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第十五章 終焉

第二十三話 力の神

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「急げぇ!!ハンターの元に走れぇ!!」

 森王は国民を急かす。一難さってまた一難。神という名の厄災が降りかかって来る。
 神との対話を願い、天樹を授かり、人族の中で最も優位に立ったと自負する種族の傲慢極まりない言動、その全てが業となってエルフが不幸を呼び寄せているのだろうか。それとも単にラルフたちが災いの受け手となり、近くにいたエルフが巻き込まれているに過ぎないのだろうか。

 森から悠然と出てきたエレクトラは、その圧倒的な存在故か、歩く速度がスローモーションのように遅く感じる。
 エレクトラだけでは無い。ラルフたちも全てが遅く感じていた。瞬きすら遅く感じ、逃げ惑うエルフたちはまるで水中でもがいているように体が前に進まない。追いつかれたらどうなるのか、押し寄せる恐怖は人を幼児化させ、大の男ですら泣き喚く。今までどうやって普通に動けていたのかも分からなくなりかけたその時──。

「──ふんっ!!」

 ドンッ

 ミーシャが踏み鳴らした大地の爆音で急に音が正常に聞こえるようになった。けそうになっていた男性は地面の硬さを思い出し、走っていた女性は風の冷たさを思い出す。草木の香りが懐かしく感じられるほどに思い通りに動けなかった僅かな時間が長く感じられた。
 エレクトラを見ていただけのラルフたちはドッと滝のような汗を流す。一気に戻ってきた感覚が発汗を促し、身体機能がおかしくなったのではと思えるほどに汗を垂れ流した。

 全てが遅く感じたあの時間は、いわゆる走馬灯の類だ。死の瞬間過去の情景が巡って来ると言われているが、あれは昔に浸れるほど長い時間を脳が作り出していると考えられる。

 支配アトムユピテルとは違った意味での脅威。原始から生き物の支柱である”力”を司るエレクトラ。
 つまりエレクトラは強い。

「……白の騎士団の一人、ソフィーという一角人ホーンに力を与えていた神です。あの時は前に出て来ることは無かったのですが……」

「やっぱ全ての神の力が戻ったんだな……全ての?一体全体、何体いるんだ?」

 ラルフは混乱した。サトリ、アシュタロト、アルテミス、アトム、エレクトラにユピテル、ネレイドとミネルバも神だった。これだけでも8体いる上に(アが多いな……)という印象を抱いた。

『この世界を構成するそれぞれ必要なものを司っている。個神的には八百万いても良いくらいだけど、実際には両の手で数えられる程度。全然多くは無い』

 ラルフの独り言程度の問いに答えるエレクトラには余裕が感じられた。
 具体的には鼻で笑って小馬鹿にするような、鼻持ちならない嫌な奴という空気感。
 先日初めて相見えた敬虔な信者であるソフィーとくだんのエレクトラが会話している時にも感じられた、生き物を見下している雰囲気。傲慢を煮詰めて抽出したような存在である。

「……最高10体でも多いだろ?お前みたいな強い奴がそんなに居たら勝ち目なんてないじゃ無いか」

『神にお前とは不敬極まる……そして神に勝とうとするな。尊び、敬うことこそ人間が行うべきこと。それこそソフィーを見習いなさい』

 強めの口調で叱責される。

「うるさい奴だな」

 ミーシャの顔には面倒臭いが貼り付いていた。

「あれだけの殺気を振りまいてお喋りに来たなんて言わないでしょ?さぁ、とっとと始めよっか」

 ゴキゴキと指を鳴らして威嚇するミーシャ。エレノアやベルフィアの加勢を跳ね除けて前に出る。

『一人でやるつもり?無謀で無策。己が自負心を恥じるのね』

 エレクトラは構えない。逆にミーシャから来いと手招きしている。

「神は死にたがりが多いようだな。もっとも、今ここでその肉体が滅んでも、何度でも復活出来るそうじゃ無いか。余裕があるんじゃなくて同じリングに立ってないってのが正しいな。無謀で無策だって?鏡見て喋ってるでしょあんた?」

『……御託は良いと自分で言いだしたくせに……これが二重規範ダブルスタンダードという奴?』

 両者一歩も譲らない。
 やがて口数が減り、一触即発の空気が漂っている。

 バンッ

 我先にとミーシャが突っかけた。エレクトラは初めから動く気がなかったので、こちらが出ないと勝負にならない。

(よっぽどカウンターに自信があるようだけど、使えなきゃ意味がないんだよ?)

 誰にも捉えることの出来ない世界最速のミーシャの拳がエレノアの顔面目掛けて振るわれた。

 ベチンッ

 完璧に入った頬への攻撃。直後信じられないことが起こった。

「え?ちょっ……うわああああぁぁぁぁ……っ!!!」

 ミーシャの体は殴った速度と同じ速度で後方に吹き飛ぶ。ぐんぐん遠ざかって空の彼方へと消えていった。

『うふっ……思い知ったか?頭の弱い愚かな魔族。私は力を司る神。誰も私に勝つことなんて出来ない。あっ、もう聞こえてないか?』

 エレクトラのしたり顔は悪戯っ子のような憎たらしさを醸し出していた。
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