにも関わらずアリサに話をすることもなくそわそわきょろきょろと挙動不審なパレシャにアリサはうんざりとして小さくため息を吐いた。

『何を企んでいらっしゃるのかしら。ですがこの方に合わせていても時間の無駄ですわね』

 アリサはノートと本を広げて先程までの作業の続きを初めた。そうしてしばらくするとパレシャがアリサの腕をパンパンと叩きアリサはパレシャの方を向くがパレシャの視線はアリサへは向いていなかった。

「さっすがアリサ! 最高!」

 アリサを褒めながらも目はこちらに来る男子生徒に釘付けになっている。
 濃い紫の瞳はメガネの奥で優しげに細められていて普段は『氷の小公爵』と噂されている男子生徒のその姿に息を止めた女子生徒が数名倒れた。
 そんなことは気にする様子もなく薄い紫色の長めの髪を耳にかける仕草をしながら優雅に歩く。その色気のある仕草にまたまた数名の女子生徒が机につっぷした。

「アリサ嬢。先日の課題についてご相談したいのですが今よろしいですか?」

 目的の人物まで真っ直ぐにやってきた男子生徒はことさら笑みをほころばせ更に犠牲者が増える。

「ケネシス様。ごきげんよう。わたくしも…」
「きゃあ!! 生ケネシス! かっこいい! 声もすごく好み! えーー! 誰にするか悩んじゃうなあ」

 アリサの言葉を遮るように立ち上がり二人の視線の間に立ち奇天烈な言葉を並べているのはもちろんパレシャである。

「アリス嬢。ご友人ですか?」

 パレシャを避けるようにヒョイッと脇に顔動かしてアリスに質問をしたケネシスにパレシャは同じように顔を動かして完全に邪魔をしたが恐らくパレシャ本人に邪魔をしているつもりはない。

『紫水晶! 色っぽーい! メガネは無い方がいいかも!』

 パレシャは自分がしたいことを優先しているだけだ。

「はい! 大親友なんですよ! パレシャ・ユノラドですっ!」

 大声で返事をしグッと拳を笑顔で握りながら視界も会話も邪魔をするパレシャにケネシス・ワイドン公爵子息は遠慮なく眉を寄せた。ケネシスはアリサのクラスメートで現在授業の課題で同グループである。

「君には何も聞いていない。どうやらここで勉強しているわけでもなさそうだね。ここは学ぶ者が来る所なのだから君は立ち去るべきだ」

 パレシャの席の机の上に何もないことを確認したケネシスの声はアリサに向けたそれとは違う重い空気を含んだものだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...