絶望の魔王

たじ

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断末魔の悲鳴を聞いた研究員達が何事かと、処刑場にやって来ると、実験を行っていたはずの所長のゲインの姿が見えず、壁に磔にしていたはずの異世界からやって来たと思われる男が、焼け焦げて息絶えた実験用の奴隷の女をかき抱き、一人嗚咽を漏らしていた。

「い、一体何が起きたんだ……?ゲ、ゲイン様は……?」

入り口近くにいた研究員の一人が思わず呟くと、それまで床に座っていた男ーー春人ーーが、ゆらりと振り返った。

その目は、怒りに黒く染められており、まるでその意思を汲むかのように、春人の全身を包んだ光が立ち尽くしている研究員たちに襲いかかった。

「があああああああああああああああ!!」

「ぎゃああああああああああああああ!!」

「うわああああ!!燃えるっっ!!俺の体があああああああああああああ!!」

研究員たちはあっという間に塵と化した。

床に積もったその塵を冷たい眼で一瞥すると、春人は床に百合江の亡骸をそうっと横たえ、部屋を出ていった。

「ああああああああああああああ!!」

「助けて!!助けてくれぇぇ!!俺たちが悪かったっ!!……うぎゃああああああああああああああ!!」

魔術研究所地下の実験施設に春人の怒りの炎に焼かれた研究員たちの悲鳴が響き渡った。

「………………………………フフフフ。……ハーーハッハッハッハッ!!」

通路を逃げ惑う研究員たちを追い詰め殺していきながら、歪な笑みを浮かべる春人の体が少しずつ変形してゆく。

茶色だった髪は、真っ白に色が抜け落ち、その頭からは赤黒い角が伸び、怒りに燃える瞳は緑色に染まってゆく。……そして、臀部からは爬虫類を思わせる大きな尻尾がニュッと姿を現した。

「…………人間共~~~~~~~~~~っっ!!
……よくもっ、よくもおっっ………………!!
……お前たちを全て滅ぼしてくれるっっ!!」

そして、地下の実験施設にいた人間を皆殺しにすると、春人は魔術研究所へと向かい、その場にいた全ての人間を葬った。


「…………ハハハハハハハハハハハハ……」

壊れたような、乾いた笑い声をあげて立ち尽くす春人の頭の中に突然誰かの声が響いた。

「……可哀想に。……あなたはとても傷ついているのね……」

「誰だっっ!!」

春人は、キッと目を吊り上げて辺りを見回した。しかし、その場には春人以外に誰の姿も確認できない。

「……私は、人々に忘れ去られてしまった神。……あなたならばきっとこの世界を…………」

声はそう告げると、異形の姿と化した春人にある、提案を持ちかけた。

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