絶望の魔王

たじ

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ラボスは、トレース達を倒したあとしばらく通路を真っ直ぐ歩き、再び魔力探知を行った。

「……ハルトは、この先の部屋か……」

呟きつつも、右手の大きな扉を少し開いて、中の様子を伺うと、ラボスはその中に体を滑り込ませた。

「ここは………………」

その部屋には、一面に緑の光を放つ3m程の大きさのカプセルがズラッと並んでおり、その中には人とおぼしきものの姿があった。

ラボスが手近のカプセルに近寄って、よく見てみると、その中に閉じ込められているのは、どうやら人とは言いがたいモンスターと人とのキメラのような生物だった。

慌てて他のカプセルも見てみる。
同じだ。

「これは、一体………………。まさか、奴隷として買ってきた人達を…………!!」

そう言って、ラボスはギリリと奥歯を噛み締める。

「なんてことをするんだっっ!!」

異形の姿となってもなお、正義感の強いラボスの血が沸き立つ。そうか!サーシャ達はこれを隠したいがために、僕を罠にはめたのか!

「そうだ!それならば、ハルトはもう…………」

急いで並んだカプセルの中から、ハルトの顔を探す。

「…………よかった。無事だ………………」

そう安堵の息を漏らしてラボスは、コンコンとカプセルをノックして呼び掛ける。

「ハルトっっ!!ハルトっ!!僕だ!ラボスだ!助けに来たよ!!」

ラボスの声にカプセルの中のハルトが、身をよじらせてまぶたをうっすらと開けた。

「………………ラボスさん?でも、その姿は一体どうしたんですか?」

「…………今は話している暇はない!今助ける!」

そう言ってラボスが、両手の爪で慎重にカプセルの表面をなぞると、カプセルに亀裂が入り、緑色の液体が流れ出して、人一人が通り抜けられるだけの穴ができた。

「……大丈夫かい?」

ハルトの手を取り、その肩に手をやるとラボスは、ハルトの体をカプセルから引きずり出した。

「…………げふっっ!!ゴホッゴホッゴホッ!!…………ああ、ラボスさん生きていたんですね!」

「……とりあえず、今はここから逃げ出すことだけを考えるんだ!」

「あっ!!百合江を!百合江も助けてやってください!!」

ラボスはその言葉に怪訝な顔をして言う。

「百合江?百合江って誰のことだい?」

「俺が元の世界にいたときの恋人ですっっ!!どこか、その辺りに…………」

ハルトが身を起こして、カプセルの間を走って一つ一つ確認していく。

「…………いたっっ!!百合江っっ!!俺だっっ!!ハルトだっ!!」

カプセルの中の百合江が、ハルトの呼び掛けにうっすらとその両目を開く。

「…………ハルト…………。あなたにずっと会いたかった…………」

「ラボスさん!お願いしますっ!!」

ハルトに請われたラボスが、再び慎重にカプセルの一部を破壊する。

ザバァー、とカプセルの中の液体が流れ出し、百合江が外へと放り出される。

「百合江っっ!!大丈夫かっっ!?」

百合江の肩を抱き起こし、不安そうな瞳で見つめてくるハルトに、百合江は、幸せそうに微笑んだ。

「……感動の再会はひとまず後回しにしよう!!早く逃げないと、いつ、応援が来るか分かったもんじゃない!!」

フラフラしている百合江をサポートしながら、ハルトとラボスの二人は、実験室の扉を開けて、通路へと出て地上目指して歩いていく。

「…………百合江っ!もう大丈夫だからな!」

青ざめた顔の百合江を、その横で脇の下から腕をやって支えているハルトが元気づける。

「…………よしっ!辺りには応援はまだ来ていないみたいだな!このまま、地上まで出ればそこから後は僕が二人を抱えて飛ぼう!」

3人は、階段を登り魔術研究所の物置へと出る。

渡り廊下まで出ると、ラボスが、ハルトと百合江の体をしっかりと抱えて、今飛び立とうとしていたまさにその時。

「……ラボスか?貴様、ここで一体何をしている?」

渡り廊下の先に、サーシャ、オゥル、それに配下の研究員達が立っていた。

「サーシャ!!くそっ!二人を抱えた状態じゃ、魔法で攻撃されたら、僕はともかくハルト達がひとたまりもないっ!!」

そう苦悶に顔を歪ませながらラボスは言うと、両腕に抱えていた2人をそっと地面に下ろす。

「ラボスさんっ!!」

「心配しなくていいよ、ハルト。今の僕なら、彼らでもそう易々とはやられないさ!」

暫しの間、渡り廊下でラボスとサーシャが睨みあう。

「…………行くぞっ!!」

雄叫びをあげると、ラボスは躊躇なくサーシャ達へと突進した。



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