絶望の魔王

たじ

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食の都ケニー。街の背後には雄大な山々が連なっており、2時間も歩けばこの大陸を囲んでいる大海原が見える。
海も山も近くにあるという特殊な場所柄、この大陸のありとあらゆる食材がこの地には揃っており、自然と腕に覚えのある料理人達も集まってくる。

そうして、ケニーは昔からこの大陸ではグルメの街として広く人々に親しまれてきた。

通りには様々な、バラエティに富んだ料理を供する屋台が軒を連ねており、そのどれもから何とも食欲を刺激する、芳しい香りが漂ってきている。

その通りを今俺とラボスはどの店に入ろうか考えながら歩いていた。

「……滅茶苦茶いい匂いがしますね。」

「そうだろう?この街には何でも店ごとにその美味さを評価する、そんなマニアックなギルドも存在する位なんだ。
ほら、見てごらん!あそこの店の看板の横にある、金属のプレートを。
あの三角のプレートがある店っていうのはそのギルドお墨付きの名店ってことなんだよ。」

前方の2階建ての料理店を指差してラボスが説明してくれる。

「……へぇー。まるでミ○ュランみたいだな……。」

「ミ○ュランってなんの事?」

キョトンとした顔でラボスが尋ねる。

……マズい。俺は記憶喪失っていう設定だった。俺は慌てて誤魔化しにかかる。

「いやー、何か頭が痛いなー……。すみませんがちょっとそこのベンチで休ませてもらえませんか?」

「だ、大丈夫かい?……やっぱり何か頭部にダメージを受けてそれで記憶喪失になったのかな……。とにかくこっちに!」

そう言ってラボスは俺の肩に両手を添えながら手近にあったベンチまで俺を誘導してくれる。

「……イタタタタッッ!!」

……我ながらなんて下手な演技なんだろう。
それでも傍らのラボスは心配そうな顔でこちらの様子を伺っている。

……うーーん。何となく心が痛い。


……10分程、ベンチにうずくまった後で俺はスッキリした顔を装いながら身を起こして言った。

「いやーー、本当にすみませんでした!!
何か急に具合が悪くなってしまって……。」

「いや、それはいいんだけどさ。
……ひょっとして何か思い出したりしたのかな?自分の故郷なんかについて。」

「……いやー、何か一瞬頭に浮かぶものがあったんですけどすぐに忘れちゃいました。
……アハハハハ……。」

……本当に俺の演技と来たら大根だな。

「……そうか。それは残念だったね。」

その時、グ~~~~ッ!!、と二人の腹が同時に盛大な音を立てた。思わず顔を見合わせて二人とも照れたような笑いを浮かべる。

「おやおや!……どうやら悩まずにとっととどこかの店に食事に入った方が良さそうだね。そうだな……。あそこでもいいかい?」

ラボスは先程の三角のプレートが飾られている二階建ての料理店を指差した。

「え、ええ!もちろん!!」

そうして俺達はギルドお墨付きの店まで歩いていった。


     








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