ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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三章

二十七話 迫る建国祭

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 アリーシャがアストラ帝国に来てから、少し経った頃。大分宮殿での暮らしにも慣れてきたアリーシャは、最近やけに周囲が慌ただしいことに気が付いた。
 
「リリアナ、最近は宮殿の皆さんも忙しそうね。何かあるの?」
 
 アリーシャは専属侍女のリリアナに尋ねる。するとリリアナは、「はい」と頷いた。
 
「もうすぐアストラ帝国の建国祭が迫っていますから、その準備に大忙しなのですよ」
「建国祭?……ああ、そういえば聞いたことがあるわ」
 
 アストラ帝国では毎年この時期にお祭りが開かれるらしい。その規模は大きく、近隣諸国から大勢の観光客が訪れるとかなんとか。
 
「それでいつもより活気があるのね」
「はい。建国祭は建国記念日前後に催されるお祭りで、数日間に渡って帝都で開催されます。出店、パレード、武闘大会、演劇、花火、仮装大会、気球、コンサート、サーカス――とにかく数日かけて色んな行事が行われるのですよ」
「す、凄いんだね……」
 
 女神教の神殿にもアストラ帝国の建国祭が凄いと噂は届いていた。でもまさか、そんな派手で大掛かりなお祭りだとは知らなかった。
 
(ルイン王国にも『建国祭』っていう名前のイベントがあったっけ。まあ、あまり興味なかったから詳しく調べたりしなかったんだけど……)
 
 神殿にいた頃のアリーシャは、ひたすら女神教の教えを勉強したり修行したりと、聖女の仕事をするだけで手一杯だった。
 
「アリーシャ様も是非参加されてみてはいかがですか?」
「えっ、私が?」
「はい。せっかくのお祭りですから、楽しまないと損です! ハイラル様もロラン様もエクレール様も、それぞれ建国祭ではイベントに参加なされるようですよ。皆様とご一緒に楽しまれてはいかがですか?」
「そうなの?」
「はい。皆様がどの催しに参加なされるかは、アリーシャ様が直接お尋ねください。間違いがあってはいけませんのでね」
 
 リリアナは楽しそうに微笑む。そしてアリーシャに建国祭のパンフレットを手渡した。
 
「アリーシャ様は今でこそお客様ですが、来年以降は皇妃として建国祭に参加なされるかもしれません。そうなると自由にお祭りを見て回ることも出来なくなるでしょう。今年だけは普通の参加者として、帝国が誇るお祭りを楽しんでみてください」
「そっか……うん、分かった!」
 
 アリーシャは笑顔で返事をした。
 こうしてアリーシャは、リリアナに勧められるがまま三人の皇子の予定を聞きに行くことにした。


***

 
 宮殿内の兵士訓練所にて。まずはハイラルに話を聞く。
 
「建国祭か? ああ、俺は仮面武闘大会に参加する予定だ」
「仮面舞踏大会……? ハイラル様、ダンスを踊られるのですか?」
「その舞踏じゃない。武力で闘うと書いた『武闘』だ。参加者は平民、冒険者、騎士、貴族、皇族まで自由だ。しかし平民と貴族だと、平民の方が無意識に遠慮するかもしれないだろう。だから素性を隠して存分に腕をふるう為に、仮面の着用とリングネームの登録が義務付けられているんだ」
「へぇ~、面白いんですね」
「ちなみに優勝賞品は賞金と、エクレールが開発した最新の大型冷蔵箱と、帝都で使える商品券一ヶ月分だ」
「いいですね!」
「ちなみに俺のリングネームは『赤獅子王』だ」
「え、それって……ハイラル様、自らが皇子だと名乗っていませんか?」
「大丈夫だ。他にも『明星王』だの『雷光王』だの名乗って参加する連中も大勢いるからな。年に一度の大会だから無礼講だ」
「そ、そういうものなんですね」
 
 よく分からないが、武力を競い合う人々とはそういうものかもしれない。アリーシャは深く考えるのをやめた。
 
「武闘大会は初日から三日間に渡って開催される。建国祭は他にも様々な催しがあるから、アリーシャもそちらを見て回るといい。見に来てくれるのは、最終日の三日目だけでいい。俺が優勝する姿を見届けてくれ」
「分かりました!」
 
 次にロランの元へ向かう。ロランは庭園でお茶を飲んでいた。
 
「建国祭で何をするかって? 僕はオーケストラコンサートにヴァイオリン奏者として参加する予定だよ」
「オ、オーケストラコンサート……!? それは一体どんな催しなんでしょうか?」
「そうだね。簡単に言えば、弦楽器、管楽器、打楽器で編成される楽団による演奏会さ。建国祭で演奏される曲は、アストラ帝国の伝統的なクラシック音楽から最新の流行曲までバリエーションが豊富なんだ」
「それは素敵ですね。ロラン様はヴァイオリンも演奏できるのですね」
「子供の頃から習っていたからね。そうそう、僕は建国祭の二日目にソリストとして選ばれたんだ!」
「ソリスト、ですか?」
「全曲に渡ってソロを弾く奏者のことさ」
「す、凄い……! ロラン様はコンサート期間中、ずっとソリストなのですか?」
「ううん、さすがにそれは疲れてしまうし、この国には他にも優れた奏者が沢山いるからね。僕がソリストを務めるのは二日目だけ。だから、もし聴きに来てくれるなら二日目でお願いしたいな」
「はい、もちろん行きます!」
 
 アリーシャは即答した。するとロランは嬉しそうに微笑む。
 
「ありがとう、嬉しいよ。あ、でもアリーシャが僕の公演に来てくれたら、きっと他の男達に妬まれちゃうかな? アリーシャは人気者だからね」
「えっ……そ、そんなことは……」
「あるよ。君は元々素敵な女性だったけど、帝国に来てからはさらに磨きがかかったからね。活躍も目覚ましいし、今では大勢の人が君を認めているんだよ。自信を持って」
「あ、ありがとうございます」
 
 こうして二日目はロランのコンサートを聴きに行く約束を交わし、アリーシャは次の場所に向かった。
 エクレールはいつものように、宮殿の裏手にある魔道具工房に籠って研究・開発を続けていた。
 
「建国祭の予定……? ボクは毎年、出店ブースに出店してるんだ……」
「出店ですか? 意外ですね……エクレール様は人混みが苦手かと思っていたのですが」
「うーん……あんまり得意じゃないけど、ボクの発明品を大勢の人に見てもらう貴重な機会だから……冷蔵箱も、卓上調理器も、昔の建国祭で出店して以降、飛ぶように売れ始めたんだ」
「なるほど、商売上手ですね」
「今年は……例の『フィールドキッチン』のデモンストレーションを行うんだ……どんな料理が、どれくらいの量を、どれだけの時間で作れるか……軍部に対するアピールになるからね」
「ああ、あの『フィールドキッチン』ですね。あれは凄いです。まるで魔法みたいに、一瞬でたくさんの食べ物を作れますもの」
「ふふ……ボクとアリーシャが協力して作り出した、最新式の魔道具だからね……」
「じゃあ、私も見に行かせてもらいますね!」
「うん、待ってる……ところでアリーシャは、建国祭では何をするの……?」
「私は……その……特に何もないんです。リリアナが言うには、一般の参加者として建国祭に参加できるのは今年しかないだろうから、特に気にせず楽しんでくればいいと言ってくれて」
「……ボクもその意見に、同意かな。アリーシャが帝国に来てから、もうすぐ二ヶ月が経つ……来年の建国祭の時には、アリーシャはボクたち三人の誰かのお嫁さんに……皇妃になっていると思うから……そうなると皇族として、セレモニーや歓待に駆り出されて、お祭りを楽しむどころじゃなくなるからね……」
「そう、ですよね……。じゃあ、今のうちに色々と見て回ろうと思います!」
 
 こうしてアリーシャは三人の皇子から建国祭の話を聞いた後、「頑張ってください」と応援の言葉を残してその場を離れた。
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