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三章
三十話 ロランのコンサートへ
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建国祭二日目。アリーシャは約束通り、今日はロランが参加しているオーケストラコンサートに向かう。アリーシャはリリアナにドレスアップして貰い、髪も丁寧に結い上げてもらった。
「アリーシャ様、とても素敵です。本日、私は招かれていないので同行できませんが、アリーシャ様なら大丈夫ですよ」
「うん、ありがとうリリアナ。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
こうしてアリーシャは、ロランが待つ音楽ホールに向かった。
音楽ホールは帝都の中心に位置している。帝国最大の建造物で、普段は演奏会やオペラなどが開催されている。アリーシャは徒歩ではなく、用意された馬車で向かう。さすがにドレス姿で徒歩で向かうわけにはいかないからだ。
ホールの周辺には、やはり煌びやかな服装をした貴族と思しき男女が大勢いた。
「すごい……! こんなに大きなホールでコンサートが開かれるなんて……!」
アリーシャは感嘆の声を上げる。音楽ホールの中は想像以上に広かった。
壁は黄金色で天井からは煌びやかなシャンデリアが幾つもぶら下がっている。
天井には天使や女神をモチーフにした美しい絵画が飾られ、客席にも壮麗な意匠が施されている。
舞台には色とりどりの花が飾られていた。アリーシャの為にロランが用意したのは、最前列の席だ。
アリーシャは席に座ると、会場の照明が落とされて辺りが薄暗くなる。
いよいよ始まるようだ。するとステージの袖から楽団が登場した。楽団のメンバーたちは次々と自分の持ち場に着席する。
そしてついに主役が登場する。漆黒の燕尾服に身を包んだ長身の美男子だ。
ロランはちょうどアリーシャの目の前にあたる舞台上の席に座る。一瞬だけアリーシャと視線が合うと、かすかに微笑んでくれた。
「……」
アリーシャは思わず見惚れてしまう。すると突然、拍手が巻き起こった。
ハッとして我に返る。どうやら開演したようだ。
まずは挨拶代わりにと、軽快なポルカが流れる。観客たちは拍手を止めて静かに聞き入った。
本日のプログラムは、アストラ帝国が生んだ天才作曲家の曲ばかりの構成となっている。
時間は約二時間半。一曲目は軽快なポルカから始まり、二曲目は貴歌劇のワルツ。三曲目は皇帝の舞踏会の為に作曲された円舞曲が演奏される。
四曲目は軍を率いる皇帝をモチーフに作曲された行進曲。五曲目は勇猛果敢な騎士をイメージした曲。
六曲目は剣戟の音を表現した曲で、七曲目は戦場での勝利を祝う凱旋曲である。そして八曲目に、アストラ帝国の国歌が演奏された。
アリーシャは黙って聴き入る。演奏が終わると大きな歓声と盛大な拍手が沸き起こった。
音楽がもたらす芸術に、アリーシャはすっかり感動してしまっていた。ロランは一礼して退場していく。観客席にいた人々も席を立ってエントランスに向かう。
「本日の演奏は素晴らしかったわね」
「ああ。ロラン様はますます腕を磨かれたようだな」
「わたくし、コンサートにはよく足を運ぶのですけど、本日の演奏は一層素晴らしいものでしたわ」
「アストラ帝国には三人の皇子がいらっしゃるが、やはり気品や教養という面ではロラン様が飛び抜けているな。あのお方が次の皇帝陛下に即位なされれば、国内外から敬意を集めることになるだろう」
「そうですわね……ロラン様にはぜひ次期皇帝に君臨してほしいですわ」
「そうだな」
そんな会話が聞こえてきた。アリーシャは複雑な気持ちになる。
今日見たロランは美しく堂々としていて気品に溢れ、見事にソリストを全うしていた。
しかし自分はどうだろうか? 所詮は田舎娘でしかない自分が、ロランの隣に立つ資格はあるのだろうか。
(もし私がロラン様と結婚しなかったら、ロラン様は皇帝になれないのかしら……? あんなに素晴らしい方なのに、私のせいで皇帝になれないなんて事があってはいけないわ)
なら自分はロランと結婚するべきなのだろうか?
分からない。分からないが、もしそうなっても恥ずかしくないように、自分を磨かなければならない。
「失礼します、アリーシャ様ですか?」
「はい、そうですが貴方は……?」
「このホールの支配人です。ロラン様から、アリーシャ様をお連れするようにと仰せつかっております。ご同行をお願い致します」
「分かりました」
アリーシャは席から立ち上がると、支配人の案内で移動する。
階段を昇った先にはロランが使っている控室があった。
ソリストを務めた皇子のロランは他の楽団メンバーとは違い、個室の控室が用意されている。支配人はアリーシャを部屋に案内すると、一礼して去っていった。
部屋に入ると、そこには既にロランの姿がある。ロランはアリーシャの姿を認めると、ぱっと破顔した。
「アリーシャ! 良かった、来てくれたんだね!」
「はい。ロラン様の演奏、とても素晴らしかったです」
「嬉しいよ、君が来てくれて本当に嬉しい!」
ロランはアリーシャをぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、ロラン様っ!?」
「そのドレス、今日のコンサートの為に選んでくれたのかい? すごく似合っているよ」
「あ、ありがとうございます」
「舞台の上から君が見えた瞬間、思わず心臓が止まるかと思ったよ。だって君は大勢いる観客の中でも一番美しく、輝いていたんだ」
「そ、そうでしょうか?」
「もちろんだとも! 今日は僕の我儘を聞いてくれてありがとう。君と二人で過ごしたくて無理を言ってみたけど、受け入れてもらえて本当に嬉しかったよ」
「いえ、こちらこそ素敵な演奏を聞かせて下さりありがとうございました」
「ふふ、そう言ってくれて僕も嬉しいよ」
ロランはアリーシャを離すと、改めてその姿を見つめた。
「今日は君のことを考えながら演奏したんだ。そのせいで音の調和が乱れていなかったか心配だったけど……」
「いえ、とても素敵でした」
「なら良かった!ありがとう。そう言ってもらえると安心できるよ」
ロランは屈託なく笑う。沈んだり笑ったり、表情がくるくる変わる。舞台の上で演奏していた時は貴公子そのものだったのに、こうして接していると年相応の青年そのものだ。
「アリーシャ、せっかくだし二人でお茶をしないかい? このホールにはカフェテリアがあるんだ。そこへ行こうか。チョコレートケーキが美味しいと評判のお店なんだよ」
「わあ! 楽しみです!」
スイーツが好きなアリーシャにとっては、まさに天国のような場所だ。ロランはアリーシャの手を引いて、一緒に歩き出す。
案内されたカフェテリアは、本日は貸し切りとなっていた。さっきアリーシャを案内してくれた支配人が目くばせしてウインクする。どうやら彼が手配してくれたらしい。
二人が席に着くと、ケーキと紅茶が運ばれてくる。ケーキはチョコレートケーキだった。オレンジリキュールを染み込ませた生地に、ガナッシュとコーヒークリームで層を作り、チョコレートでコーティングされたケーキだ。
この音楽ホールで初めて考案されたメニューらしく、歌劇場にちなんで『オペラ』と名付けられたらしい。アリーシャは早速フォークを手に取る。
「いただきます」
アリーシャはまず外側のチョコ部分を味わう。するとほろ苦い甘さが口の中に広がった。次に中のスポンジ部分を食べる。するとしっとりとした食感で濃厚な甘味が舌の上に広がった。甘さの中にほろ苦さのある大人の味わいだ。
「……! おいしい……!」
思わず感嘆の声を上げる。ロランはその様子を見て、満足そうに微笑んだ。
「喜んでくれたみたいで良かった。ここのケーキはとても人気があってね。予約してもなかなか食べられないんだよ」
「そうなのですね……確かに絶品です!」
夢中になって食べ進める。ロランはそんな様子を微笑ましそうに見守っていた。
「ところでアリーシャ。今日の君は本当に美しいね。いつも可愛いけど、そうやってドレスアップした君は大人びた魅了があって本当に素敵だよ」
「それは……きっと着ているドレスのおかげですね。こんなに素敵なドレスを着ているから、私のような田舎娘でもそれなりに見えるんだと思います」
「ううん、そんな事はないよ。どんなに素晴らしい衣装でも、着こなせるかどうかは本人次第なんだ。今日の君はそのドレスに着られる事なく、見事に着こなしている。君自信に品位や教養が備わっている証拠さ」
「そ、そうでしょうか? でも私、特に意識した事はないのですが……」
「それが自然体だからすごいんじゃないか。やっぱり君は魅力的だね」
「……ありがとうございます」
アリーシャは照れながらも、心の中で安堵する。ロランの言葉はお世辞かもしれないが、それでも嬉しかった。
「きっと宮殿で生活させて頂いているおかげですね。宮殿で皆さまと過ごしているから、相応しい振る舞いが身につけられたのかもしれません」
「それもあるだろうね。だけど、それだけじゃないと思うな。アリーシャは元々の素質が良いんだろうね。それに努力家で真面目な性格をしている。だからこそ、君の周りには人が集まるし、尊敬されるんじゃないのかな」
「そう……なんでしょうか?」
「そうだとも。僕が保証する」
「……私、もっと頑張りますね。ロラン様や皆様に恥ずかしくない女性になれるように、自分を高めていきたいと思います」
「……うん。僕も君がもっと素敵な淑女になる姿を早く見たいよ。……できれば隣で、ね」
「え?」
「ううん、なんでもないよ」
ロランは一瞬だけ切なげな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作る。
「ごちそうさま。おいしかったね」
「はい、とても」
「ところでこの後、オーケストラのパーティーが予定されているんだけど、アリーシャも一緒にどうだい? 僕の紹介とアリーシャの魅力があれば、みんな喜んでくれると思うな」
「でも、私はそういう場に慣れていなくて……皆さんにご迷惑をおかけしてしまうのでは……」
「大丈夫、気にする事はないよ。むしろ、アリーシャの事を自慢できる機会でもあるからね」
「ロラン様がそう仰って下さるのであれば、お言葉に甘えてもいいですか? 実は……少し不安だったので」
「もちろん。君が来てくれると知ったら、団員たちも喜ぶよ」
その後、アリーシャはロランに連れられてオーケストラのパーティーに参加した。
参加者の大半が貴族や音楽家という、絵に描いたような上流階級のパーティーだった。
アリーシャは気後れしそうになったが、ロランが丁寧に優しくエスコートしてくれた。
参加者たちも好意的にアリーシャを迎え入れてくれたので、いつかのお茶会のような騒動は起きずに済んだ。
「アリーシャ様、とても素敵です。本日、私は招かれていないので同行できませんが、アリーシャ様なら大丈夫ですよ」
「うん、ありがとうリリアナ。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
こうしてアリーシャは、ロランが待つ音楽ホールに向かった。
音楽ホールは帝都の中心に位置している。帝国最大の建造物で、普段は演奏会やオペラなどが開催されている。アリーシャは徒歩ではなく、用意された馬車で向かう。さすがにドレス姿で徒歩で向かうわけにはいかないからだ。
ホールの周辺には、やはり煌びやかな服装をした貴族と思しき男女が大勢いた。
「すごい……! こんなに大きなホールでコンサートが開かれるなんて……!」
アリーシャは感嘆の声を上げる。音楽ホールの中は想像以上に広かった。
壁は黄金色で天井からは煌びやかなシャンデリアが幾つもぶら下がっている。
天井には天使や女神をモチーフにした美しい絵画が飾られ、客席にも壮麗な意匠が施されている。
舞台には色とりどりの花が飾られていた。アリーシャの為にロランが用意したのは、最前列の席だ。
アリーシャは席に座ると、会場の照明が落とされて辺りが薄暗くなる。
いよいよ始まるようだ。するとステージの袖から楽団が登場した。楽団のメンバーたちは次々と自分の持ち場に着席する。
そしてついに主役が登場する。漆黒の燕尾服に身を包んだ長身の美男子だ。
ロランはちょうどアリーシャの目の前にあたる舞台上の席に座る。一瞬だけアリーシャと視線が合うと、かすかに微笑んでくれた。
「……」
アリーシャは思わず見惚れてしまう。すると突然、拍手が巻き起こった。
ハッとして我に返る。どうやら開演したようだ。
まずは挨拶代わりにと、軽快なポルカが流れる。観客たちは拍手を止めて静かに聞き入った。
本日のプログラムは、アストラ帝国が生んだ天才作曲家の曲ばかりの構成となっている。
時間は約二時間半。一曲目は軽快なポルカから始まり、二曲目は貴歌劇のワルツ。三曲目は皇帝の舞踏会の為に作曲された円舞曲が演奏される。
四曲目は軍を率いる皇帝をモチーフに作曲された行進曲。五曲目は勇猛果敢な騎士をイメージした曲。
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アリーシャは黙って聴き入る。演奏が終わると大きな歓声と盛大な拍手が沸き起こった。
音楽がもたらす芸術に、アリーシャはすっかり感動してしまっていた。ロランは一礼して退場していく。観客席にいた人々も席を立ってエントランスに向かう。
「本日の演奏は素晴らしかったわね」
「ああ。ロラン様はますます腕を磨かれたようだな」
「わたくし、コンサートにはよく足を運ぶのですけど、本日の演奏は一層素晴らしいものでしたわ」
「アストラ帝国には三人の皇子がいらっしゃるが、やはり気品や教養という面ではロラン様が飛び抜けているな。あのお方が次の皇帝陛下に即位なされれば、国内外から敬意を集めることになるだろう」
「そうですわね……ロラン様にはぜひ次期皇帝に君臨してほしいですわ」
「そうだな」
そんな会話が聞こえてきた。アリーシャは複雑な気持ちになる。
今日見たロランは美しく堂々としていて気品に溢れ、見事にソリストを全うしていた。
しかし自分はどうだろうか? 所詮は田舎娘でしかない自分が、ロランの隣に立つ資格はあるのだろうか。
(もし私がロラン様と結婚しなかったら、ロラン様は皇帝になれないのかしら……? あんなに素晴らしい方なのに、私のせいで皇帝になれないなんて事があってはいけないわ)
なら自分はロランと結婚するべきなのだろうか?
分からない。分からないが、もしそうなっても恥ずかしくないように、自分を磨かなければならない。
「失礼します、アリーシャ様ですか?」
「はい、そうですが貴方は……?」
「このホールの支配人です。ロラン様から、アリーシャ様をお連れするようにと仰せつかっております。ご同行をお願い致します」
「分かりました」
アリーシャは席から立ち上がると、支配人の案内で移動する。
階段を昇った先にはロランが使っている控室があった。
ソリストを務めた皇子のロランは他の楽団メンバーとは違い、個室の控室が用意されている。支配人はアリーシャを部屋に案内すると、一礼して去っていった。
部屋に入ると、そこには既にロランの姿がある。ロランはアリーシャの姿を認めると、ぱっと破顔した。
「アリーシャ! 良かった、来てくれたんだね!」
「はい。ロラン様の演奏、とても素晴らしかったです」
「嬉しいよ、君が来てくれて本当に嬉しい!」
ロランはアリーシャをぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、ロラン様っ!?」
「そのドレス、今日のコンサートの為に選んでくれたのかい? すごく似合っているよ」
「あ、ありがとうございます」
「舞台の上から君が見えた瞬間、思わず心臓が止まるかと思ったよ。だって君は大勢いる観客の中でも一番美しく、輝いていたんだ」
「そ、そうでしょうか?」
「もちろんだとも! 今日は僕の我儘を聞いてくれてありがとう。君と二人で過ごしたくて無理を言ってみたけど、受け入れてもらえて本当に嬉しかったよ」
「いえ、こちらこそ素敵な演奏を聞かせて下さりありがとうございました」
「ふふ、そう言ってくれて僕も嬉しいよ」
ロランはアリーシャを離すと、改めてその姿を見つめた。
「今日は君のことを考えながら演奏したんだ。そのせいで音の調和が乱れていなかったか心配だったけど……」
「いえ、とても素敵でした」
「なら良かった!ありがとう。そう言ってもらえると安心できるよ」
ロランは屈託なく笑う。沈んだり笑ったり、表情がくるくる変わる。舞台の上で演奏していた時は貴公子そのものだったのに、こうして接していると年相応の青年そのものだ。
「アリーシャ、せっかくだし二人でお茶をしないかい? このホールにはカフェテリアがあるんだ。そこへ行こうか。チョコレートケーキが美味しいと評判のお店なんだよ」
「わあ! 楽しみです!」
スイーツが好きなアリーシャにとっては、まさに天国のような場所だ。ロランはアリーシャの手を引いて、一緒に歩き出す。
案内されたカフェテリアは、本日は貸し切りとなっていた。さっきアリーシャを案内してくれた支配人が目くばせしてウインクする。どうやら彼が手配してくれたらしい。
二人が席に着くと、ケーキと紅茶が運ばれてくる。ケーキはチョコレートケーキだった。オレンジリキュールを染み込ませた生地に、ガナッシュとコーヒークリームで層を作り、チョコレートでコーティングされたケーキだ。
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「いただきます」
アリーシャはまず外側のチョコ部分を味わう。するとほろ苦い甘さが口の中に広がった。次に中のスポンジ部分を食べる。するとしっとりとした食感で濃厚な甘味が舌の上に広がった。甘さの中にほろ苦さのある大人の味わいだ。
「……! おいしい……!」
思わず感嘆の声を上げる。ロランはその様子を見て、満足そうに微笑んだ。
「喜んでくれたみたいで良かった。ここのケーキはとても人気があってね。予約してもなかなか食べられないんだよ」
「そうなのですね……確かに絶品です!」
夢中になって食べ進める。ロランはそんな様子を微笑ましそうに見守っていた。
「ところでアリーシャ。今日の君は本当に美しいね。いつも可愛いけど、そうやってドレスアップした君は大人びた魅了があって本当に素敵だよ」
「それは……きっと着ているドレスのおかげですね。こんなに素敵なドレスを着ているから、私のような田舎娘でもそれなりに見えるんだと思います」
「ううん、そんな事はないよ。どんなに素晴らしい衣装でも、着こなせるかどうかは本人次第なんだ。今日の君はそのドレスに着られる事なく、見事に着こなしている。君自信に品位や教養が備わっている証拠さ」
「そ、そうでしょうか? でも私、特に意識した事はないのですが……」
「それが自然体だからすごいんじゃないか。やっぱり君は魅力的だね」
「……ありがとうございます」
アリーシャは照れながらも、心の中で安堵する。ロランの言葉はお世辞かもしれないが、それでも嬉しかった。
「きっと宮殿で生活させて頂いているおかげですね。宮殿で皆さまと過ごしているから、相応しい振る舞いが身につけられたのかもしれません」
「それもあるだろうね。だけど、それだけじゃないと思うな。アリーシャは元々の素質が良いんだろうね。それに努力家で真面目な性格をしている。だからこそ、君の周りには人が集まるし、尊敬されるんじゃないのかな」
「そう……なんでしょうか?」
「そうだとも。僕が保証する」
「……私、もっと頑張りますね。ロラン様や皆様に恥ずかしくない女性になれるように、自分を高めていきたいと思います」
「……うん。僕も君がもっと素敵な淑女になる姿を早く見たいよ。……できれば隣で、ね」
「え?」
「ううん、なんでもないよ」
ロランは一瞬だけ切なげな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を作る。
「ごちそうさま。おいしかったね」
「はい、とても」
「ところでこの後、オーケストラのパーティーが予定されているんだけど、アリーシャも一緒にどうだい? 僕の紹介とアリーシャの魅力があれば、みんな喜んでくれると思うな」
「でも、私はそういう場に慣れていなくて……皆さんにご迷惑をおかけしてしまうのでは……」
「大丈夫、気にする事はないよ。むしろ、アリーシャの事を自慢できる機会でもあるからね」
「ロラン様がそう仰って下さるのであれば、お言葉に甘えてもいいですか? 実は……少し不安だったので」
「もちろん。君が来てくれると知ったら、団員たちも喜ぶよ」
その後、アリーシャはロランに連れられてオーケストラのパーティーに参加した。
参加者の大半が貴族や音楽家という、絵に描いたような上流階級のパーティーだった。
アリーシャは気後れしそうになったが、ロランが丁寧に優しくエスコートしてくれた。
参加者たちも好意的にアリーシャを迎え入れてくれたので、いつかのお茶会のような騒動は起きずに済んだ。
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