ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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四章

四十一話 追い込まれたルイン王国

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 それからもアリーシャは聖女候補たちの為に、大司教たちと準備を進める。
 皇帝陛下もアリーシャの薬のおかげで最近はすっかり持ち直し、政務にも取り掛かれるほどには回復している。
 アリーシャは毎日忙しかったが、充実していた。
 そんなある日のこと。宮殿のカフェテリアで皇子たちと過ごしていると、とんでもないニュースが飛び込んできた。
 
「大変です、ハイラル殿下!!」
「どうした、何の騒ぎだ?」
「ああ、ロラン殿下にエクレール殿下、そして聖女様もご一緒ですね!! ちょうど良かった……! 報告します!! ルイン王国に面する北西の国境にて、ルイン王国軍がアストラ帝国の領土に向けて進軍を開始しました!!」
「なにっ!?」
 
 ハイラルは顔色を変えて立ち上がる。ロランとエクレールも表情を引き締めた。
 
「状況はどうなっているのだ?」
「はっ! これまでに入ってきた情報によると、ルイン王国のコリン王子は両親を強引に退位させ自らが新王に即位。即位と同時にアストラ帝国に一方的な宣戦布告を宣言すると、国境を踏み越えて侵攻してきた模様です!」
「なんだと、あの馬鹿王子が!! それで、女神教の大神殿は何と言っている?」
「それが何も……大神殿は今回の件について、不干渉の黙秘を貫いております」
「ふざけた真似を……!!」
 
 ハイラルはため息を吐くと、すぐに兵士や部下に指示を出す。
 
「すぐに皇帝陛下を玉座の間にお呼びしろ! ロラン、エクレール、それからアリーシャも来てくれ! 今後の方針を定める!」
 
 四人は急いで皇帝の元へ向かった。
 皇帝は疲れ切った様子だったが、それでもしっかりとした口調で話し始める。
 
「まずは皆に礼を言う。アリーシャ殿の献身的な治療のおかげもあり、この通り余は回復した。本当にありがとう。おかげでこの難事にも皇家一丸となって対処できる」
「勿体なき御言葉です」
「だが、事態は予断を許さない状況にある。このタイミングでの開戦、おそらくは我が国とルイン王国の関係に亀裂を生じさせるための策略であろう」
「……もしかして、私のせいでしょうか? 私がアストラ帝国にいるせいで、コリン王子――いいえ、コリン国王は……」
「アリーシャよ、それは違う」
 
 皇帝陛下はきっぱりと否定する。
 
「これまで帝国はルイン王国に対して、何度も譲歩を呼びかけた。それをすべて無視したのはルイン王国側である。全面的に悪いのはコリン王であって、アリーシャではない」
「そうだよアリーシャ。元はと言えば君を追放したルイン王国側が悪いんだ。君が気に病む必要はないよ」
「ロラン様……」
 
 ロランも皇帝陛下に同意して、アリーシャを励ます。エクレールも頷いた。
 
「……非がない事まで背負い込んでしまうと、責任の所在が曖昧になってしまう……それは良くない事だから、アリーシャは気にしなくていい……」
「エクレール様……分かりました、この件ではもう何も言いません。それよりも今後の対応を考えましょう」
 
 皇帝陛下は話題を変える。

「現在、国境付近に集結中の敵軍の規模はどれほどなのだ?」
「はい。正確な数は分かっておりませんが、少なくとも三万は下らないかと」
「……多いな。それだけの兵を動員するとは、ルイン王国側も本気という事か。ハイラル、対してわが国の軍はどうだ?」
「はっ、父上! 国境警備軍が約二万です。数字の上では不利ですが、地の利はこちらにあります。何より軍とは他国の領土を攻めるよりも防衛する側の方が強いもの。国境警備軍は士気が高い事でも有名です。当座は凌げるでしょう。が、しかし限界はあります。すぐさま他方の軍も動かして援軍に入らせるべきかと」
「うむ、そうか……ロラン、各地の軍を動かした場合、他国からの侵攻または国内の暴動が起こる可能性はあるか?」
「はい、父上。そうですね……ゼロとは言い切れませんが、それでも可能性は低いかと。もちろんいつ誰がどのように動くかは完全には読めませんので、軍隊が手薄になる間は外交や交渉で対応するべきでしょう。警戒を怠らず、いざという時の対策も考えておくべきですね」
「そうか……うむ……うむ……」
 
 皇帝陛下は目を瞑ると思案する。その時間は数分程度。再び瞼を開いた皇帝の顔つきは雄々しく変わっていた。
 
「よし、至急各地の軍長を招集しろ。ハイラルよ、其方は近衛軍を率いて国境警備隊の援軍に向かえ。ロランは内政官として各地の領主たちを纏め上げ、協力体制を整えるよう尽力せよ。エクレールは我ハイラルに同行し、兵や民を支えて欲しい。頼めるだろうか?」
「承知しました!」
「かしこまりました!」
「尽力します……!」
 
 三皇子は皇帝陛下に敬礼する。
 
「皇帝陛下! 私もハイラル様たちに同行させてください!」
「何? しかし危険ではないか?」
「私は聖女です。前線でポーションを作って、傷ついた兵の皆さんに配布したいのです! それに癒しの力で兵士の方々を癒せるかもしれません。とにかく出来る事をしたいのです! 今この瞬間にも傷ついている人がいるというのに、やれる事があるのに黙って見ているなんて出来ません!」
「アリーシャ……」
「アリーシャよ、気持ちは分かるが、此度の戦はただの戦争とは違う。ルイン王国との全面衝突だぞ。もし何かあれば……」
「……ボクが守るよ」
「エクレール様?」
「……ボクがアリーシャを守る。絶対に危険な目に遭わせたりしない……だから連れていってほしい……!」
「エクレール様……!」
 
 アリーシャは感動してエクレールの手を取る。エクレールは静かに笑い返すと、手を握り返してきた。
 
「……分かった。エクレールがそう言うなら、任せよう」
「ハイラル様!」
「ただし条件がある。決して無茶はするな。約束だ」
「はい、もちろんです! ありがとうございます!!」
「ならば良し。さあ、行くぞ!」
 
 こうしてハイラルたちは出陣の準備に取り掛かった。
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