ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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二章

十二話 帝国での新生活

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 皇帝陛下の容態もだいぶ安定してきた。その為アリーシャも比較的時間に余裕が出来るようになった。
 その日もアリーシャは、早朝のうちに皇帝の容態を見て、腫瘍が小さくなっているのを確認した。
 
「良かった……皇帝陛下、良くなっています。今後も治療を継続しつつ、食事療養と投薬で免疫力を高めていきましょう」
「うむ、アリーシャのおかげだ。感謝している」
「いいえ、私の力なんて微々たるものですから。それともうお散歩など軽い運動をして構いませんので、積極的に外に出るようにしてください。その方が免疫力も高まります」
「わかった。早速朝食後にでも城の庭を散策しよう」
「はい、それが良いと思います」
「陛下、ただし我々執事がお側に控えさせて頂きますぞ」
「うむ、頼むぞ、セバスチャン」
「はっ!」
「それでは私は失礼しますね。また何かあったら知らせてください」
 
 皇帝に挨拶を済ませると、アリーシャは退室した。
 その後は一旦部屋に戻り、皇帝の容態の報告書をまとめる。宮殿にいる医師たちに治療の内容と、皇帝の経過を伝える為の資料だ。
 
「ふう、やっと終わった」
「お疲れ様でした、アリーシャ様」
「リリアナ。ええ、ありがとう」
 
 一仕事終えて息をつくと、リリアナがお茶を淹れてやって来る。アリーシャはお礼を言って受け取った。
 
「本日はこれからどうなされるのですか?」
「今からは薬学研究室に行くわ」
「そうですか……アリーシャ様は頑張り屋さんですね」
「そうかしら? 私に出来る事はこれくらいだから……」
「ご謙遜なさらずともよろしいですよ。頑張り屋さんのアリーシャ様にはご褒美にキャンディを進呈しちゃいます。どうぞ」
「え、あ、ありがとう。美味しそうね」
 
 リリアナは飴玉を差し出す。アリーシャが受け取ると、にっこりと笑った。
 
「頑張ったら甘いものを食べるといいんですよ。糖分が脳のエネルギー源になりますからね」
「そうなの?」
「そうです! さあさあ、遠慮せずに召し上がってください」
「じゃあ……いただきまーす。ん……っ!?これ何味!?」
「お気に召されましたか?それは『ラムネ風味のキャンディ』です。甘くて酸っぱい、不思議な味わいでしょう?」
「そ、そうね。初めて食べたけれど、癖になるかも……!」
「そうでしょう、そうでしょう? アリーシャ様はきっと気に入りますと思っていました」
「うん、最初はビックリしたけど慣れると本当に美味しいわね。リリアナ、ありがとう」
「どういたしまして。毎日頑張っているアリーシャ様のお役に立てたのなら光栄です」
 
 現在アリーシャは、宮殿内にある薬学研究室で働いている。
 皇帝の容態が安定したからといって遊んでいるのは、長年生真面目に生きてきたアリーシャの信条に反するからだ。
 仕事は毎日忙しかったが、充実した日々を過ごしているのは間違いない。
 
「お仕事は順調ですか?」
「そうですね、なんとか」
 
 アリーシャは神殿で聖女として過ごしてきた。聖女の仕事の中には薬作りも含まれていた。
 女神教は医学や薬学も担ってきたから、アリーシャもかなりの調合知識と技術を身につけている。
 その為、今の仕事を任されているのだが、これがなかなか楽しい。
 
「それじゃ、研究室に行ってきますね」
「はい、いってらっしゃい」
 
 リリアナに見送られて薬学研究室に向かう。
 アリーシャはアストラ帝国の薬品一覧、レシピ、成分表などを読み込んで神殿の薬との違いや共通点を把握。
 その上で改善できる点や、新たに学ぶポイントについて書類にまとめていた。



「……ですので、患部の消炎効果を狙うのなら従来のアロ草よりもこのダミア草にして、配合の比率もこのように変更すると、より効果が高まると思います。これがサンプルです」
「ううむ、なるほど……」
 
 研究員たちはアリーシャの報告書を読んで唸る。アリーシャは神殿で最先端の薬学知識を身につけている。
 その内容は帝国の薬学研究室といえども感服せざるを得ない斬新なものだった。
 
「それではまずは、アリーシャさんのサンプルで生体実験を行なってみようかと――」
 
 研究員の一人が言いかけたところで、研究室のドアが開いてエクレールが飛び込んできた。
 
「エクレール様!?」
「うぅぅ……火傷薬はない?腕を火傷しちゃって……」
 
 見ると、エクレールの右腕は赤く腫れ上がっており、痛々しい水ぶくれが出来ている。
 
「まあ、大変!」
「火傷薬といえば、今まさにアリーシャさんが持ってきてくれたサンプルがありますが……!」
「なら、それでいい……貸して……!」
「あっ!?」
 
 エクレールは火傷薬のサンプルを手に取ると、右腕に塗った。
 すると、みるみると傷が治っていった。水ぶくれがなくなり、赤い腫れもおさまっていく。
 さっきまで苦悶の表情を浮かべていたエクレールも、ほっと息を吐いた。
 
「はあ……楽になった……」
「な、なんと……通常は効果が出るまでもっと時間がかかるのですが……」
「すごい!さすがは聖女の作った回復薬!」
「いや、これくらい大したことは……」
 
 アリーシャは照れたように笑う。エクレールはアリーシャの両手を握って言った。
 
「ありがとう、アリーシャ……君のおかげで助かったよ」
「い、いえ」
「さすがはボクの婚約者だよ……」
「ええっ!?」
 
 突然の言葉にアリーシャは目を白黒させた。すると、他の研究員たちも口々に話しかけてくる。
 
「アリーシャさんは素晴らしい薬師です。医学や薬学に造詣が深く、重要性をご理解なされています。アリーシャ様が皇妃になられた時には、アストラ帝国の医学薬学は飛躍的に発展するでしょうね」
「いや、そんな……私なんてまだまだで……」
「とんでもない。アリーシャさんの知識と技量は、いずれ帝国の発展に大きく貢献するでしょう」
「薬学研究室にも費用拡大が望めるかもしれませんね。ここだけの話、最近は基礎研究の費用が削られているんですよ」
「しかしアリーシャさんは薬師として、基礎研究の重要性をご理解なされています。我々一同、ぜひともアリーシャ様には皇妃になって帝国の医療や薬学を支えていってほしいものです!」
「あ、あの……皆さん……」
 
 アリーシャは戸惑ってしまう。まさかこんな風に褒められるとは思っていなかった。
 自分の仕事が認められ、期待してくれていることが嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
 
「……照れる必要はないよ、アリーシャ……君は素晴らしい薬師なんだから、誇っていいと思う……」
「エクレール様……あ、ありがとうございます」
 
 こうして今日もアリーシャは充実した帝国での日々を過ごすのだった。
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