絶望の魔王

たじ

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「多分クリミナ達は異世界の人間を探知する魔術研究所お手製の探知機を持っているはずだ。それにハルトの姿は一度あいつらに見られてしまっているからね。……変化の術か……。ちょっと待っててくれるかな?」

そう言うとラボスはその辺りにあった商店に入って行く。

少ししてから戻ってくると

「ここじゃ人目につきすぎる。こっちへ。」

と言って裏の通りに入って行く。
俺はその後に黙ってついていった。

「……よし!ここらで大丈夫かな。」

ラボスは懐から先程の店で買ってきたのか淡い光を放つ水晶を取り出して俺に呪文をかける。


光屈折リフレクションオブライト!」

すると俺の体を淡い白い光が覆ってやがて消えて行く。

「よし!これでハルトの姿は術をかけた僕以外には全く違う姿に見えるはずだよ。後は……。」

ラボスは俺にかけたものと全く同じ魔法を自分にもかけた。するとそれまでの姿とは異なりラボスの姿は見知らぬ若い青年のそれへと変貌する。

そしてラボスはまた懐から今度は赤い砂の入った袋を取り出して俺の頭から振りかけながら術を唱えた。

魔力遮断マジックインタラクト!」

赤い光が俺の全身を覆った後静かに消える。

「……これで奴らが探知機を使ったとしても反応しなくなった。もう安心だ。」

青年の姿に変わったラボスが俺にそう言ってにっこり笑いかけた。


    ◆  ◆  ◆  ◆


「……ん?急に反応がなくなったな……。さてはラボスが何かの魔法を使ったのか?」 

手の中の探知機をまじまじと見つめてクリミナが言う。

クリミナの周りにいた4人も思わずその表示を確かめた。

「……これでは奴らがどこに行こうと我々にはもう分かりません。クリミナ様どういたしましょう?」

4人の内の一人が困った顔でクリミナにそう問いかける。

「………………………。……まずはサーシャ様に再びご報告差し上げて指示を待つしかない、か……。」

苦り切った顔でクリミナが部下の一人にそう答えた。


    ◆  ◆  ◆  ◆


「奴らと出くわしたこの街にいつまでも留まり続けるのはマズイ。かといって抜けるのに何日か掛かるベルの森へ行くのも良くないと思う。ベルの森の中で奴らとモンスターに挟まれちゃ一巻の終わりだからね。
……であればとりあえずは一旦ケニーまで戻ろう、と言いたい所だけどそれではサーシャ達に簡単に勘づかれかねない。そこでクリーから東に何日か行ったところにあるラルという小さな村まで移動しようと思う。
……今回は依頼されていたマジックアイテムの配送は出来なくなった旨をこの街のギルドにラーヌにいる依頼主の商店へと伝えてもらうことにしよう。」

ラボスの言葉に

「……何かすいません。俺のせいで……。」

とションボリする俺にラボスは首を振ってこう言った。

「……いやいや。今度は僕がハルトに何か助けてもらうことがあるかもしれないしお互い様だよ。」

……そうして俺達はクリーの街を離れることにした。


    ◆  ◆  ◆  ◆

「おっかしいわねぇ。何で突然異世界人の魔力探知が出来なくなったのかしら。確かにさっきまでは出来てたはずなのにぃ~~!」

旋風のパルス率いる一団はコーダとケニーの丁度中間地点を飛びながら移動していた。

「さては誰かが魔法で感知できないように小細工したのね!……もうっあったま来ちゃうっっ!!
さてさてどうしたものかしらねぇ~~?魔力探知が効くようになるまで魔王城に戻っとこうかしら……。片っ端からその辺にある街を襲うわけにもいかないしねぇ……。」

パルスがそう言うと旋風のパルス率いる一団は進路を変え魔王城へと戻り始めた。







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