暴虐の果て

たじ

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第11話

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 静寂を破るかのように、カチャカチャという金属の冷たい音が鳴っている。

「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」

 ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。

「セイン様はご無事でしょうか……」

 気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
 ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。

「まだ暗い……」

 どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
 直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。

「開くわけないか……わぁっ」

 ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。

「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」

 兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。

「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」

 兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。

「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」

 顔も上げずに女性が尋ねてきた。

「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」

 女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。



「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」

 おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。

「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」

 女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。

「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」

 声を押し殺しながら怒りを露にする。

「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」

 女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。

「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」

 ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。

「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」

 ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。

「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」

 アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。

「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」

 ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。

「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」

 焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。

「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」

 アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。

「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」

 ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。

「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」

 足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。

「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」

 先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。

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