暴虐の果て

たじ

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第18話

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7月11日

今のところ月一度のペースで遺体が発見されている連続殺人事件に宇都宮達、捜査一課は完全にお手上げ状態だった。

なにせ犯人の男は事前に余程の準備を行っているのだろう、街中の監視カメラの死角をついて被害者の遺体を遺棄していてその足取りは杳として知れず、遺体からは指紋や体液といったものも発見できず(正確には唾液は採取されていたものの前科者リストとは合致しなかった)、目撃証言なども決定的なものは何一つ出てこない。

そして定期的に動画を投稿するサイトも変えていてその動画にも場所を特定できるようなものが何一つ映っていない。

一応病院のベッドらしきものが写っていたため市内を廃病院も込みで調べてみたがそれも空振りだった。

「……フゥ~~ッッ!!……………………………………。」

デスクで大きなため息をひとつつくと宇都宮は考え込んだ。

一体、どうすりゃいいっていうんだ!!上からは急かされるしマスコミにはバッシングされ放題だ。
しかも犯人に結び付くような目ぼしい証拠は今のところ何一つ上がってきちゃあいない!

宇都宮は胸元のポケットからタバコを取り出すと一本くわえて火をつけた。


     ◆  ◆  ◆  ◆


11月11日

私はあれから監禁されていた部屋を出てコンクリートが剥き出しの通路を歩いていた。天井からは裸の電球がオレンジ色の光を投げかけている。

コツン……コツン……コツン……。

通路に私の足音だけが木霊する。
……とても静かだ。ひょっとすると今私たちを拉致してきた犯人は居ないのかもしれない。

迷路のような交錯する通路の片隅に一つ扉があるのに気づいて近づきノブを捻る。

キィーッと微かに軋んだ音をたてて扉が内側に開く。

中は真っ暗だ。

私は扉の横にあるスイッチを押した。

すると天井からぶら下がったオレンジ色の光に部屋の中が照らし出される。

中には一組のデスクセットが置かれていて、左にスチール製のロッカーが一つ。右の壁際には同じくスチール製のキャビネットが置かれていた。

そして机には何かのファイルが置かれていた。

手にとってパラパラとファイルを捲ってみる。

そこには、パソコンで打たれたものだろう整った字体で
 
"この薬はアイツの隠れ家から頂戴してきたものを元に更なる調整が加えてある。
キマルと幻覚と過去の出来事がグチャグチャになってすんごい気持ちよくなれる。
元の薬は未知の深海魚の身を使ったものみたいだけど、それ以外にも色々混ざってる。
それについてはファイルAを参照の事。

監禁したやつらにはこの薬を直接注射したり、混ぜたパンと水を与えてある。
一度これをやると中毒性がエグいからヤメられなくなる。
ヤメようとすると耐えられなくなる程、頭痛と吐き気に襲われちゃう!でも、俺は一杯持ってるからだいじょーび!!"

という何ともイカれた文章が綴ってあった。

……やはり私の予想していた通り何らかの薬物を投与されていたようだ。

成る程。これで私のいた部屋の隣の部屋の男のおかしくなった原因がはっきりした。

……しかし薬をやめると頭痛と吐き気に襲われるだって?

今のところは私の体には異常はなさそうだが……。

他に何か情報は載っていないだろうか。私がファイルを再び捲っていると、

コツーン……コツーン……コツーン……。

と誰かがこちらへ歩いてくる足音が通路から響いてくる。

……不味いな。

とっさに私は隅のロッカーの中に隠れる。

すると少ししてからガチャッ、と扉を開ける音がして部屋の中に何者か(おそらく犯人かその共犯者か)が入ってきた。

ファイルは閉じて元の位置に戻しておいたがはたしてバレるかどうか。

「……フヒヒヒヒヒッッ!!さあ~て、どこに隠れたのかなぁ?」

…………………………!!何てことだ!私の行動がバレている!……まさか通路や部屋に隠しカメラでも仕込んでいたのか?

コツコツ、と私の隠れているロッカーにその誰かが近づいてくる。

その瞬間突然強烈な頭痛と吐き気に見舞われて私は気を失った。
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