20 / 45
第20話
しおりを挟む
11月12日
私は恋人のマキと砂浜を歩いている。
こちらに打ち寄せてくる波が、真夏の太陽に照らされてキラキラと光を放ち輝いている。
すると突然、奇声を上げて正面から走ってきた灰色のパーカー姿の男が右手に持った包丁で、私の隣を穏やかな笑みを浮かべながら歩いていたマキの胸の真ん中辺りをブスリと突き刺した。
胸から血をだらだらと流したマキはそれでも穏やかな笑みを浮かべたまま、
「ここから逃げるの。何も考えてはダメ。いいわね?」
と、私に言った後、サラサラと砂になってその場に崩れ落ちた。
私の頭はカッと熱くなって何も考えられなくなる。私の目頭から大粒の涙が零れては砂浜に落ちた。
パーカーのフードを目深に被った男の顔は逆光のせいで良く見えない。
「……ケケケケケケケケ…………。」
マキを刺した包丁から彼女の血液をポタポタと落としたまま、不気味な笑い声を漏らしている男の顔が段々と、ハッキリしてくる。
…………驚くべきことに、男の顔は私の顔と瓜二つだった……。
T刑務所の独房では先日違法薬物の所持・使用の罪で逮捕収監された男ーー3126番ーーがしゃっくりをあげながら目元に両手を当てて大粒の涙を止めどなく流していた。
「……マキっっ!マキぃぃっーーーーー!!」
男の泣き叫ぶ声が刑務所内に木霊する。
3126番が逮捕時所持していた薬物は既存の覚醒剤と未知の薬物が混じり合ったものだった。
その未知の薬物の分析が科捜研では行われていたが、どうやら何かの魚類から抽出したらしいということ以外、一体誰がいつどうやって何の目的で作り出したものなのかは分かっていない。
……ともあれT刑務所内では3126番は単なるヤク中で、ありもしない妄想を垂れ流しているだけだ、と皆思っていた。
やがて、驚愕の真実が明るみに出るまでは。
◆ ◆ ◆ ◆
11月12日
………………………ここは?
目を覚ますと私は元の監禁されていた殺風景な部屋に連れ戻されていた。
うつ伏せに横になっていた床から両手をついて立ち上がると部屋を見回す。
パソコンに表示されていた質問に答え、上に上がっていたはずの壁は元通りに下ろされていた。
ふとパソコンの置かれた机の片隅に小さな紙片が置かれてあるのに気づく。
私はその紙片を机から取り上げて素早く目を通した。
そこにはただ一言、
"おかえりなさい♡"、と汚い殴り書きで書かれていた。
「……くそっっ!!人を馬鹿にしやがってっ!!」
思わず罵倒の言葉が私の口からついて出る。
頭痛と吐き気に襲われて気を失う前に、犯人であろう男の顔を見たはずだが頭が靄がかかったように何故か思い出せない。
嘘のように激しい頭痛と吐き気が治まっていることを考えると、どうやら犯人がまた私に例の薬を投与したのだろう。
男の顔が思い出せないのは多分、そのせいだ。
どうにも頭がフラフラしてうまく働かないので椅子に座り込んで両目を閉じた。
…………やがて私は深い眠りに落ちていった。
私は恋人のマキと砂浜を歩いている。
こちらに打ち寄せてくる波が、真夏の太陽に照らされてキラキラと光を放ち輝いている。
すると突然、奇声を上げて正面から走ってきた灰色のパーカー姿の男が右手に持った包丁で、私の隣を穏やかな笑みを浮かべながら歩いていたマキの胸の真ん中辺りをブスリと突き刺した。
胸から血をだらだらと流したマキはそれでも穏やかな笑みを浮かべたまま、
「ここから逃げるの。何も考えてはダメ。いいわね?」
と、私に言った後、サラサラと砂になってその場に崩れ落ちた。
私の頭はカッと熱くなって何も考えられなくなる。私の目頭から大粒の涙が零れては砂浜に落ちた。
パーカーのフードを目深に被った男の顔は逆光のせいで良く見えない。
「……ケケケケケケケケ…………。」
マキを刺した包丁から彼女の血液をポタポタと落としたまま、不気味な笑い声を漏らしている男の顔が段々と、ハッキリしてくる。
…………驚くべきことに、男の顔は私の顔と瓜二つだった……。
T刑務所の独房では先日違法薬物の所持・使用の罪で逮捕収監された男ーー3126番ーーがしゃっくりをあげながら目元に両手を当てて大粒の涙を止めどなく流していた。
「……マキっっ!マキぃぃっーーーーー!!」
男の泣き叫ぶ声が刑務所内に木霊する。
3126番が逮捕時所持していた薬物は既存の覚醒剤と未知の薬物が混じり合ったものだった。
その未知の薬物の分析が科捜研では行われていたが、どうやら何かの魚類から抽出したらしいということ以外、一体誰がいつどうやって何の目的で作り出したものなのかは分かっていない。
……ともあれT刑務所内では3126番は単なるヤク中で、ありもしない妄想を垂れ流しているだけだ、と皆思っていた。
やがて、驚愕の真実が明るみに出るまでは。
◆ ◆ ◆ ◆
11月12日
………………………ここは?
目を覚ますと私は元の監禁されていた殺風景な部屋に連れ戻されていた。
うつ伏せに横になっていた床から両手をついて立ち上がると部屋を見回す。
パソコンに表示されていた質問に答え、上に上がっていたはずの壁は元通りに下ろされていた。
ふとパソコンの置かれた机の片隅に小さな紙片が置かれてあるのに気づく。
私はその紙片を机から取り上げて素早く目を通した。
そこにはただ一言、
"おかえりなさい♡"、と汚い殴り書きで書かれていた。
「……くそっっ!!人を馬鹿にしやがってっ!!」
思わず罵倒の言葉が私の口からついて出る。
頭痛と吐き気に襲われて気を失う前に、犯人であろう男の顔を見たはずだが頭が靄がかかったように何故か思い出せない。
嘘のように激しい頭痛と吐き気が治まっていることを考えると、どうやら犯人がまた私に例の薬を投与したのだろう。
男の顔が思い出せないのは多分、そのせいだ。
どうにも頭がフラフラしてうまく働かないので椅子に座り込んで両目を閉じた。
…………やがて私は深い眠りに落ちていった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
S県児童連続欠損事件と歪人形についての記録
幾霜六月母
ホラー
198×年、女子児童の全身がばらばらの肉塊になって亡くなるという傷ましい事故が発生。
その後、連続して児童の身体の一部が欠損するという事件が相次ぐ。
刑事五十嵐は、事件を追ううちに森の奥の祠で、組み立てられた歪な肉人形を目撃する。
「ーーあの子は、人形をばらばらにして遊ぶのが好きでした……」
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる