絶望の魔王

たじ

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私室で椅子に座って、魔術書を開き、ラーヌを元の世界に戻すための術式を再確認していたオゥルが、ふと魔術書から目をあげて怪訝そうな顔で言った。

「……うむ?魔力の高い何者かが、ここラーヌに近づいてきておる。しかも、その反応が二つ、とな?おいっ!誰かおらぬか!!」

オゥルの呼び掛けに、オゥルの部屋の扉を開けて研究員が一人、入ってきて言った。

「ハッッ!!オゥル様、お呼びですか?」

「……すぐに、魔導騎士団と魔術研究所所員全員に伝えよ!強力な魔力の持ち主が二人、ここ聖都ラーヌへすごいスピードで向かっておる、警戒せよ、とな…………」

「……わ、わかりましたっ!!」

それを聞いた研究員は、慌ててオゥルの部屋を飛び出していく。

「…………さて、いったい何者かのう……」

オゥルが不敵な顔でそう、呟いた。


     ◆  ◆  ◆  ◆


聖都ラーヌの近くの、神殿跡地にて魔方陣作成に勤しんでいた、数十人の研究員達のもとに、魔術研究所からの伝令が一人やって来て言った。

「おい、お前達!すぐに、研究所に集まり敵の来襲に備えろっ!!オゥル様からの命令だっ!!」

その言葉に、地面の上で作業をしていた、研究員達が一斉にバッと顔をあげる。

「……何だと?皆、すぐに戻るぞ!!」

年嵩の研究員が、その場の全員に声をかける。

数十人からなる一団は、駆け足で急いでラーヌへと戻っていった。


     ◆  ◆  ◆  ◆

その様子をラーヌから少し離れた空中で、旋風のパルスが目に留めて、

「…………あらあら、あたし達が、ラーヌに向かっているのがあちらさんにばれちゃったみたいねえ。こんなことになるなら、魔力遮断の魔法でも使っておいた方が良かったかしら?
……いいえ、それでもきっと、奴等は勘づいたでしょうね……。面白くなってきたじゃあないの!」

、と言ったかと思うと、ニヤリと邪悪な笑みをその顔に浮かべた。


     ◆  ◆  ◆  ◆


「いけない…………。何か、巨大で邪悪な魔力が、この場所へと近づいてきている…………」

魔術研究所の地下、ガラスのカプセルの並んだ部屋の、緑色の液体が満たされたカプセル、その一つの中で、百合江は不安にその身を震わせて呟く。

百合江は、魔術研究所の非道な実験でモンスターの体の一部をその体に植え付けられており、そのせいで、魔力を感知できるようになっていた。テレパシーが使えるのもそれ故だ。

"……ハルトッ!!ハルトッ!!"
百合江が心の中でテレパシーを使って、少し離れた場所にある、カプセルの中で昏睡しているハルトに呼び掛けるものの、彼は一向にその目を開かない。

…………きっと、普通の人間には、緑の薬液はその効力が強すぎるのだろう。

「……ハルト…………」悲しそうに眉を寄せて、百合江がカプセルの中で一人、呟いた。





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