絶望の魔王

たじ

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ハルトは、混濁した意識の中で夢を見ていた。
夢の中では、百合江はまだ生きていて、ハルトと百合江の二人は、遊園地の片隅にあるベンチに腰かけている。

百合江は、横に座っている恋人のハルトに穏やかな微笑みを投げかけ、

「ずっと、こんな風に二人でいれたらいいね」

と呟く。

ハルトも、「……ああ、そうだな」

と、百合江にそう言って微笑み返した。


……このまま、二人でずっと一緒にーーーーーー。


……………………………………………………………………。
……………………………………………。
………………………………。


     ◆  ◆  ◆  ◆

魔術研究所にあるカプセルに閉じ込められた、
ハルトは、カプセルの中で穏やかな微笑みを浮かべている。

………………やがて、その顔は苦悶に歪み、ハルトは目を覚ました。

…………ここは?

ハルトは、辺りを見回すけれど、先程までハルトに微笑んでいた百合江の姿はもうどこにもなかった。

…………ああ、そうか。あれは、夢だったのか…………。
ハルトは思わず、自嘲の苦笑いを浮かべた。

……そうだよな。……百合江は、とっくの昔に亡くなってるんだ。
……そして、俺を守ってくれていたラボスは、遺跡の中であいつらにやられて、俺は今、囚われの身、か………………。

フフフフフ……。ハルトは、カプセルの中で突然、笑い出した。

……やっぱり、俺の人生は異世界に来たって変わらないな。
……ラボスと出会ったばかりの頃は、ひょっとすると、小説や漫画みたいに上手くいくか、とも思ったんだけどな…………。


……そんな風に、精神がボロボロになりつつある、ハルトの頭に直接、死んだはずの百合江の声が響く。

"……ハルト!……ハルトっ!私の声が、聞こえてる?ハルトっ!"

……ついに、俺の心も壊れちまったようだな。
死んだはずの百合江の声が、頭に鳴り響いてきやがる。

歪な笑みを浮かべるハルトに、なおも百合江の声は鳴り響く。

"……これは、現実よ、ハルト。……私は、事故に遭ってからこの世界に飛ばされてきた。そして、この魔術研究所で、人知れず、ずっとやつらのモルモットに…………"

それまで、カプセルの中で、俯いていたハルトは、その瞬間、バッと顔をあげて、辺りを見回した。

「……なんだって?百合江、お前、まだ死んで……なかったの……か?」

つっかえつっかえしながら、ハルトがそう声を漏らす。

"私は、あなたから離れたところにあるカプセルの中に閉じ込められているの。テレパシーが使えるのは、やつらがモンスターの体の一部を、私に植え付けた非道な実験の副産物よ。
…………ずっと、あなたに会いたかった………………"

そう、ハルトの頭に、百合江の声が響いた後、すすり泣くような声が小さく響いてくる。

…………嘘だろ!?そんな馬鹿な!?百合江まで、この世界に召喚されていたなんて…………。
…………何てことだ…………。

……なんてっ、なんて神は、残酷なんだっっ!!

…………ハルトも、百合江の響いてくる泣き声に釣られて、カプセルの中で泣き崩れた。
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