絶望の魔王

たじ

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「…………おかしいな。……いくら薬を塗っているとはいえ、ここまで治りが早いとは……。……異世界からやって来た際に何らかの能力が備わった、ということか……」

その日、分析室のベッドに拘束された春人の体を、隅々まで調べながら白髪をオールバックにした老人ーーゲインーーが、不思議そうに呟いた。

「……そうなんでしょうね。普通、異世界から来た者たちは、我々とは魔力の質が少し違うくらいで、特には能力自体に変化はないはずですから」

「………………………………………………」

傍らで共に春人の体を調べていた、研究員の言葉を聞き流して、ゲインは黙りこみ両腕を組んで何事かを考えこんでいる。

「…………ふうむ。……ひょっとすると、こいつは思わぬ拾い物だったかもしれんな。……とすると、もっと色々試してみる価値がありそうだ」

研究員に言うと、ゲインはニヤリと邪悪な笑みを浮かべて見せた。

「……さしあたっては、とりあえず少し休ませるとしよう。……連れて行けっ!」

ゲインの言葉を聞いて、研究員が春人をカプセルに戻すため、分析室の外で待機している騎士たちを呼びに行った。


     ◆  ◆  ◆  ◆


カプセルに戻された春人は、暴れないよう、研究員により打たれた麻酔によって、朦朧とした意識の中考えていた。

……なんとか、百合江を連れてここから逃げ出さないと、そのうち奴らに2人とも殺されてしまう!

なんとか……。なんとかしないと………………。


懸命に、疲労と麻酔薬のために訪れる眠気に抗っていたものの、やがて、春人は眠りの世界へと落ちていった。


     ◆  ◆  ◆  ◆


次の日。
春人が、その日の実験を終えてカプセルへと連れ戻されるのと入れ違いに、百合江が屈強な騎士たちに連れられて、分析室の方へと運ばれていく。

その姿に、訪れる眠気をこらえながら春人が叫ぶ。

「百合江っ!!俺だっ!!春人だっっ!!」 

すると、それまでグッタリして騎士たちに引きずられていた、百合江の眼がうっすらと開き言った。

「……春人?……春人なの?」

「ああ、俺だっ!必ずお前を連れてここから脱出して見せるからなっっ!!」

春人のその言葉に、一つ頷くと、再び百合江は意識を失った。

その様子を見ていた、ゲインが、

「……ほほう。お前たちは、知り合いなのか……?」

と、春人に近づいて不気味な微笑みを浮かべながら問いかけた。

「…………………………………………っっ!!」

春人は思わず、ゲインから顔を背ける。

その春人の様子から何かに勘づいたようにゲインが言った。

「…………そうか、そうか……。それは、実験のし甲斐があるというものだ。……フフッッ」

そして、ゲインは、春人に背を向け百合江の運び込まれた分析室へと歩き去ってゆく。

「……クソッタレッッ……」

騎士たちに両脇を抱えられながら、春人が呟いた。



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