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最終章
第四十五話 平和的交渉
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歩の能力がさらなる進化を遂げ、多次元への扉の座標を知ることが出来るようになった。
知っているだけではどうにも出来ないものの、今ここにはラルフという”次元渡り”が居る。次元の壁を突破し、多次元へ旅立つ。
「やはりここか。そんな気はしてたんだよなぁ……」
ラルフは草臥れたハットを指で持ち上げながら目を細める。
世界の最果て「ヲルト大陸」。常時黒雲が大陸を覆い、暗闇の世界と化している魔族唯一の安全地帯。昨今、魔王たちが撃破され、住処を追われた魔族たちは最終的にこの地に流れ着いたと噂になっている。
異世界からやって来た魔族たちが真っ先に根城にしたのが出て来てすぐの大陸であるというのは、ある意味当然のことというか、ここと言われたらここしかないと思えるほど自然なものだった。
「アスロン、守備はどうなっている?」
ミーシャは腕を組みながら偉そうに尋ねる。アスロンは一拍置いて話し始めた。
『うむ、現在カモフラージュ機能を用いて航行中。相手方に発見された形跡はないのぅ』
ミーシャはコクリと頷いてラルフを見た。ラルフは肩を竦める。
「多次元への扉を見つけ次第開けようと思うけど、ここで何らか被害を出して恨まれても厄介だ。黄泉に話を付けて攻撃されないようにしとかなきゃな。アスロンさん止めてくれ」
戦艦は速度を落とし、徐々に停止した。陸からほんの数キロの距離。カモフラージュ機能がなかったら今頃攻撃されているのだろうが、見つからなければ攻撃はおろか何も起こり得ない。
「黄泉は柔軟に見えて堅物だから気をつけないと攻撃されかねないよ?」
ミーシャの助言にラルフはニヤリと笑った。
「なら攻撃しないでくださいと態度で示すしかないよな?」
ミーシャはラルフの発言の真意を読めず、首を傾げて疑問を表現した。
*
第三魔王”黄泉”。彼はシャドーアイと呼ばれる種族であり、その名の通り、影をそのまま立たせたように黒く、目だけが主張するように光っている。その左目をヒクヒクとひくつかせながら前方に立つ存在を見ていた。
「よう黄泉さん。お久しぶりです」
ラルフはハットの鍔を摘んで挨拶する。ラルフの背後に立っていたミーシャたちも口々に言葉を発した。
「元気にしていたか?バラン」
「お久しぶりですね黄泉さん」
「第三魔王”黄泉”。私の代わりを務めてくれてぇ、ありがとうねぇ」
「妾ノ中ノ灰燼も久しぶりだと言っておル。む?顔色が優れんヨうだが何かあっタのか?」
黄泉はため息をつきながら腕を組んだ。
「何を当たり前のように……俺を殺しに来たのか?」
「いや、殺しに来たわけじゃない。ただちょっとお願いがあって来ただけだ」
「お願いだと?ふざけやがって。腐ってもヲルト大陸の支配者であるこの俺に向かってお願いとはいい度胸だな。全員は殺せんが、お前程度なら殺せるぞラルフ」
いきなりすぎたからか、黄泉も混乱して威嚇して来た。ここで攻撃行動に移れば死は免れないが、ラルフを道連れには出来ると踏んでの行動だ。ラルフという人質がいれば簡単には攻撃出来まいと高を括ったのもある。
甘い。
ラルフを睨め付ける目が一瞬腰に下げたダガーナイフに行った瞬間、目と鼻の先にミーシャが現れた。シャドーアイに瞬きの概念はない。目が乾くという概念がないからだ。瞼に相当する部分は存在するが、それは飽くまで眩しすぎる光を遮るために使われる。
目がちょっとぶれただけだ。全体を視界に入れつつ一瞬ダガーナイフに目が行っただけだ。動く素ぶりはなかったし、警戒していた。
だがミーシャはそんな警戒など何の意味もなさないと黄泉の実力を軽々と凌駕する。まるで映像の切り貼りのように突然そこに現れたようだった。
「私が今拳を握り、まっすぐ顔面に振り抜けばお前は死ぬ。お前程度なら殺せるぞバラン」
当然そうだろう。これほど効果的な脅しがあるだろうか。
「……お願いとやらを聞こう」
黄泉はミーシャから目を逸らし、踵を返して少し離れた椅子に腰掛けた。
ラルフは事細かに話そうかとも思ったが、説明が面倒なので簡単に説明することにした。
「実は俺たちはこのヲルト大陸に用があってな。詳細は省くが俺たちがやることに目を瞑っていて欲しいのさ。もちろんここに住む魔族たちに危害を加えるとかそんなんじゃないから安心して欲しい」
「信用出来んな。人間の戯言なんぞ……」
「じゃあ私たちが保証するよぉ?」
エレノアは満面の笑みで黄泉に返した。
「うるさい裏切り者が。ここにいる全員信用出来るわけがないだろう?」
エレノアは「あれま」と両手を上げておどける。そんなエレノアにイラっとしながらも続ける。
「だいたい何をするかも分からん奴らの奇行を見過ごせというのが気に食わん」
「なら説明しましょうか?」
イミーナは黄泉の理解に向けてこれからやろうとしていることへの説明を始めた。
「空飛ぶ船を使用してここの空域を通過、ここを通り過ぎた先にある次元の壁を見つけて出入り口を解放。この世界に侵入しようとしたありとあらゆる他次元生物を皆殺しにする。これが真実ですがいかがでしょう?」
イミーナの説明は要所要所をピックアップした簡単なものだったが、これは初めて聞くものには不親切極まりないものだ。
しかし黄泉はしばらく考え込んで返事を返した。
「……良いだろう。但し、こちらも用意することがある。一週間……いや、四日待て。そうすれば一切の文句なくお前らがやろうとしていることを放っておくが、どうだ?」
断る理由などない。ラルフはミーシャたちの顔を見渡し、一つコクリと頷いた。
「分かった四日待とう。こっちもいきなりだったし、そっちの事情も汲むぜ」
ラルフは感謝の意を込めてハットの鍔をちょんっと摘むと踵を返して次元の穴へと姿を晦ます。その穴から情けない声で「ミ~シャ~」と聞こえると、ミーシャは他の魔王たちを引き連れて次元の穴に帰っていった。
「……ふっ、情けない……」
自虐に走る黄泉の表情にはお手上げの文字が書かれていた。
知っているだけではどうにも出来ないものの、今ここにはラルフという”次元渡り”が居る。次元の壁を突破し、多次元へ旅立つ。
「やはりここか。そんな気はしてたんだよなぁ……」
ラルフは草臥れたハットを指で持ち上げながら目を細める。
世界の最果て「ヲルト大陸」。常時黒雲が大陸を覆い、暗闇の世界と化している魔族唯一の安全地帯。昨今、魔王たちが撃破され、住処を追われた魔族たちは最終的にこの地に流れ着いたと噂になっている。
異世界からやって来た魔族たちが真っ先に根城にしたのが出て来てすぐの大陸であるというのは、ある意味当然のことというか、ここと言われたらここしかないと思えるほど自然なものだった。
「アスロン、守備はどうなっている?」
ミーシャは腕を組みながら偉そうに尋ねる。アスロンは一拍置いて話し始めた。
『うむ、現在カモフラージュ機能を用いて航行中。相手方に発見された形跡はないのぅ』
ミーシャはコクリと頷いてラルフを見た。ラルフは肩を竦める。
「多次元への扉を見つけ次第開けようと思うけど、ここで何らか被害を出して恨まれても厄介だ。黄泉に話を付けて攻撃されないようにしとかなきゃな。アスロンさん止めてくれ」
戦艦は速度を落とし、徐々に停止した。陸からほんの数キロの距離。カモフラージュ機能がなかったら今頃攻撃されているのだろうが、見つからなければ攻撃はおろか何も起こり得ない。
「黄泉は柔軟に見えて堅物だから気をつけないと攻撃されかねないよ?」
ミーシャの助言にラルフはニヤリと笑った。
「なら攻撃しないでくださいと態度で示すしかないよな?」
ミーシャはラルフの発言の真意を読めず、首を傾げて疑問を表現した。
*
第三魔王”黄泉”。彼はシャドーアイと呼ばれる種族であり、その名の通り、影をそのまま立たせたように黒く、目だけが主張するように光っている。その左目をヒクヒクとひくつかせながら前方に立つ存在を見ていた。
「よう黄泉さん。お久しぶりです」
ラルフはハットの鍔を摘んで挨拶する。ラルフの背後に立っていたミーシャたちも口々に言葉を発した。
「元気にしていたか?バラン」
「お久しぶりですね黄泉さん」
「第三魔王”黄泉”。私の代わりを務めてくれてぇ、ありがとうねぇ」
「妾ノ中ノ灰燼も久しぶりだと言っておル。む?顔色が優れんヨうだが何かあっタのか?」
黄泉はため息をつきながら腕を組んだ。
「何を当たり前のように……俺を殺しに来たのか?」
「いや、殺しに来たわけじゃない。ただちょっとお願いがあって来ただけだ」
「お願いだと?ふざけやがって。腐ってもヲルト大陸の支配者であるこの俺に向かってお願いとはいい度胸だな。全員は殺せんが、お前程度なら殺せるぞラルフ」
いきなりすぎたからか、黄泉も混乱して威嚇して来た。ここで攻撃行動に移れば死は免れないが、ラルフを道連れには出来ると踏んでの行動だ。ラルフという人質がいれば簡単には攻撃出来まいと高を括ったのもある。
甘い。
ラルフを睨め付ける目が一瞬腰に下げたダガーナイフに行った瞬間、目と鼻の先にミーシャが現れた。シャドーアイに瞬きの概念はない。目が乾くという概念がないからだ。瞼に相当する部分は存在するが、それは飽くまで眩しすぎる光を遮るために使われる。
目がちょっとぶれただけだ。全体を視界に入れつつ一瞬ダガーナイフに目が行っただけだ。動く素ぶりはなかったし、警戒していた。
だがミーシャはそんな警戒など何の意味もなさないと黄泉の実力を軽々と凌駕する。まるで映像の切り貼りのように突然そこに現れたようだった。
「私が今拳を握り、まっすぐ顔面に振り抜けばお前は死ぬ。お前程度なら殺せるぞバラン」
当然そうだろう。これほど効果的な脅しがあるだろうか。
「……お願いとやらを聞こう」
黄泉はミーシャから目を逸らし、踵を返して少し離れた椅子に腰掛けた。
ラルフは事細かに話そうかとも思ったが、説明が面倒なので簡単に説明することにした。
「実は俺たちはこのヲルト大陸に用があってな。詳細は省くが俺たちがやることに目を瞑っていて欲しいのさ。もちろんここに住む魔族たちに危害を加えるとかそんなんじゃないから安心して欲しい」
「信用出来んな。人間の戯言なんぞ……」
「じゃあ私たちが保証するよぉ?」
エレノアは満面の笑みで黄泉に返した。
「うるさい裏切り者が。ここにいる全員信用出来るわけがないだろう?」
エレノアは「あれま」と両手を上げておどける。そんなエレノアにイラっとしながらも続ける。
「だいたい何をするかも分からん奴らの奇行を見過ごせというのが気に食わん」
「なら説明しましょうか?」
イミーナは黄泉の理解に向けてこれからやろうとしていることへの説明を始めた。
「空飛ぶ船を使用してここの空域を通過、ここを通り過ぎた先にある次元の壁を見つけて出入り口を解放。この世界に侵入しようとしたありとあらゆる他次元生物を皆殺しにする。これが真実ですがいかがでしょう?」
イミーナの説明は要所要所をピックアップした簡単なものだったが、これは初めて聞くものには不親切極まりないものだ。
しかし黄泉はしばらく考え込んで返事を返した。
「……良いだろう。但し、こちらも用意することがある。一週間……いや、四日待て。そうすれば一切の文句なくお前らがやろうとしていることを放っておくが、どうだ?」
断る理由などない。ラルフはミーシャたちの顔を見渡し、一つコクリと頷いた。
「分かった四日待とう。こっちもいきなりだったし、そっちの事情も汲むぜ」
ラルフは感謝の意を込めてハットの鍔をちょんっと摘むと踵を返して次元の穴へと姿を晦ます。その穴から情けない声で「ミ~シャ~」と聞こえると、ミーシャは他の魔王たちを引き連れて次元の穴に帰っていった。
「……ふっ、情けない……」
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