絶望の魔王

たじ

文字の大きさ
上 下
28 / 57

2-7

しおりを挟む
ハルトは、混濁した意識の中で夢を見ていた。
夢の中では、百合江はまだ生きていて、ハルトと百合江の二人は、遊園地の片隅にあるベンチに腰かけている。

百合江は、横に座っている恋人のハルトに穏やかな微笑みを投げかけ、

「ずっと、こんな風に二人でいれたらいいね」

と呟く。

ハルトも、「……ああ、そうだな」

と、百合江にそう言って微笑み返した。


……このまま、二人でずっと一緒にーーーーーー。


……………………………………………………………………。
……………………………………………。
………………………………。


     ◆  ◆  ◆  ◆

魔術研究所にあるカプセルに閉じ込められた、
ハルトは、カプセルの中で穏やかな微笑みを浮かべている。

………………やがて、その顔は苦悶に歪み、ハルトは目を覚ました。

…………ここは?

ハルトは、辺りを見回すけれど、先程までハルトに微笑んでいた百合江の姿はもうどこにもなかった。

…………ああ、そうか。あれは、夢だったのか…………。
ハルトは思わず、自嘲の苦笑いを浮かべた。

……そうだよな。……百合江は、とっくの昔に亡くなってるんだ。
……そして、俺を守ってくれていたラボスは、遺跡の中であいつらにやられて、俺は今、囚われの身、か………………。

フフフフフ……。ハルトは、カプセルの中で突然、笑い出した。

……やっぱり、俺の人生は異世界に来たって変わらないな。
……ラボスと出会ったばかりの頃は、ひょっとすると、小説や漫画みたいに上手くいくか、とも思ったんだけどな…………。


……そんな風に、精神がボロボロになりつつある、ハルトの頭に直接、死んだはずの百合江の声が響く。

"……ハルト!……ハルトっ!私の声が、聞こえてる?ハルトっ!"

……ついに、俺の心も壊れちまったようだな。
死んだはずの百合江の声が、頭に鳴り響いてきやがる。

歪な笑みを浮かべるハルトに、なおも百合江の声は鳴り響く。

"……これは、現実よ、ハルト。……私は、事故に遭ってからこの世界に飛ばされてきた。そして、この魔術研究所で、人知れず、ずっとやつらのモルモットに…………"

それまで、カプセルの中で、俯いていたハルトは、その瞬間、バッと顔をあげて、辺りを見回した。

「……なんだって?百合江、お前、まだ死んで……なかったの……か?」

つっかえつっかえしながら、ハルトがそう声を漏らす。

"私は、あなたから離れたところにあるカプセルの中に閉じ込められているの。テレパシーが使えるのは、やつらがモンスターの体の一部を、私に植え付けた非道な実験の副産物よ。
…………ずっと、あなたに会いたかった………………"

そう、ハルトの頭に、百合江の声が響いた後、すすり泣くような声が小さく響いてくる。

…………嘘だろ!?そんな馬鹿な!?百合江まで、この世界に召喚されていたなんて…………。
…………何てことだ…………。

……なんてっ、なんて神は、残酷なんだっっ!!

…………ハルトも、百合江の響いてくる泣き声に釣られて、カプセルの中で泣き崩れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...