暴虐の果て

たじ

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第22話

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11月13日

私は冷たいコンクリートの床の上で目を覚ました。

どうやら、椅子で眠りこけているうちにずり落ちて床に転がっていたようだ。

パソコンの置かれた机の上にはパン一切れののった皿とコップに入った一杯の水。

私は、犯人の手によって投与された薬の、禁断症状を押さえるため渋々それらに口をつけた。

ふと、パソコンの画面を見ると、そこには"あなたの一番大切なものはなんですか?"と、以前までとは違う問いかけが表示されている。

「……ふん!……どうせ、これに正解してもここからは脱出できやしないんだろう?」

言いながらも、私の脳裏にマキの笑顔がちらついた。マキは今頃どうしているのだろう。まさかとは思うけれど、もう、犯人に殺されてしまっているのでは?
……そう言えば、私がここに監禁されてからと言うもの、度々、誰か他の被害者のものと思われる、悲鳴や絶叫が聞こえてきていた。

不安の余り、私は、パソコンの画面から顔を背けてパンを咀嚼し続ける。

私が薬の禁断症状で失神したときに聞いた、犯人と思われる男の言では、犯人(たち?)は、どうも迷路のように張り巡らされた通路にも、私達被害者を監禁している部屋にも、隠しカメラか何かを仕込んで、その様子を伺っているようだった。

……しかし、どちらにせよ、犯人に投与された薬の禁断症状がある以上は、ここに監禁された被害者達が、この場所から逃げ出していくのは至難の技だと言えた。

…………外では、雨が降っているのか、頭上の排気口を伝って激しい水音が響いてくる。

…………せめて、荒垣さん達が私たちが拉致されたのに気づいてくれたら……。

いや、鋭い荒垣のことだ。きっともう、異変に気づいて、私たちが拉致された当日の行動を洗ってくれているはずだ。

……私には、今は、それにすがるしか道はないように思えた。


     ◆  ◆  ◆  ◆

10月22日 S警察署内取調室

「……奥さん、あなた、何かを隠してやいませんかね?」

入江夫妻から事情聴取をしていた刑事が、中々口を割ろうとしない真実に、辟易として言った。

最前から、入江夫妻の、テーブルを挟んで向かいに座った刑事の質問に答えるのは、入江真実だけで、真実の隣に座っている誠治は、事の経緯を全て真実の話すがままに任せ、自分はムスッとした表情で黙りこんだままだった。

そして、話が夫妻の娘をさらったストーカーに及ぶと、明らかに真実の目は宙を泳ぐようになり、その発言もしどろもどろになっていた。

……これでは、取り調べに慣れていない、新参者の刑事ですら、何か怪しいと思うに違いなかった。

「……………………………………………。」

刑事の問いに、真実はパッタリと黙りこんではいたが、その両目は左に右に揺れ続けている。そして、時々、横の夫の方を気にするそぶりを見せていた。

ふと、思い付いた刑事が夫の誠治に向かってこう言った。

「……申し訳ありませんが、拐われた京子さんに関して、旦那さんには言いづらいことが、奥さんにはあるようですので、旦那さんは外の待合室でお待ちいただけますか?」

「……そうなのか?真実?」

怪訝な顔をして誠治が隣の真実に詰め寄ると、真実があからさまに狼狽えた。

その様子を見つつ、もう一度夫妻の対面の刑事は言った。

「申し訳ありませんが、旦那さんは一度部屋の外へ。よろしくお願いします。」

……すると、あからさまに舌打ちしたあと、誠治が取調室から出ていく。

少ししてから、刑事が真実に言った。

「……それで、奥さん。何を隠しているんです?」





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