暴虐の果て

たじ

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第35話

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11月12日

マキは、突然現れた、謎の女性に助けられ、犯人たちが、拉致被害者の殺害に使っている部屋から脱出して、女性先導のもと、天井からぶら下がった裸電球の、オレンジ色の光が照らすコンクリートが剥き出しの通路を、おっかなびっくりしながら歩いていた。


「……あなたをここから助けてあげる……。……お願い。こーちゃん達を止めて……」

ベッドに両手両足を拘束されているマキに、女はそう呟いた。


「……あのう、それで、あなたは一体……?」

通路を先へ先へ、早歩きしながら先導する女にマキは問いかける。

「………………………………………………………………」

女は、一旦立ち止まって、後ろのマキをチラリと振り返ったものの、何も言わずに再び前を向いて速い足取りで歩き始めた。

そして、ボソボソした声で呟く。

「……こーちゃん達が帰ってくる前になんとかこの人を外へ…………」

その声を聞き取れずに、マキが聞き返す。

「……えっ?何か言いました?」

「…………………………………………………………」


しかし、彼女は、再び口を開くことはなく、2人は、ただ黙々と早歩きに近いスピードで通路を進み続ける。

……やがて、マキの目にコンクリート製の階段のようなものが前方にあるのが映った。

「……あれって?」

それまで、ムッツリと黙りこんでいた女が、

「……出口よ……」

と、陰気な声で告げた。

……私、もしかして、このまま助かるの……?

マキは、監禁のはてに、突如差し込んだ一筋の希望の光に、思わず頬が緩むのを抑えられないでいた。

階段を登ると、ガランとした、薄暗い広い空間に出る。

「……暗くて、足元がよく見えない」

マキの声に答えるように、女が、肩から提げた布製のバッグから、一本の懐中電灯を取り出してスイッチを入れた。白いLEDの光が辺りを明るく照らし出す。
どうやら、ここは、かつては立派な屋敷だったようだ。埃を被ってはいるものの、見るからに値が張りそうな、壺や絵画が飾ってあり、内装もいかにも金がかかっていそうだ。そのあたりにも疎いマキにも、それは一目見てわかった。

「こっちよ……」

女が、マキの方を振り返って言うと、スタスタと玄関の方へ歩いていく。

「ま、待って!」

それまで、部屋の様子に気をとられていたマキが、そう言って慌てて追いかける。

ギィ、と微かな音を立てながら、女が玄関の扉を開いた。続いてマキも外へ出る。

外はすっかり日が落ちており、どこからか虫たちの鳴き声が聞こえてくる。ようやく、外へ出ることのできたマキは、その場で深呼吸する。

「……スーー、ハーー…………」

久しぶりに吸い込んだ外の空気は、心なしか澄んでいるような気がした。

「何やってるの?早く……!」

小声で、先を歩いていた女が、マキを急かす。

マキは、我に返って、すぐさま女の後を追いかけた。


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