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二話 やって来ました軍事都市

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 転生後、私は村でも指折りの怪力と評判になった。おかげでまだ小さいのに、重労働を押し付けられることになった。
 私が転生したイース王国は、いわゆる中世期のヨーロッパに似た封建的な国だ。当然ながら子供の――しかも平民の子供の権利なんて歯牙にもかけられていない。
 物心ついた私は野良仕事に伐採、狩猟、畑を荒らす獣やモンスター退治。
 素手で熊を絞め落とし、オークを殴り殺した時には村中大騒ぎだったっけ。

『うおおお、肉だ、新鮮な肉だあ!!』
『畑を荒らす害獣どもを退治して、肉も食える。アイリには大助かりだな!』

 まあ名誉なことではある。実際、褒められて嬉しかった。他人からの承認という意味では前世より遥かにマシだったと思う。
 だけど私は現代日本の生活水準を知っている。そんな私にとって、この世界での農村の暮らしは――特に食事という面では、とても耐えきれるものじゃなかった。
 そりゃ獣やモンスターを狩るようになって、お腹は満たせるようになったよ?
 でも調味料はシンプルで塩のみ。スパイスである胡椒や、嗜好品である砂糖なんて手に入らない。
 せっかく手に入れた肉も丸焼きにして、塩をまぶして食べるだけ。あるいは燻製にして保存食にするか。何にしてもグルメとは程遠い世界だった。

 でもそんな折に、私は運命の出会いを果たす。たまたま近くの山に極上の竜肉を狩りに行った時のことだ。火竜退治に来ていた領主様の騎士団が追い詰められていた。
 といっても当時の私は騎士団なんて目に入っていなかったけど。眼前にある極上の食材しか見えていなかった。
 けどまあ、結果的に騎士団の皆さんを助けたというわけだ。
 ものすごく感謝された。そして私がただの村娘だと知ると、騎士団長が熱心に騎士へと勧誘してくれたのだ。

『君ほどの力の持ち主を、一介の村娘や冒険者として終わらせるのは惜しい! ぜひイース王国に仕える騎士となるべきだ!』
『騎士ってなろうと思ってなれるものですか? 生まれついての身分とか、大きな戦功をあげないとなれないって聞きましたよ。最近はあんまり大きな戦争もないし、なりたくてもなれないんじゃないですか?』
『今回、君は我々を救ってくれたではないか。私の方から軍都アルスターの騎士学校に推薦状を書くこともできるぞ』
『本当ですかっ!? 実は私、ずっと騎士に憧れていたんです! でも私はただの村娘だし、大きな戦争もないから諦めかけていたんです。騎士っていいですよね! だって毎日三食おいしいご飯が食べられるんでしょう!?』
『いや、その動機はどうなんだ』
『え、食べられないの?』
『まあ……農民に比べれば、格段に食生活の水準は高いが』
『でしょう!? 私、知ってるんですよ! 冒険者ギルドのある街のレストラン、あそこの最上級メニューみたいなご飯を毎日食べられるんでしょう! B級以上のモンスターを討伐してようやく食べられるようなご飯を、騎士様なら毎日食べることができるんですよね!?』
『ううむ……否定はせぬが。分かった。それほど言うのであれば推薦状をしたためよう。君も村のご家族と相談した後で私の屋敷に来なさい。文字は読めるか?』
『はいっ、ばっちりです!』
『ならば問題ないな。住所を記しておこう』

 ということで、私は騎士を目指すことになった。
 レット村の人々は、大事な労働力である私が抜けることに最初は渋っていた。だけど私は必死にプレゼンした。

『アルスター騎士学校は二年制です! 順当に行けば二年後には卒業、三年後には正式な騎士になって貴族に仕えるか、どこかの騎士団に所属してみせますよ! 将来的に私の名前が売れれば、レット村を大々的に宣伝します! 故郷に錦を飾るってやつですね! そうすれば悪徳貴族だって法外な徴税なんて出来なくなるでしょう! よその街や村と取引する時だって、私の名前を出せば足元を見られることがなくなりますよ! 長期的に見れば今ここで私を送り出す方が、レット村にとってお得なんです!!』

 幸い村長さんは街の学校を出ている人だったので、話を分かってくれた。最終的には両親も折れて、私の騎士学校入学が許可された。
 でもその年の入学試験はもう終わっていたから、半年ほど騎士団長の家で礼法や座学について学んだ。
 それから戦い方についても。それまでの私は持前の怪力任せの力業ばかりだったけど、騎士を志すにあたり“技”を騎士団長から教わったのだ。
 いくつかの技を教わった後で、騎士団長――師匠はこう言った。

『アイリ、正直に言おう。今のままでは入学試験で死人を出しかねん。お前の力はずば抜けているが、かといって試験で死人を出せば失格となるだろう』
『そんな! どうすればいいんですか!?』
『ある程度力を弱体化させるしかあるまい。多少弱体化してもやっていけるように、私はお前に“技”を教えたのだ』
『ううー……ちょっと不安だけど仕方ないですよね。入学できなきゃ元も子もないもん』
『そういうことだ』

 そして私は師匠の奥さん――元貴族令嬢の魔術師の手で、弱体化魔法(デバフ)をかけてもらった。
 弱体化魔法といっても、すぐに解ける類の魔法じゃない。特殊な術式と魔石によって造られたペンダントに、私の力の半分を封印してもらったのだ。このペンダントが破壊されない限り、私は本来の力の半分しか出せない。
 おかげでモンスターを退治するのも少し手こずるようになった。けど、これから騎士見習いの中に混じって二年間学ぶのなら、これぐらいでちょうどいいと師匠は言った。
 まあ騎士学校に推薦してくれたのは師匠だし、悪いようにはならないだろう。そう思って、私はひたすら修行と勉強に励んだ。

 そして今、私はアルスター騎士学校の校門前にいる。
 入学願書を出して宿を取り、いよいよ入学試験の当日がやって来た。騎士学校の入学試験は厳しく、三日に渡って行われる予定だと師匠から聞いている。

「よーし、やるぞー!!」

 校門前で気合を入れる私を、何人かの試験生が驚いたように見返してきた。

***

 試験一日目は筆記試験。騎士に必要な教養、礼法、最低限の学力などが判定される。
 二日目と三日目は実技試験だ。
 師匠曰く、筆記よりも実技試験で好成績を残すことが重要らしい。
 極端な話、筆記がギリギリでも残り二日間の実技試験で一位になれば、首席入学が可能だという。
 筆記試験は丸暗記で対処する。結果にはあまり期待していない。合格さえしていればいい。私は二日目と三日目の実技試験で、トップになると決めているんだから!

 二日目はトーナメント方式の個人実技試験だ。二つのリーグに分けられて腕を競い、最終的にAリーグとBリーグの優勝者が戦う。
 私はAリーグと総合決勝の両方で優勝した。いくら弱体化されているといっても、騎士見習いに遅れを取る私じゃない。これぐらいは余裕だ。

 最終日、三日目はペアでの実技試験だ。
 てっきり学校側でペアを決めるんだと思っていたけど、教官の口から飛び出してきたのは、

「では、二人組を作るように!」

 ――という無情な一言だった。
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