44 / 57
2-23
しおりを挟む
「…………そうか。勇者の魔力は、やはり遮断されている、か…………」
魔術研究所の所長室には、オゥルとサーシャ、それに、報告に訪れた研究員が一人、これからの勇者の追跡について話をしている。
「…………トレースもそうだが、ドレインを失ったのは手痛かったな」
「父上…………」
「かくなるうえは…………。しょうがあるまい。ヤツを連れてこい。13号をな……」
「しかし…………。あいつを連れ出すのは、余りにも無謀では…………」
口答えする研究員の顔をジロリとねめつけてオゥルが、もう一度命令する。
「13号をここへ」
「わ、わかりました!」
オゥルの気迫に恐れおののきながら、研究員は答えると、慌てた様子で所長室を出て、地下の実験施設へと足を向けた。
「……さて。ヤツは制御不能な化け物ではあるが、しかしそれでも、目付役として同行する人間を何人かこちらに寄越してもらいたい」
オゥルが、サーシャの顔をジッと見つめながら言う。
サーシャは、不安そうな表情を一瞬浮かべた後、
「ハッ!!かしこまりました、父上!何人か選りすぐって、すぐにこちらに……」
と答えると、オゥルに一礼して、所長室を出てゆく。
部屋に一人残されたオゥルは呟く。
「なんとしてでも、勇者をここへ連れてくるのだ……」
◆ ◆ ◆ ◆
ハルトと百合江は、夜が明けてすぐに、ラボスに抱えられ、大空に羽ばたくと、コーダの街を後にして、ヘルム山脈へと向かっていた。
「あと、どれくらいでヘルム山脈に着くんですか?」
ハルトが、ラボスにそう問いかけると、ラボスが、答える。
「そうだね。ここから、一日飛んで、もう一回野宿してから、もう半日ばかりって所かな。……結構、人里からは離れた場所だからね。
……それに、あの辺には、魔王軍には属していない、野生の凶暴なモンスター達が、ちょくちょく出没するから、相当な手練れでないと、なかなか頂上までは行けないんだよな……。まあ、僕がついてるから、心配は要らないとは思うけど、一応、二人とも覚悟はしておいて」
「そんなに大変な所なんですか……」
思わず、ハルトは、隣の百合江と顔を見合わせて表情を強ばらせる。
そんな二人の様子を見てラボスが言った。
「……大丈夫!君達には、決して手出しはさせないさ!」
ラボスの力強い言葉にも関わらず、ハルトの隣で百合江は相変わらず、不安そうな顔をしている。
百合江は、心の中で自問していた。
……本当に、大丈夫なのかしら。嫌な予感がしているのに、そんな危ない場所に向かっても……。
……それに、このラボスという人は、邪神に甦らせられた、と言っていたじゃない!はたしてどんなことが、これから待ち受けているんだろう……。
そんな百合江に、ハルトが、
「百合江!……きっと、大丈夫だよ!」
と、優しく笑いかけながら言った。
……それでも、百合江の中の嫌な予感は、ドンドンと膨らむばかりだった。
魔術研究所の所長室には、オゥルとサーシャ、それに、報告に訪れた研究員が一人、これからの勇者の追跡について話をしている。
「…………トレースもそうだが、ドレインを失ったのは手痛かったな」
「父上…………」
「かくなるうえは…………。しょうがあるまい。ヤツを連れてこい。13号をな……」
「しかし…………。あいつを連れ出すのは、余りにも無謀では…………」
口答えする研究員の顔をジロリとねめつけてオゥルが、もう一度命令する。
「13号をここへ」
「わ、わかりました!」
オゥルの気迫に恐れおののきながら、研究員は答えると、慌てた様子で所長室を出て、地下の実験施設へと足を向けた。
「……さて。ヤツは制御不能な化け物ではあるが、しかしそれでも、目付役として同行する人間を何人かこちらに寄越してもらいたい」
オゥルが、サーシャの顔をジッと見つめながら言う。
サーシャは、不安そうな表情を一瞬浮かべた後、
「ハッ!!かしこまりました、父上!何人か選りすぐって、すぐにこちらに……」
と答えると、オゥルに一礼して、所長室を出てゆく。
部屋に一人残されたオゥルは呟く。
「なんとしてでも、勇者をここへ連れてくるのだ……」
◆ ◆ ◆ ◆
ハルトと百合江は、夜が明けてすぐに、ラボスに抱えられ、大空に羽ばたくと、コーダの街を後にして、ヘルム山脈へと向かっていた。
「あと、どれくらいでヘルム山脈に着くんですか?」
ハルトが、ラボスにそう問いかけると、ラボスが、答える。
「そうだね。ここから、一日飛んで、もう一回野宿してから、もう半日ばかりって所かな。……結構、人里からは離れた場所だからね。
……それに、あの辺には、魔王軍には属していない、野生の凶暴なモンスター達が、ちょくちょく出没するから、相当な手練れでないと、なかなか頂上までは行けないんだよな……。まあ、僕がついてるから、心配は要らないとは思うけど、一応、二人とも覚悟はしておいて」
「そんなに大変な所なんですか……」
思わず、ハルトは、隣の百合江と顔を見合わせて表情を強ばらせる。
そんな二人の様子を見てラボスが言った。
「……大丈夫!君達には、決して手出しはさせないさ!」
ラボスの力強い言葉にも関わらず、ハルトの隣で百合江は相変わらず、不安そうな顔をしている。
百合江は、心の中で自問していた。
……本当に、大丈夫なのかしら。嫌な予感がしているのに、そんな危ない場所に向かっても……。
……それに、このラボスという人は、邪神に甦らせられた、と言っていたじゃない!はたしてどんなことが、これから待ち受けているんだろう……。
そんな百合江に、ハルトが、
「百合江!……きっと、大丈夫だよ!」
と、優しく笑いかけながら言った。
……それでも、百合江の中の嫌な予感は、ドンドンと膨らむばかりだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【本編完結】記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる