絶望の魔王

たじ

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ハルト達3人は、一晩の野宿の後、再びヘルム山脈を目指して大空を飛行していた。

ーーと、前方の彼方に、黒い雲に覆われた雄大な山脈が見えてきた。

「あれが、ヘルム山脈?」

ハルトの独り言に、ラボスが答える。

「そう。あれが、僕たちの目的地さ」

山脈を覆っている黒い雲からは、時々、稲光が激しく瞬いている。

…………やがて、ヘルム山脈の手前まで来ると、ハルトと百合江を抱えたラボスは、地上に降り立った。

「さて。それじゃあ、頂上目指して頑張ろう」

ラボスがそう言って、灰色の山肌のヘルム山脈の、谷となっているその入り口へ先行して歩き始めると、ハルトと百合江は、決然とした表情でその後に続いてゆく。

……ゴロゴロゴロ……。……ド~~~ンッッ!!

どこか、少し離れた場所から落雷の音がこちらまで鳴り響いてくる。

その音を聞きながら、ラボスが2人に言った。

「……一応、雷がこちらに落ちてきてもいいように、魔法をかけておこう。絶対防御アルテマ・シールド!」

本来のラボスの魔力では、独力で使えないはずの魔法を、ラボスが使うと、ハルト達3人をすっぽりと覆うように、白い厚みのある半円形の光のドームが出現する。

「よし、これで仮に雷が僕たちを直撃しても大丈夫だろう」

魔法をかけ終えたラボスが、満足気に言った。

そして、再び、3人は山頂目指してその歩みを進めていく。


     ◆  ◆  ◆  ◆

一方、ハルト達を追跡するため、ラーヌから出立した13号と魔導騎士たちは、ベルの森までやって来ていた。

「おいっ!しっかりしてくれよっ!」

13号の傍らにいる、騎士の一人が、先程から地面にうずくまって、一向に動こうとしない13号に声をかける。

気のせいか、その背中は、小刻みに震えているように見えた。

別の騎士が怪訝そうな顔で言った。

「おっかしいな……。ちゃんと、こいつには、その辺で捕まえた野生のルカスの生肉とかやってるのにな。……これは一度、サーシャ様に連絡を取ってみた方がいいか?」

……すると、突然、それまで地面にうずくまっていた13号が、ガバッと体を起こして側にいた騎士の頭に噛みついた。

「ぎゃあああああああああああああーーー!!!」

「お前っ!何するんだっ!やめろっっ!!」

慌てて、残りの騎士たちが、13号を、噛みつかれている騎士から離そうとその体を引っ張った。

「……グオアアアアアアアーーーッッ!!」

しかし、13号は、雄叫びをあげて、恐ろしい怪力で、しがみついてきた3人の騎士たちを吹っ飛ばした。

「があっっ!!」

「ぐぼっっ!!」

「うわあああ!!」

周りの木々に叩きつけられた3人の騎士たちは、口々に悲鳴を漏らして、地面に昏倒した。

バキッボキッバキッ!ボキッバキッ!
ベルの森に、13号が、騎士を甲冑ごと噛み砕く咀嚼音が、不気味に響き渡った。

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