ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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二章

二十話 ロランとランチデート

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 翌日。アリーシャがいつものように薬学研究室で働いていると、ロランがやって来た。
 
「やあアリーシャ、これからお昼だろう?もし良ければ僕と一緒に外で食べないかい?」
「はい、構いませんよ」
「良かった。それじゃあ行こうか!」
 
 そしてロランに連れて来られたのは、宮殿内にあるカフェテリアだ。
 相変わらず豪華絢爛な内装だ。天井には巨大なシャンデリアがあり、床一面に真っ赤な絨毯が敷かれている。ソファやテーブルも凝った意匠が施されていて、見る者を魅了する。
 
「アリーシャは何が好きなのかな?何でも頼んであげるよ」
「そうですね、それなら……このオープンサンドとサラダをお願いします」
「分かった。シェフに言って作らせるよ」
 
 ロランは上機嫌で注文した。やがて運ばれて来た食事を食べ始める。
 
「このオープンサンド、とても美味しいです! ソースが絶妙ですね」
「気に入ってくれたようで嬉しいよ。ここは軽い物を食べたい時に重宝するんだ。毎食堅苦しい料理だと疲れてしまうだろう? ハイラル兄さんもよく城の外に食事に行っているようだしね」
「そうなんですか」
「ところでアリーシャ、昨日はごめんね。せっかくの君のお披露目会だったのに、嫌な思いをさせてしまった」
「いいえ、そんな事はありませんよ。色んな方々とお知り合いになれて良かったです。ライナス伯爵令嬢たちも、お帰りになる時には私の手を握って『また会いましょう』と言ってくれましたし」
「そっか……それにしても驚いたよ。あんな風に相手の心を動かしてしまえるなんて、さすがは聖女だね。君に比べると、一時の怒りに任せて相手を必要以上に追い詰めてしまいそうになった自分が恥ずかしいよ……」
「そんな、ロラン様は恥じる必要なんてありませんよ!!」
 
 アリーシャは驚いてしまう。昨日は自分がいない間にロランとリリアナが取りなしてくれたと思い込んでいる彼女は、ロランが謝る理由がさっぱり分からなかった。
 
「ありがとう、アリーシャ。……僕はね、なるべく皆と仲良くしたいと思っているんだ」
「え?」
「僕はハイラル兄さんのような強い男じゃない。でも力とは、何も武力に限らないと思うんだ。社交を通して人と繋がり、友好関係を結んでおくことは大切だと考えているんだけど、君はどう思う?」
「私も同じ意見です。ロラン殿下は素晴らしい考えをお持ちですね」
「良かった、君なら分かってくれると信じていたよ」
 
 ロランは嬉しそうに笑った後、すっと目を細める。
 
「国にとって外交や内政は重要だ。ハイラル兄さんのように力一辺倒では、いざという時に助けてくれる人や国がいなくなってしまう。それに色んな人の話を聞いて、どんな立場でどんな考えを持っていて――そういうことを知ると、何かと役にも立つものだよ」
「あははは……」
 
 アリーシャは苦笑いを返す。ロランは爽やかな皇子様だが、意外と計算高く腹黒い一面もあるようだ。
 
「その僕から見ても、昨日の君は大勢の心を掴んでいた。君が僕の妻になってくれれば、ますます社交の場を広げられるだろうね」
「あの、それは……」
「まあ、すぐに答えを出せとは言わないよ。だけど僕が本気で君を愛していることは覚えておいて欲しい」
 
 アリーシャは視線を逸らして俯いた。
 ロランは計算高く腹黒い一面もあるが、アリーシャに愛を囁く時の瞳は真剣で誠実そのものだ。
 
「みんな仲良くと言いながら、色々な思惑を抱えている。それをうまく調整して場を自分にとって望ましいものにするのが好きなんだ。でも昨日みたいに、君を傷つけようとする人がいるのなら許せなくなった。……僕もまだまだ修行が足りないな」
 
 ロランは自嘲気味に呟くと、お茶を飲む。
 
「そんな事はありません。私も逆の立場なら同じことをしたかもしれませんから」
「そうかな? ふふ、嬉しいよ。ありがとう」
 
 ロランは照れたように微笑んだ。そして昼食を終えた二人は中庭を散歩することにした。
 
「この庭園は美しいだろう?」
「はい。とても綺麗なお庭ですね」
「実は、僕も少し手入れをしているんだよ」
「えっ、そうだったんですか!?」
「うん。元々植物が好きでね。小さい頃からよく庭師に混ざって土いじりをしていたんだ。前に稀少な薔薇を見せただろう?あれも実は僕が育てたものなんだよ」
「へぇー、すごいですね」
「次に新しい品種を生み出せた時は、君の名前をつけてもいいかな? アリーシャ」
「えっ!?」
「嫌かな?」
「いえ、そんなこと……!」
「よかった。楽しみにしていてね」
 
 ロランは楽しそうに笑った。
 そんな彼を見ていると、アリーシャにも自然と笑顔が浮かんだ。

*** 
 
「ふう……」
 
 その夜、アリーシャは部屋に戻ってきてベッドに入る。
 この数日間で分かったこと、それはアリーシャが初めて出会った時『お屋敷の男の子』は、ロランで間違いないということだった。
 
(あの時はまだ子供だったから分からなかったけど、今なら分かる。ロラン様は昔と変わらない優しい人だった……)
 
 出会った時のあの男の子は、紳士で爽やかで優しい少年だった。アリーシャは枕を抱き寄せ、ベッドの上で寝転がる。
 
(あの時にロラン様と出会ったから、今の私があるんだわ……)
 
 天井を見上げながらアリーシャは思う。あの夜、別れの直前に指輪を渡してくれたのはロランなのだろうか?
 
(もしそうなら、私は……)
 
 そんなことを考えながら、アリーシャは眠りに沈んでいった。
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