ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃

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一章

八話 皇帝陛下の意識回復

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 帝国に来てから、数日が経過した。
 アリーシャは連日皇帝の容態を見て、治療を行った。
 すると、近頃ずっと意識混濁状態にあった皇帝が意識を取り戻した。
 
「う……うぅ……ここは……あの世、ではないのか……?」
「皇帝陛下!! 意識が戻ったのですね!!」
「セバスチャンか……余は、まだ死んでおらぬのだな……」
「はい! こちらの聖女アリーシャ様のおかげです!!」
「聖女アリーシャ……? そうか、其方が余を救ってくださったのか……!」

 皇帝陛下はベッドの上から、アリーシャを見つめる。
 その瞳には生気が戻っていた。アリーシャは嬉しさで胸が震える。

「皇帝陛下、こうしてお話出来る事を心より嬉しく思います……私はアリーシャと申します。聖女の力で陛下の病気を治療させて頂いております」
「なんと、有難い……」
「ですが、今はまだ病気が完治したわけではありません。継続的な治療と、薬物や食事療法による免疫向上など、複合的な対策が必要です。どうかこれからも、共に頑張りましょう」
「おお……勿論だ。其方には感謝してもしきれない。本当にありがとう……」
「いえ、これが私の仕事ですから」
 
 アリーシャは微笑んで答えた。
 皇帝はアリーシャに感謝の言葉を述べると、再びしばしの眠りに就いた。
 もう皇帝の寝息には、苦悶は混じっていない。穏やかな回復の為の眠りだ。
 セバスチャンは皇帝の容態が落ち着いたのを見届けると、改めてアリーシャに深く頭を下げる。
 
「本当にありがとうございます、アリーシャ様! 貴女はこの帝国の救世主です!」
「そんな、大袈裟ですよ。皇帝陛下はまだ予断を許さない状況です。セバスチャンさんも、これからも看病が大変かと思います。私で良ければいつでも力になりますので、言って下さいね」
「はい、ありがとうございます」
 
 それからというもの、アリーシャは毎日皇帝の元に通い続けた。
 そして、通えば通うほど皇帝の容態は快方に向かっていくのだった。


***


 その日、アリーシャはいつもより早く目覚めた。窓から差し込む朝日が眩しい。
 やっぱり早起きは良い事だ。アリーシャは伸びをすると、早速身支度を始めた。
 まず顔を洗って、それから歯を磨く。
 鏡に映る自分は、以前とは見違えていた。
 
「これが私……!?」
 
 鏡の中のアリーシャは、明らかに以前までの自分とは違っていた。
 まず肌艶が良く、髪もサラサラだ。
 元々忙しすぎて身なりに無頓着だったが、アリーシャの顔立ちは悪くなかった。

 最近はアストラ帝国が誇る美肌効果のあるお風呂にゆっくり浸かり、隅々まで最高級の石鹸やシャンプーで洗われている。
 髪はオイルとトリートメントで丁寧にケアされて、肌にも最高級スキンケアとマッサージが施される。

 おかげで今のアリーシャは、本来の彼女が持っていた美しさを取り戻していた。
 艶やかな茶髪に利発的な赤い瞳。
 髪は毎日リリアナたち侍女が丁寧にセットしてくれている。
 
「私って……こんな顔をしていたの?」
 
 アリーシャは鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめてしまう。
 今までは容姿に注意を払ってこなかった。しかし、ちゃんとすればこんなに変わると知って驚く。
 同時に今まで無頓着だった自分が少し恥ずかしくなる。皇帝や皇子たちの前にどんな姿を晒していたのかと思うと、ますます恥ずかしくなった。
 
「おはようございます、アリーシャ様」
「きゃっ!? あ……お、おはようございます、リリアナさん」
「はい、おはようございます。それとわたくしの事はリリアナと呼び捨てでお願いします。他の者に示しがつきませんからね」
「わ、分かりました」
「それと、敬語もできればおやめください」
「わ、分かったわ」
「ふふ、ではお着替えをお手伝いします」
「あ、ありがとう」
 
 クローゼットの中は、どれも豪奢で着替えが複雑そうな服ばかりだ。
 一人で着るのは難しいから、アリーシャはリリアナに着替えを手伝ってもらう。
 リリアナはテキパキと服を選び、アリーシャに次々と服を着せていった。
 アリーシャは感嘆しながら、リリアナの手際の良さに見惚れていた。
 
「さて、朝食の用意ができております。食堂に参りましょう」
「ええ」
 
 そして食堂に行くと、三人の皇子がアリーシャを出迎える。
 三人とも見違えるように美しくなったアリーシャを見て、感嘆の声を漏らした。
 
「わあ、アリーシャ! 見違えたね、まるで妖精のようだよ!」
「ああ、本当だ。これは驚いたな」
「アリーシャは前から綺麗だったよ……でも、近頃はもっと綺麗になってる……」
 
 三兄弟はそれぞれアリーシャを褒め称える。
 
「あ……あはは、みんな、ありがとうございます……」
 
 アリーシャは照れ臭そうに笑って礼を言った。そして朝食を食べ始める。
 
「そうだ、アリーシャ。今日は一緒に街へ行かないか?」
「えっ? 嬉しいですけど……でも私、身分証を持ってませんが」
「ああ、それなら問題ないよ。もう発行したから」
「え?」
「俺たちは腐ってもアストラの皇子だぞ。そんなに驚くこともあるまい」
「た、確かに、そうですけど……」
「……お金はボクたちが支払うから、安心して……それじゃあ、一緒に行こう……」
「は、はい」
 
 こうして皇子たちに押し切られて、アリーシャは城下町を案内される事になった。
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