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第十五章 終焉
第三十四話 白絶を救え
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『こっちの方角じゃ』
アスロンに誘導されるままに空を飛ぶミーシャとイミーナ。ベルフィアやエレノアも居てくれたら心強かったかもしれない。でも戦力をこちらだけに割けば何かが起こった時に対処が出来なくなってしまう。ラルフが何らかの理由で消えた今、そんな愚を犯すことなど出来ない。
第十魔王”白絶”。彼女は自己中心的でマイペースであり、長いこと戦いの場に出てこなかった日和見主義の魔族だ。それでも力は相当なものがあり、ミーシャを追い詰めるほどの能力を持っている。白絶が危機的状況にあるなど、にわかには信じられない。
「ミーシャ様、白絶の救出は諦めれた方が宜しいのではないでしょうか?」
「ん?どうして?」
「こちらはこちらでラルフのこともありますし、魚人族如きのいざこざに割いている時間など無いと考えます」
「そのマーマンが戦っている相手がラルフと関係していないとは言えないじゃない?」
「……動いていないと不安なのは理解致しますが、無駄な労力では?第一、白絶が危機的状況にあるほど追い詰められているなら今更行っても……」
「イミーナ」
ミーシャは肩越しにイミーナを見る。
「私は白絶に借りがあるの。彼女が救助を要請するなら私は行く。例え遅くても行く必要があるのよ」
「……承知いたしました」
イミーナはそれ以上は何も言うまいと口を閉ざす。
『ミーシャさん!ここで止まってくれい!』
アスロンの制止に反応し、ミーシャとイミーナは急ブレーキを掛けた。雲の隙間から覗き込み、目を凝らして海面を観察すると、残骸と思わしき物がいくつか浮いている。無敵戦艦”カリブティス”の物ではないかと察する。
「……なるほど、確かにここのようだ。イミーナの予想通り既に後の祭りのようだが……」
ミーシャはいつもの支配者然とした空気で見下ろす。口調を変えたことにより、イミーナも緊張感が増した。
「……降りますか?」
「無論」
ミーシャは率先して降りていく。それに遅れないようにイミーナもついていった。海面に近付くにつれてマーマンの死骸もちらほらと見え始めた。戦争跡地のような悲愴感が漂っている。
「うーん……生きている者を探さないと何が何だか……」
残骸ばかりで要領を得ない。何かとてつもない力でバラバラにされたのかと思うくらいのもの。これは深海に住まう巨大生物の仕業なのだろうか。
いや、古代種のリヴァイアサンが海で最強の生物なのは間違いない。あれ以上となれば、白絶が警戒してそんな生物の縄張りに近付かないだろうし、マーマンだって入海禁止区域として指定していてもおかしくはない。
単純に知らなかったとなれば、数百年海で漂って何をしていたのか気になる。
「……もしや神の仕業では?」
「海に関係している神ってこと?喧嘩吹っ掛けられたから相手してみたら神でしたって?随分と間抜けな話ね」
「そうでしょうか?彼女は黒雲の全盛期に戦いを挑み、結果敗戦していますし、無謀な戦いでも煽られたらその喧嘩を買ってしまうと歴史が証明しています。自分の気持ちに正直と言うか、自己中心的と言うか……ともかく白絶はもう海の藻屑に……」
「そう結果を焦ることはないわ。アスロン、ここでもう一度通信を開きなさい。何か手掛かりがあるかも?」
『承知した』
ネックレスの宝石がひときわ輝く。魔力を振り絞って通信機の感度を高めているのだ。この残骸の中に通信設備があれば反応してくれるだろう。
『……ザ……ザザ……』
ノイズが入り始めた。ある。近くに件の通信機が。
イミーナも体ごと回して視界を広げる。わずかに光っていたり、迫り来る黒く巨大な影があったりしないかと目を皿のようにしている。ミーシャはそれほど分かりやすく見回していなかったが、神経を過敏に尖らせて危険を探っていた。
──ゾッ
悪寒がせり上がってくる。言い知れぬ不安感が心を支配し、黒い何かに包み込まれてしまうような恐怖を感じた。
ミーシャとイミーナはその発生源に迷わず視線を向けた。二人の真下から何かが迫ってくる。
「避けろ!!」
ミーシャの声に反応し、イミーナはさっとスライドするように横に避けた。
ゴバァッ
海面から勢いよく飛び出たのは巨大な触手。タコやイカを連想させる軟体動物のものだった。ミーシャは伸びる触手を器用に紙一重に避ける。イミーナは逆に大きく避けて海水さえ浴びないようにしている。
蠢く触手の猛攻を難なく避け、距離を開けて観察していると、本体が顔を出した。棘が何本も生えたモーニングスターのような丸い頭……いや、体に、ヤギのような横に長い瞳。口付近にある触手を総合するとタコの化け物。
これが戦艦カリブティスを締め壊したのだと察する。
「……ほう?何とも期待させてくれる登場だな」
タコの棘だらけの体に足を組んで座っている女性の姿があった。ミーシャは肺いっぱいに空気を吸い込み、その女性に向かって大声を出す。
「我が名は唯一王ミーシャ!こっちはイミーナだ!お前の名前を聞こう!!」
ミーシャの名乗り上げに驚いた様子の彼女だったが、ニコリと笑って返答した。
『これはご親切にどうもありがとうございます。私は闇の神イリヤと申します。以後お見知り置きを……ミーシャ様にイミーナ様』
アスロンに誘導されるままに空を飛ぶミーシャとイミーナ。ベルフィアやエレノアも居てくれたら心強かったかもしれない。でも戦力をこちらだけに割けば何かが起こった時に対処が出来なくなってしまう。ラルフが何らかの理由で消えた今、そんな愚を犯すことなど出来ない。
第十魔王”白絶”。彼女は自己中心的でマイペースであり、長いこと戦いの場に出てこなかった日和見主義の魔族だ。それでも力は相当なものがあり、ミーシャを追い詰めるほどの能力を持っている。白絶が危機的状況にあるなど、にわかには信じられない。
「ミーシャ様、白絶の救出は諦めれた方が宜しいのではないでしょうか?」
「ん?どうして?」
「こちらはこちらでラルフのこともありますし、魚人族如きのいざこざに割いている時間など無いと考えます」
「そのマーマンが戦っている相手がラルフと関係していないとは言えないじゃない?」
「……動いていないと不安なのは理解致しますが、無駄な労力では?第一、白絶が危機的状況にあるほど追い詰められているなら今更行っても……」
「イミーナ」
ミーシャは肩越しにイミーナを見る。
「私は白絶に借りがあるの。彼女が救助を要請するなら私は行く。例え遅くても行く必要があるのよ」
「……承知いたしました」
イミーナはそれ以上は何も言うまいと口を閉ざす。
『ミーシャさん!ここで止まってくれい!』
アスロンの制止に反応し、ミーシャとイミーナは急ブレーキを掛けた。雲の隙間から覗き込み、目を凝らして海面を観察すると、残骸と思わしき物がいくつか浮いている。無敵戦艦”カリブティス”の物ではないかと察する。
「……なるほど、確かにここのようだ。イミーナの予想通り既に後の祭りのようだが……」
ミーシャはいつもの支配者然とした空気で見下ろす。口調を変えたことにより、イミーナも緊張感が増した。
「……降りますか?」
「無論」
ミーシャは率先して降りていく。それに遅れないようにイミーナもついていった。海面に近付くにつれてマーマンの死骸もちらほらと見え始めた。戦争跡地のような悲愴感が漂っている。
「うーん……生きている者を探さないと何が何だか……」
残骸ばかりで要領を得ない。何かとてつもない力でバラバラにされたのかと思うくらいのもの。これは深海に住まう巨大生物の仕業なのだろうか。
いや、古代種のリヴァイアサンが海で最強の生物なのは間違いない。あれ以上となれば、白絶が警戒してそんな生物の縄張りに近付かないだろうし、マーマンだって入海禁止区域として指定していてもおかしくはない。
単純に知らなかったとなれば、数百年海で漂って何をしていたのか気になる。
「……もしや神の仕業では?」
「海に関係している神ってこと?喧嘩吹っ掛けられたから相手してみたら神でしたって?随分と間抜けな話ね」
「そうでしょうか?彼女は黒雲の全盛期に戦いを挑み、結果敗戦していますし、無謀な戦いでも煽られたらその喧嘩を買ってしまうと歴史が証明しています。自分の気持ちに正直と言うか、自己中心的と言うか……ともかく白絶はもう海の藻屑に……」
「そう結果を焦ることはないわ。アスロン、ここでもう一度通信を開きなさい。何か手掛かりがあるかも?」
『承知した』
ネックレスの宝石がひときわ輝く。魔力を振り絞って通信機の感度を高めているのだ。この残骸の中に通信設備があれば反応してくれるだろう。
『……ザ……ザザ……』
ノイズが入り始めた。ある。近くに件の通信機が。
イミーナも体ごと回して視界を広げる。わずかに光っていたり、迫り来る黒く巨大な影があったりしないかと目を皿のようにしている。ミーシャはそれほど分かりやすく見回していなかったが、神経を過敏に尖らせて危険を探っていた。
──ゾッ
悪寒がせり上がってくる。言い知れぬ不安感が心を支配し、黒い何かに包み込まれてしまうような恐怖を感じた。
ミーシャとイミーナはその発生源に迷わず視線を向けた。二人の真下から何かが迫ってくる。
「避けろ!!」
ミーシャの声に反応し、イミーナはさっとスライドするように横に避けた。
ゴバァッ
海面から勢いよく飛び出たのは巨大な触手。タコやイカを連想させる軟体動物のものだった。ミーシャは伸びる触手を器用に紙一重に避ける。イミーナは逆に大きく避けて海水さえ浴びないようにしている。
蠢く触手の猛攻を難なく避け、距離を開けて観察していると、本体が顔を出した。棘が何本も生えたモーニングスターのような丸い頭……いや、体に、ヤギのような横に長い瞳。口付近にある触手を総合するとタコの化け物。
これが戦艦カリブティスを締め壊したのだと察する。
「……ほう?何とも期待させてくれる登場だな」
タコの棘だらけの体に足を組んで座っている女性の姿があった。ミーシャは肺いっぱいに空気を吸い込み、その女性に向かって大声を出す。
「我が名は唯一王ミーシャ!こっちはイミーナだ!お前の名前を聞こう!!」
ミーシャの名乗り上げに驚いた様子の彼女だったが、ニコリと笑って返答した。
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