絶望の魔王

たじ

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「サーシャ様!魔術研究所の連中が異世界人を連れて参りました!!」

魔導騎士団本拠地のサーシャの私室をノックした後、現れた一人の騎士がサーシャにそう報告した。

「…………そうか。流石は父上の選りすぐった追跡部隊だな。……わかった。すぐに行こう。」

報告に現れた騎士を後ろに従えて、サーシャがトレース達の待機している部屋へと向かうと、そこにはトレース達の横にロープで縛られた、見慣れない服を着て、茶色の髪を肩まで伸ばした優男が座っていた。

「サーシャ様。こいつが例の異世界人です。」

トレース達4人がサーシャの前に膝まづいてそう言った。

「……ほう。こやつが…………。」

サーシャは怒りの表情で睨み付けているハルトの顎にその右手を添えると、まじまじとハルトの目を覗き込む。

「…………フフフフフ……。……これで私と父上は更なる高みを目指すことができる。」

サーシャはそう呟くと、不吉な笑みを漏らした。


     ◆  ◆  ◆  ◆


俺は仮面の男にサーシャと呼ばれた、ガーマインでラボスと言い争っていた男と茶色の装束の一団に連れられて、黒い大理石作りの神殿のような建物へとやって来た。

その建物の廊下を奥まで進むと、サーシャが扉をコン、コン、とノックする。

「……入れ。」

中から嗄れた声がすると、俺の両脇を固めていた茶色の装束の男達が扉を開く。

男達に引っ張られて俺が部屋の中に入ると、正面にある大きな机の前に白い顎髭を蓄えた老人が一人座っていた。

サーシャが一歩進み出て俺を指差しながら言った。

「……父上。お喜びなされ!こやつが例の勇者です!」

「……なるほど。こいつ・・・がそうなのか……。


俺の顔をじっと見つめた後、老人が俺の隣にいる茶色の装束の一団に声をかけた。

「良くやったな、トレースよ。」

「所長にお褒めいただき、誠に感無量です。」

老人にトレースと呼ばれた仮面の男が恭しく頭を下げた。他の3人も老人に頭を下げる。

それを見ていたサーシャが苦々しげに口許を歪めた。

俺には、老人が自分には労いの言葉をかけてくれないのを悔しがっている、そんな風に見えた。

「よし。それではこの者を地下へと連れて行け。」

「ハッッ!!」

老人に命令されたトレース達がそう答えて老人に一礼した後、俺を引っ張って部屋を出る。

俺たちに少し遅れてサーシャが部屋から出てきた。

サーシャはトレースの顔をキッと睨んで恨めしい表情で言う。

「……父上は私が何を成し遂げようとも誉めてはくれない。なのに、父上は何故貴様のような下賤の輩には労いの言葉をかけられるのかっっ!!私の出自が卑しいからなのかっ!!クソッッ!!」

「……恐れながらサーシャ様。自分を少し卑下しすぎではないでしょうか。」

トレースがサーシャのその様子を冷ややかに見つめながらそう返すと、

「うるさいっっ!!貴様はさっさと父上の命じられた通りそいつを地下へと連れて行けっ!!」

と、サーシャはトレースを怒鳴り付けて怒りの収まらない様子で俺たちから離れ、通路を右へと曲がっていった。

トレースはその背中を見送って言った。

「……フン!元奴隷の分際でこの俺に物申すとは片腹痛いわ!お前達、行くぞっ!」

そして、トレースは俺の両脇を固めている茶色の装束達を先導して歩き出した。






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