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三十二話 性別を超えて
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「まさかルゥが王子様だったなんて……全然分からなかったわね」
「その辺の女の子より、ずっと可愛かったもんな~」
みんなルゥの正体を、もう普通に受け入れているみたい。
……もっともごく一部では、打ちひしがれている人の姿もあるけど。
「ああ、ルゥちゃんが男だったなんて……俺はどうしたらいいんだ……」
ルゥはこの騎士学校のアイドル的存在だった。思いがけない事実に失恋の痛手を負っている人が何人かいる。
うちの分隊のヴィンセントも、第二分隊のエリックも、テーブルに肘をついて両手で頭を抱えていた。
「ルゥが男だったなんて……」
「しかも我が国の王子とは……おお、神よ!」
「男の娘だね。男の娘(むすめ)と書いて、おとこのこ」
「あらアイリ、お上手ですわね。気に入りましたわ」
マギーには受けたようだけど、ヴィンセントはニコリとも笑わない。当たり前か。
「ああ、何てことだ! いや、王子の事情は分かっている。責めるつもりはない!」
「同感だ、ヴィンセント君! 行き場をなくしたこの想いを、一体どうしろと言うのだ!?」
ヴィンセントの隣では、普段いがみ合っているエリックが同じように頭を抱えていた。
なんて声をかけていいか悩んでいると、マギーが思い出したように口を開く。
「そういえばアイリ。あなたは同室なのですから、ルーファス王子の正体に気付いていたのではありませんこと?」
「えッ!?」
食堂中の注目が集まる。
どうしよう? 気付いていたってことにした方がいいのかな?
でもルゥはさっき、私には関係ないって言っていたし――それに王子とはいえ、男と女が同室で一緒に暮らしていたってのも体裁が悪い。ここは知らなかったフリをするのが得策だ。
「し、知らなかったなあ~! ルゥは体に傷跡があるってことだから、お風呂に入れなかったし、トイレは個室だったし、着替えの時もジロジロ見たりしなかったから! そ、そういえばあの傷跡、さっき見当たらなかったね! あれも偽物だったのか~。いや~、騙された! 人を信じすぎるのも考え物だね~!」
「……」
うぅ、白々しすぎたかな? 脇腹に冷や汗が流れる。
「……ふふ、やっぱりアイリも気付いていなかったのですね」
「え?」
「当然だ、アイリはむやみやたらに他人を疑うような女ではない。心根の立派な俺の未来の妻だ!」
「いや、相変わらず隙あらば妻認定しようとしないでくれる?」
「良く言えばお人よし、悪く言えば単純。言われたことをそのまま信じてしまう人ですものね」
「それって褒められてるの? 貶されてるの? どっちなの!?」
私の疑問には誰も答えず、他の分隊の面々もうんうんと頷く。
「確かにアイリは、お風呂や更衣室で人の体をジロジロ見てくるような人じゃないわね。ましてや見ないでほしいと言われたのなら、気付かなかったのも無理はないわ」
「ルゥは女の子にしか見えなかったもんなあ」
「それだけ王子の演技力が優れていたってことさ!」
「アイリは脳筋だから、細かいことに気付かなかったんだろう」
一部喜んでいいのか分からない意見もあったような気がするけど。ひとまずこの場は治まったからいいか。
「ま、まあそれに、ルゥが男の子でも女の子でも関係ないよね。王子様なのは意外だったけど、性別なんて大した問題じゃないよ!」
「性別なんて、問題じゃない……?」
フォローのつもりで捲し立てると、それまで頭を抱えていたヴィンセントが顔を上げる。
「だってルゥはルゥでしょう? たとえ正体が王子様でも、私たちの知っているルゥがいなくなったわけじゃないよ」
「そう……そうだな。性別なんて関係ない、ルゥはルゥだ! 僕が恋したルゥは消えていない! 性別が違ったというだけで、依然として目の前に存在しているじゃないか!」
「ん?」
「そうだ、君たちの言う通りだ! アイリーン君もたまにはいいことを言うじゃないか!」
ヴィンセントとエリックに続くように、ガチ失恋勢たちが活気づく。
ヴィンセントはエリックとがっちり握手を交わし、熱い視線を交錯させる。
「エリック! 今まではルゥの周辺を飛び交ううるさいコバエだと思っていたけど、よくよく考えてみれば同じ人を好きになった者同士だ。僕たち、ひょっとすると気が合うかもしれないな」
「ヴィンセント君! 今まではルゥさんにまとわりつく邪魔なカトンボぐらいにしか思っていなかったが、これからは同じ人を愛した者同士、協力してやっていこうじゃないか!」
「二人とも、間違いなく馬が合うよ。似た者同士だもん」
彼らは同じ困難を乗り越えたことで、結束力が高まっているみたいだった。なおテーブルの向かいでは、マギーが瞳を爛々と輝かせている。
「そうですわね、ルゥが男の子だったのなら……イケますわ! 女装した男の子に恋しています男の人……けれど正体が明かされた後も気持ちは変わることなく……ああ、創作意欲が湧いてきましたわ! ぜひこのシチュエーションも魔導書に加えておかないと!!」
「あははは」
「いいえ、いっそのことルゥに恋した男同士の間にロマンスが芽生えるという展開もありですわね! ああ、次から次へとインスピレーションが湧いてきますわ! 今日はなんて日でしょう! 素晴らしいですわ!」
「あはははははははは」
目を輝かせるマギーの隣で、ディランが大きく溜息をつく。
「まったく、どいつもこいつもどうかしているぞ」
「珍しく気が合うね」
「おお、そうか! ならば結婚するか!?」
「どうしてそうなるの!? 前言撤回、あんたと私は根本的なところが致命的に合わない!」
まあ何はともあれ、ルゥの正体をみんなが受け入れてくれて良かったことに変わりはない。
奇人変人だらけの騎士学校。最初はどうなることかと思ったけど、こうなってみると良い方面に作用したんじゃないかな。
喧騒に包まれながら、私はそんなことを考えていた。
「その辺の女の子より、ずっと可愛かったもんな~」
みんなルゥの正体を、もう普通に受け入れているみたい。
……もっともごく一部では、打ちひしがれている人の姿もあるけど。
「ああ、ルゥちゃんが男だったなんて……俺はどうしたらいいんだ……」
ルゥはこの騎士学校のアイドル的存在だった。思いがけない事実に失恋の痛手を負っている人が何人かいる。
うちの分隊のヴィンセントも、第二分隊のエリックも、テーブルに肘をついて両手で頭を抱えていた。
「ルゥが男だったなんて……」
「しかも我が国の王子とは……おお、神よ!」
「男の娘だね。男の娘(むすめ)と書いて、おとこのこ」
「あらアイリ、お上手ですわね。気に入りましたわ」
マギーには受けたようだけど、ヴィンセントはニコリとも笑わない。当たり前か。
「ああ、何てことだ! いや、王子の事情は分かっている。責めるつもりはない!」
「同感だ、ヴィンセント君! 行き場をなくしたこの想いを、一体どうしろと言うのだ!?」
ヴィンセントの隣では、普段いがみ合っているエリックが同じように頭を抱えていた。
なんて声をかけていいか悩んでいると、マギーが思い出したように口を開く。
「そういえばアイリ。あなたは同室なのですから、ルーファス王子の正体に気付いていたのではありませんこと?」
「えッ!?」
食堂中の注目が集まる。
どうしよう? 気付いていたってことにした方がいいのかな?
でもルゥはさっき、私には関係ないって言っていたし――それに王子とはいえ、男と女が同室で一緒に暮らしていたってのも体裁が悪い。ここは知らなかったフリをするのが得策だ。
「し、知らなかったなあ~! ルゥは体に傷跡があるってことだから、お風呂に入れなかったし、トイレは個室だったし、着替えの時もジロジロ見たりしなかったから! そ、そういえばあの傷跡、さっき見当たらなかったね! あれも偽物だったのか~。いや~、騙された! 人を信じすぎるのも考え物だね~!」
「……」
うぅ、白々しすぎたかな? 脇腹に冷や汗が流れる。
「……ふふ、やっぱりアイリも気付いていなかったのですね」
「え?」
「当然だ、アイリはむやみやたらに他人を疑うような女ではない。心根の立派な俺の未来の妻だ!」
「いや、相変わらず隙あらば妻認定しようとしないでくれる?」
「良く言えばお人よし、悪く言えば単純。言われたことをそのまま信じてしまう人ですものね」
「それって褒められてるの? 貶されてるの? どっちなの!?」
私の疑問には誰も答えず、他の分隊の面々もうんうんと頷く。
「確かにアイリは、お風呂や更衣室で人の体をジロジロ見てくるような人じゃないわね。ましてや見ないでほしいと言われたのなら、気付かなかったのも無理はないわ」
「ルゥは女の子にしか見えなかったもんなあ」
「それだけ王子の演技力が優れていたってことさ!」
「アイリは脳筋だから、細かいことに気付かなかったんだろう」
一部喜んでいいのか分からない意見もあったような気がするけど。ひとまずこの場は治まったからいいか。
「ま、まあそれに、ルゥが男の子でも女の子でも関係ないよね。王子様なのは意外だったけど、性別なんて大した問題じゃないよ!」
「性別なんて、問題じゃない……?」
フォローのつもりで捲し立てると、それまで頭を抱えていたヴィンセントが顔を上げる。
「だってルゥはルゥでしょう? たとえ正体が王子様でも、私たちの知っているルゥがいなくなったわけじゃないよ」
「そう……そうだな。性別なんて関係ない、ルゥはルゥだ! 僕が恋したルゥは消えていない! 性別が違ったというだけで、依然として目の前に存在しているじゃないか!」
「ん?」
「そうだ、君たちの言う通りだ! アイリーン君もたまにはいいことを言うじゃないか!」
ヴィンセントとエリックに続くように、ガチ失恋勢たちが活気づく。
ヴィンセントはエリックとがっちり握手を交わし、熱い視線を交錯させる。
「エリック! 今まではルゥの周辺を飛び交ううるさいコバエだと思っていたけど、よくよく考えてみれば同じ人を好きになった者同士だ。僕たち、ひょっとすると気が合うかもしれないな」
「ヴィンセント君! 今まではルゥさんにまとわりつく邪魔なカトンボぐらいにしか思っていなかったが、これからは同じ人を愛した者同士、協力してやっていこうじゃないか!」
「二人とも、間違いなく馬が合うよ。似た者同士だもん」
彼らは同じ困難を乗り越えたことで、結束力が高まっているみたいだった。なおテーブルの向かいでは、マギーが瞳を爛々と輝かせている。
「そうですわね、ルゥが男の子だったのなら……イケますわ! 女装した男の子に恋しています男の人……けれど正体が明かされた後も気持ちは変わることなく……ああ、創作意欲が湧いてきましたわ! ぜひこのシチュエーションも魔導書に加えておかないと!!」
「あははは」
「いいえ、いっそのことルゥに恋した男同士の間にロマンスが芽生えるという展開もありですわね! ああ、次から次へとインスピレーションが湧いてきますわ! 今日はなんて日でしょう! 素晴らしいですわ!」
「あはははははははは」
目を輝かせるマギーの隣で、ディランが大きく溜息をつく。
「まったく、どいつもこいつもどうかしているぞ」
「珍しく気が合うね」
「おお、そうか! ならば結婚するか!?」
「どうしてそうなるの!? 前言撤回、あんたと私は根本的なところが致命的に合わない!」
まあ何はともあれ、ルゥの正体をみんなが受け入れてくれて良かったことに変わりはない。
奇人変人だらけの騎士学校。最初はどうなることかと思ったけど、こうなってみると良い方面に作用したんじゃないかな。
喧騒に包まれながら、私はそんなことを考えていた。
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