絶望の魔王

たじ

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今、13号は街道に立ち止まって、その体の中央にある、大きな一つ目を見開き、勇者ーー異世界人ーーの痕跡を辿っている最中だった。その一つ目には、異世界人の魔力が魔術研究所の改造によって見えるようになっていた。

「…………やれやれ、もうちょっとサクサク行かないもんかねぇ」

騎士の一人が呟いたその時、おもむろに13号の巨体がケニーの北、ヘルム山脈へと向かって進んでいく。

「……ようやくか……」

3人の騎士たちは、仲間が襲われたときの恐怖がまだ残っているのだろう、13号から少し距離をとってその後に続いていく……。


     ◆  ◆  ◆  ◆
 

ハルトたち一行は、半日かけて険しい山道を登ると、ひとまず一旦休憩をとることにした。

「…………ハアハアハア…………」

「……フーーッ。……ハアーー…………」

息を切らせながら山道の端に腰を下ろしたハルトと百合江を見て笑いながらラボスが言った。

「ハハハ!二人ともよっぽど山道がこたえたみたいだね。辛くなったら遠慮せずに僕に言って。……まだまだ、先は長いんだからね」

「……ハアハアハア……。……そうします。それにしても、山頂まで一体あとどれくらいあるんですか?」

ハルトの問いにラボスが答えて言った。

「……ん~~~~。そうだね。今のペースだと、一回野宿を挟んででないとキツいかな」

「そんなに…………」

ハルトが目を見開いて言う。

……ゴロゴロゴロゴロ。上空では相変わらず雷雲が不気味な音を響かせている。

「……まあ、本当は僕が二人を抱えて飛んでいければいいんだけど、やっぱりそれだと落雷が怖いからね。防御魔法がどのくらいまで持つのかも不安だし…………。もしも、飛行中に魔法が持たなくて墜落でもしたら大事だからね」

「なるほど。確かにそうですね」

経験豊富なラボスが言うのだからやはりその通りなのだろう。

「それにしても、ここまでは運良く凶悪なモンスターたちには出くわしていないけれど、これから先は遭遇することがままあるだろうから、そこだけ心に留めておいて。
……まあ、仮に突然襲われたとしても、絶対防御アルテマ・シールドをかけてるから、そうそうピンチになんてならないとは思うんだけど……。……人生何が起きるか分からないからね」

一度、トレースに腹を切り裂かれて邪神の力で甦ったラボスが言うと説得力が違う。

そして、小一時間ほどその場で休むと3人は再び山頂目指して歩き始めた。


     ◆  ◆  ◆  ◆
 

「……それにしても、魔力探知が使えないってのに、なんでこのタイミングで魔王様はこのあたしに勇者の追撃を命じられたのかしら?
……なにか匂うわね……」

そんなことをブツブツ呟きつつ、配下のモンスター達を連れてヘルム山脈の手前の上空を飛行していたパルスの顔色が瞬間厳しいものに変わった。

「……なに?この禍々しい魔力は?……ヘルム山脈から?…………そういえば、ラーヌでもこんな変な魔力を感じたような……。…………なんか気になるわね……。かといって、ヘルム山脈は飛んだままの移動は危険なのよねー。……まあ、今のところ勇者がどこに行ったのかも分からないことだし、ちょっと寄り道しましょうか」

ラボスは一応自身の体にも魔力遮断の魔法を使ってはいたが、その強大な魔力はやはり、同じく強大な魔力を持った旋風のパルスには隠しきれるものではなかったらしい。

……それからパルス率いる一団は、進行方向を変えてヘルム山脈の入り口目指して飛んでいった。
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