ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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三章

三十六話 女神教の東方教会

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 女神教は大陸全土で信仰されている。しかし各国の文化や風土に合わせて、受け入れられ定着する信仰の形は異なってくる。
 ルイン王国は『正統教会』、アストラ帝国では『東方教会』、他の国では『南方教会』や『西方教会』など。各地で形を変えて女神は信仰されているのである。アストラ帝国の『東方教会』は、帝国領各地の信者たちから寄付を受けて運営されている。
 
「ここがアストラ帝国で一番大きな『東方教会』だよ」
 
 アリーシャは帝都にある『東方教会』の大聖堂の前に立っていた。
 隣にいるのはロラン皇子だ。ハイラルは日程調整をしてくれたものの、面会当日はどうしても外せない他の予定が入ってしまい、同行できなくなった。そこでアリーシャの同行に抜擢されたのが、芸術や信仰に詳しい弟のロランだった。
 
「アリーシャ、緊張してる?」
「は、はい……とても立派な建物ですね……」
 
 聖堂は荘厳な雰囲気を漂わせており、歴史を感じさせる。ルイン王国の大神殿は古典的な様式で建てられた神殿建築だった。それも立派で威厳に溢れていたが、目の前の大聖堂は大神殿とは違った荘厳さがある。
 
「ふふ、確かに凄いよね。この大聖堂は帝国にある女神教教会の中でも一番古くて大きいから、その分だけ権威もあるんだよ」
「な、なるほど」
「それじゃあ中に入ろうか」
「はい」
 
 アリーシャとロランは並んで歩き、扉を開けて中に入る。
 床一面に描かれた美しい宗教画。天井には煌びやかなステンドグラスが嵌めこまれている。
 そして正面奥の祭壇には、巨大な女神像が飾られていた。その像はまるで生きているかのように生気に満ちあふれている。
 
「どうだい? なかなか壮観な光景だろう?」
「そうですね……やっぱり大神殿とも様式が異なりますね。こちらの方が洗練されていて、私は好きかもしれません」
「はは、そう言ってもらえてよかったよ。実は僕も初めてこの大聖堂に来た時は感動したんだ。女神像の美しさはもちろんだけど、それ以上にこの壮大な空間の神秘さに圧倒されたよ」
「そうなんですか」
「うん。僕はたまに大聖堂にも足を運んでいるんだよ。大司教とも面識があるから、今日は緊張せずリラックスしてくれればいいよ」
「はい、ありがとうございます」
 
 アリーシャとロランは並んで歩いて、礼拝堂の中を進んでいく。礼拝堂の奥には修道士たちが仕事や生活する空間がある。本日の面会は、最奥にある『司教の間』で行われることになっていた。
 
「ロラン殿下、アリーシャ様、よくぞお出で下さいました。司教のジオールと申します」
「初めまして、アリーシャです。お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます」
 
 アリーシャとロランは、司教の部屋に通された。司教の部屋は広く、部屋の中央に置かれた机の上には書類が山積みになっていた。
 
「いえいえ、お礼を申し上げるのは我々です。まさか聖女と名高いアリーシャ様が、我々の大聖堂に来て下さるとは思ってもみませんでした」
「そんな、私なんてまだまだ未熟者です」
「ご謙遜なさらず。アリーシャ様は帝都の民からも愛されておりますよ。女神様の慈愛の心を持ったお方だと評判です」
「ありがとうございます。……早速本題に入るようで恐縮ですが、現在の女神教と次の聖女候補についてお話しましょう」
「はい」

 アリーシャは現在の女神教の問題と、次の聖女候補、これからの女神教のあるべき形について語った。それは要約すると、こうである。
 

・現在、ルイン王国の女神教『正教会』は王家と癒着して堕落している。改革が必要。
・次の聖女候補を今のルイン王国大神殿に送るのは危険だということ。
・その為、次の聖女候補の教育と庇護は『東方教会』を始めとする他の派閥で行ってほしいということ。
・大神殿はコスト削減の為に聖女を一人としているが、本来なら数人でローテーションを組まないと仕事が回らないこと。
・聖女候補の力を持つのは、恐らくリディアだけではないので、できれば全員を集めて数人以上で次の聖女にしてほしいということ。

 
「……その方が一人の聖女に業務が集中することもなく、同時にどこかの国が聖女と信仰を独占することもなくなると思います。ルイン王国の大神殿が堕落してしまったのは、聖女と女神の恩恵を独占した事が原因だったと考えています。同じ事態を招かない為にも、正しい信仰の為にも、女神教全体の見直しが必要だと思っています」
「……なるほど、確かにアリーシャ様のおっしゃる通りですね。我々も正教会の腐敗は感じていましたが、具体的な対策が思いつかず手をこまねいていたのです。しかし、アリーシャ様の言うように聖女が分散すれば、各国・各派閥のバランスが取れて正常な信仰を人々の手に取り戻せるでしょう。アリーシャ様の提案はとても参考になります」
「ありがとうございます」
「ただ、そうなるといくら大司教といえども、東方教会の一存では決められません。近く他の派閥の代表と会談の機会を設けたいと思います。よろしければアリーシャ様に同席して頂きたいのですが、いかがでしょうか?」
「もちろん構いません」
「ありがとうございます。では日程が決まり次第、また連絡させて頂きます」
「よろしくお願いします」
 
 こうしてアリーシャとロランは、司教との面会を終えた。
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