ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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四章

四十二話 国境最前線へ

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 国境に到着したハイラルは、険しい顔をする。
 そこには数え切れないほどの天幕が立ち並んでいた。さらにその周囲を武装した兵士たちが巡回している。
 
「ハイラル殿下! エクレール殿下も聖女様も、よくぞお出でくださいました! 援軍派兵、感謝いたします!」
「うむ、ご苦労。状況はどうなっている?」
「はい、殿下。敵兵は開戦初日からしばらくは突撃攻撃を繰り返しておりました。しかし国境警備隊が敵軍の攻撃を耐えきった現在は膠着状態が続いております。今のところは目立った動きはありませんが、いつまた攻めてくるかも分かりません」
「なるほど……敵軍の規模は掴めているか?」
「はい。先ほど斥候隊の報告によりますと、開戦時点の敵の総数は約三万人と判明致しました」
「三万か……確かルイン王国軍の総数は五万だったな。という事はこの戦いに総力の半数以上をつぎ込んでいるのか。それに対して国境警備隊の人数は一万五千だったな。半分の数で数日間攻撃を耐えきり、膠着状態に持ち込めたのか。素晴らしい、よくやってくれた!」
「はっ! ありがたきお言葉です!」
「帝国軍の総数は三十万、今回援軍に派兵された近衛兵団は二万だ。他にも各地から援軍が派兵されこの戦線へ向かっている。戦力差は歴然だ。今が踏ん張り所だ、各兵は奮励努力せよ!」
「はいっ!!」
 
 ハイラルは陣地に入ると、兵たちを鼓舞して回った。
 戦力上は有利な上に、第一皇子自らが戦線に来て共に戦うとあって、帝国兵たちは高揚し指揮が跳ね上がる。
 
「ハイラル兄さん、報告……ロラン兄さんの交渉のおかげで、近隣領主たちの協力を取り付けられた……これで補給面も不安はなくなったよ……!」
 
 エクレールも嬉しそうだ。ハイラルも笑う。
 
「それは良かった! ロランの奴、よくやってくれたな! ロランの働きに報いる為にも、何としてでもルイン王国軍を打倒し追い返すぞ!!」
「「「おおーっ!!」」」
 
 帝国兵たちが歓声を上げる中、アリーシャは負傷兵たちの治療にあたる。
 
「うぅぅ……」
「大丈夫ですか? さあ、このポーションを飲んでください」
「あぁぁ……」
「お気を確かに! 大丈夫、致命傷ではありません。すぐに傷を癒します……!」

 アリーシャが作るポーションは効果抜群で、ポーションを飲んだ兵士たちの傷が癒えていく。
 さらに治療の力を使って、深手を負って苦しんでいた兵士たちの傷が塞がり、表情が穏やかになっていった。
 アリーシャの癒しの力を目の当たりにした帝国兵たちからは感嘆の声が上がる。
 
「あれが聖女の力……!」
「噂には聞いていたが、まさかこれほどのものとは……」
「これが女神様の御業なのか!?」
 
 帝国兵たちにとって、聖女の力はまさしく奇跡の光。
 アリーシャの献身的な姿に心を打たれると同時に、帝国兵たちは奮起した。
 
「聖女様と皇子様方がいらっしゃれば、我らアストラ帝国が敗ける筈もない!!」
「ああ! 帝国万歳! アストラ帝国に栄光あれ!!」
 
 帝国兵たちは声を上げて士気を高める。
 すると、そこにエクレールがフィールドキッチンと共にやってきた。
 
「はいはーい、注目……やる気を出すのはいいけど、腹が減っては戦はできないからね……ボクが開発したフィールドキッチンで炊き出しを行うから、みんなまずはお腹を満たして英気を養いましょうね」
「おおおっ! なんという香しい香り!!」
「うぅっ、まさか戦場で温かいスープと焼きたてのパンが食べられるとは……感激です!!」
「エクレール様、本当に料理が上手ですね」
「ふふん、まあね。これでも料理は得意なんだ」
 
 エクレールは自慢げに胸を張る。アリーシャは笑みを浮かべた。
 こうして戦力、補給、胃袋、治療のすべてを満たされた国境軍はますます士気を高めた。
 そして来るべき決戦に向けて、英気を養うのだった。
 

***

 
 数日後――ついにルイン王国の大軍勢が国境の防衛線を突破して、国境を越えてきた。
 それを察知したハイラルは全軍に檄を飛ばす。
 
「皆のもの、いよいよ来たぞ!! ルイン王国軍が国境を越えた! これより我々は敵と交戦する! だが、決して恐れる事はない! 我等には女神様がついておられる! 勝利は我々のものだ! いざ進め! 進軍開始!!」
「「うぉぉぉぉぉ!!!」」
 
 アストラ軍は一斉に進軍を開始した。
 最高潮に士気が高まっていたアストラ軍は、破竹の勢いでルイン軍を撃破していく。
 ハイラルは自軍の優位を感じながら、自ら前線に立って剣を振るう。
 
「はあっ!」
「ぐわぁっ!」
 
 ハイラルの一振りによって敵軍の兵士の首が飛ぶ。その様子を見たルイン王国軍の兵士たちは動揺した。
 
「嘘だろ……! たかが一人の男に、何でこんなにもやられてんだよ……!」
「馬鹿野郎! 何を怖じ気づいてやがる! 相手はたった一人だぞ! 数で押し潰せば問題ねえよ!」
「そ、そうだな!! 行くぞ――よしっ! いいぞ、敵は後退している! この勢いに任せて――ッ!?」
「うわああああああっ!?!?」
 
 ハイラルは一旦退いたと見せかけて、ある地点にルイン王国兵を引き付ける。
 ルイン王国兵が誘い込まれた地点に火の矢が突き刺さった。
 アストラ帝国軍の背後にある高台の上から、エクレールが率いる部隊がルイン王国軍めがけて魔道具【火槍】を一斉に放った。
 
「なっ!?」
「ぎゃあああ!」
「ひぃっ!」
「ふぅ……やったよ、兄さん……後は頼むね……」
 
 突如頭上から攻撃を受けたルイン王国軍は混乱する。ハイラルは叫んだ。
 
「今だ! 一気に敵陣を突破するぞ!」
「はっ!」

 ハイラルの合図で、帝国兵たちは敵陣へと斬り込んでいく。
 
「くそっ! アストラ帝国の連中、やりやがった! 怯むんじゃねぇ! とにかく殺せ!」
 
 ルイン王国の指揮官の叱咤に、ルイン王国兵は雄叫びを上げながら反撃を開始する。
 しかしアストラ帝国軍は止まらない。
 両軍入り乱れる混戦の中、ハイラルは次々と敵を屠っていく。
 その鬼神の如き戦いぶりに、味方の帝国兵は奮い立ち、敵の王国兵は恐怖に駆られた。
 やがてハイラル率いる帝国軍は敵軍の本陣に辿り着き、王国軍の指揮官を討ち取った。
 
「皆の者、聞け!! ルイン王国軍の敵将は討ち取った!! もはや勝敗は決した! 降伏せよ! さもなくば死だ!!」
「「「うおぉぉっ!!」」」
 
 ハイラルの言葉に、帝国兵たちは歓喜の声を上げる。
 しかしそれでも抵抗する王国兵たちに、ハイラルは最終通告をする。
 
「今、投降すれば命までは奪わない! これ以上の無駄な血を流すな! 武器を捨てよ!!」
 
 その言葉に壊滅状態にあった王国兵の大勢が武器を捨て、帝国軍の捕虜になった。
 こうして国境戦は、アストラ帝国の勝利に終わった。
 ルイン王国軍は総力の半数以上を戦線に投入したが、その軍隊は壊滅。
 アストラ帝国の皇子自らが戦線に立ち、新型兵器の威力を披露し、皇子自らが敵将を討ち取るという歴史的勝利を宣伝する事になった。
 
 これにより、アストラ帝国とルイン王国とのパワーバランスが大きく変わる事になる。
 ルイン王国がアストラ帝国を打倒する事は、ほぼ確定的となったのだった。
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