女の子なのに能力【怪力】を与えられて異世界に転生しました~開き直って騎士を目指していたらイケメンハーレムができていた件~

沙寺絃

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三十四話 イケメン執事のお夜食

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 会談が決定されて以来、ルゥの行動は今まで以上に厳重に監視されるようになった。会談を目前に控えた最近では、一日の大半を伯爵家で過ごしている。
 アルスター伯の屋敷に用意された部屋で、私たちを前にルゥは大きなため息を漏らした。

「僕が王都に赴けば、僕の身が狙われる危険性が高くなる。反対にゲイリーがアルスターに赴くのであれば、ゲイリーが狙われる可能性が高くなる。だから僕はアルスターでの会談を望んだ。……でもずいぶんあっさりと、ゲイリーはアルスターでの会談を承諾したな。もう少し渋るかと思っていたんだけど」
「向こうも余裕がないんじゃないの?」
「……ならいいんだけど」

 私たち第一分隊は、夜は伯爵家に入ってルゥの身辺警護に当たっていた。昼は今まで通り、騎士学校での訓練に励んでいる。日中は正規の騎士団員が身辺警護に当たっているから安心だ。
 今日の夜も、ルゥは私たち第一分隊の面々と話し合っている。

「それにしても、君たちと話していると安心するよ。アルスター伯たちは僕に良くしてくれるけど、その分気の休まる時が少ないからね」
「第一分隊を護衛につけて正解でしたね」

 もちろんレスターさんも一緒だ。

「……ところで先程の話ですが。ゲイリーがあっさり要求を呑んだ件について、俺も気になっています。もしや何か、よからぬことを目論んでいるのではないでしょうか」
「レスターもそう思うかい。そうだね、実際にゲイリーはこれまでも様々な奸計をめぐらせては、現在の地位を掴んできた男だ。今回も何か裏があると見た方がいいんじゃないかと思っている。考えすぎと言われればそれまでだけど、どうも気がかりでね」
「俺の方で調査に当たってみます。会談の現場やゲイリーの宿泊先はもちろんのこと、ゲイリーの経歴についても洗い直してみましょう。それからアルスターへやって来る経路についても改めて調べます。クリフも協力してくれると言っていました」
「クリフも? 彼は元気かい?」
「はい。状況が状況なので表には出てこられませんが、夢にまで見たゲイリーへの復讐がようやく果たせると喜んでいるようです」
「ここまでゲイリーを追い詰められたのは、彼のおかげでもある。事態が落ち着いた後で、彼にも何か褒美を与えたいな」
「そうですね。ですが今は、来るべき会談に傾注なさってください」

 話が終わると私たちはルゥの部屋を出て、交代で歩哨に立つ。まずはヴィンセントとディランが、次に私とマギーの番だ。それまでは用意された部屋で仮眠をとる。

「あ」

 仮眠室に入るとお腹が鳴った。もちろん私のお腹の音だ。

「もう、アイリったらはしたないですわ。でも、おかげで緊張がゆるみましたわ。最近はずっと肩ひじを張り続けるような日々でしたからね」
「あははは、お恥ずかしい……」
「厨房へ行って、お夜食を頂いてきてはいかが?」
「あ、それなら私が行くよ。お腹が空いているのは私だからね。マギーも何かいる?」
「結構ですわ。わたくしは先に休んでおりますわね」
「了解」

 廊下に出るとレスターさんに出くわした。ちょうど仮眠室に入ろうとしているところだったみたいだ。

「ん、アイリか。どこへ行くんだ?」
「ちょっと厨房に。お腹が空いたので、夜食をもらおうかと」
「それなら俺が何か用意してやろうか」
「本当ですかっ!?」

 食い気味に身を乗り出すと、レスターさんは半歩後ずさる。

「あ、ああ。何だ、ずいぶんと嬉しそうだな」
「だってだって、レスターさんのご飯、久しぶりなんですもん! 最近はルゥに付きっ切りだから寮のご飯も作れないでしょう? レスターさんがいない食堂のご飯は、味気ないのなんのって……いや、もちろん美味しいですよ? でもレスターさんのご飯は別次元なんですよ! レスターさんのご飯が七色のレインボーなら、今の食堂ご飯はせいぜい三色ってところですよ!」
「よく分からない喩えだな……」

 そう言いつつもレスターさんの表情は微笑んでいた。

「だが、そこまで言ってくれるのならサービスするべきだな。来い、アイリ。厨房にある食材でお前の好きな料理を作ってやろう」
「やったー!!」

 最近はずっと緊張感ある小難しい話が続いていたんだから、たまにはこんなご褒美があってもいいよね!
 厨房に到着するとレスターさんは使っていい材料の中から林檎、ヨーグルト、ナッツ類、蜂蜜、卵を取り出した。
 ヨーグルトとナッツ、蜂蜜、卵をボウルで手早く混ぜ合わせると、薄くスライスした林檎を底の深い器に並べる。
 器にヨーグルトの液を流し込んで窯に入れて焼く。十分ほど待っている間にスープも作る。やがて窯から経つと香しい匂いが漂ってくる頃には、キャベツとウインナーのチーズスープが完成していた。

「林檎のヨーグルトグラタンとチーズスープだ。お前、リンゴが好きだろう。パンも食べていいぞ」
「ありがとうございますっ!! はうぅ、グラタン大好きっ! 短時間でこんなに美味しそうなご飯が作れるなんて……やっぱりレスターさんは最高です!!」
「大袈裟だな」
「いっただっきまーす! ……はむっ、はふはふ! うん、美味しい! グラタンもスープも最高ー!」
「もう夜も遅いのだから、あまり騒ぐな」
「あ、すみませんっ」
「俺個人としては別に構わないがな」

 実際レスターさんは、どことなく嬉しそうだった。

「むぐむぐ。レスターさんは食べないんですか?」
「俺はいい。腹は空いていない」
「でもせっかく料理を作ったのに、自分じゃ食べないなんてつまらなくないですか?」
「もう慣れた。それに俺は自分で食べるよりも、作った料理を喜んでもらう方が好きだな」
「あは。それじゃ私との相性抜群じゃないですか」
「……ああ、そうだな。今ではそうかもしれないと思っている」

 思いがけないレスターさんの発言に、ちょっとドキッとしてしまう。

「レスターさん、なんだか最近優しいですよね」
「まるで前の私は優しくなかったような言い方だな」
「そ、そういうわけじゃないですよ。でも前は、もっとピリピリしていたっていうか……一人でルゥを守る責任にプレッシャーを感じていたのかなって思うんですけど」
「……そうだな、お前の言う通りだ。以前の俺はルーファス王子を守る責任感を一人で背負っていた。特にアイリと出会ったばかりの頃は、な。初対面の頃は貴方が信用できる相手かどうか不安だったからな」
「今はどうですか?」
「今は――アルスター伯の部下や騎士団の方々が王子を守ってくださる。まだ気を抜けない状況ではあるけど、以前とは比較にならないな」
「ということは、今のレスターさんが本来のレスターさんなんですね」
「さあ……どうだろうな。自分が見えている相手の側面なんて、ほんの一部に過ぎないものだ」

 レスターさんは思わせぶりに嘯く。

「アイリ、お前はゲイリーの生い立ちを知っているか?」
「いいえ」
「そうか。……アルフレッド=ゲイリーは平民の生まれだ」
「え!? そ、それは初耳なんですけど!?」
「奴は辺境の土地の生まれだ。その土地は王家の目が届きにくい関係上、領主が独自に軍事力を持つことが許可されていた――言ってみればヴィンセント=キースの実家のようなものだな。魔法の才能に恵まれていたゲイリーは地方の騎士団に入団し、めきめきと頭角を現していった」
「……」
「同時に奴の優れていたところは、権謀術数に長けていたというところだろうな。奴は武功を立てて爵位を得ると、貴族に取り入って王宮に入った。その後は武官から文官に転身し、順調に出世を重ねて今日の地位を掴んだ」
「……なんだか、身につまされる話ですね」

 私も平民で、武功を立てて出世しようと計画している人間だから他人事のように思えない。

「ああ、そうだな。俺も王子誘拐事件の黒幕がゲイリーだと知るまでは、立身出世の手本として彼を尊敬している部分もあった。だが今は、忌むべき対象でしかない。何の後ろ盾もないところから出世するのは、確かに立派だ。しかし人として越えてはならない一線がある。あの男はそこを踏み越えてしまった。俺はあの男を反面教師にすると決めた。野心を持つのは悪いことではない。それでもあの男のようになってはいけない」
「ゲイリーのようになってはいけない……」

 レスターさんがどうしてこんな話をしたのか理解する。ゲイリーと私の境遇は似ている。
 貴族や騎士ではなく平民の出で、騎士団を足掛かりに王侯貴族とコネを作って成り上がったゲイリー。
 それ自体は悪いことじゃないとレスターさんは言った。私もそう思う。でもゲイリーのやり方は、私にとっても見過ごせない。
 私とゲイリーには共通点がある。だからこそあの男のようになってはいけない。反面教師にしろとレスターさんは言っているんだ。

「ありがとうございます。これから戦う敵のこと、さらによく分かりました」
「どういたしまして。……さあ、もう遅い。見張り交代の時間もあるから、そろそろ部屋に戻って仮眠に入れ」
「はーい」

 レスターさんと別れ、厨房を出て仮眠室に戻る。ベッドではマギーがよく眠っていた。

「さて、私も早く寝ないとね」

 ベッドに入って横になると、お腹が満たされていた私はすぐに眠りに落ちていった。
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