上 下
622 / 718
第十五章 終焉

第十九話 ステルス

しおりを挟む
 ザッザッザ……

 砂浜を踏みしめ肩を並べる五人。神の討伐を胸に、ユピテルの出現を待つ。
 動きはすぐにあった。急速に育った暗雲があっという間に晴れ、何事もなかったかのように静かな吹き抜ける空を晒け出す。同時に上空に光が収束し、人の形を形成する。

「……回復したか」

 姿を現したユピテルの姿は先の斬撃など無かったかのように五体揃っていた。

『ふふっ驚くことはない!私は神だ!こうして再構成すれば完璧に元通りになる!元よりそなたらに勝ち目はない!!』

 戦いに意味がないと思わされる。神を相手にすることが如何に間違っているのかを思い知らされた。ベルフィアは首を傾げて尋ねる。

「だから何じゃ?再生くらいなら妾にも出来ル」

 ベルフィアはおもむろに自分の腕を掴むと、肉を少量毟り取った。その奇行に誰もが驚くところだが、彼女の素性を知っている者たちにとってはどうでも良いこと。瞬時に何事もなかったかのように元通りになってしまうのだから。

『吸血鬼如きがこの私と張り合おうというのか?ふんっ、身の程を弁えるのだな』

 ユピテルも彼女の生態を知っているので驚きは無い。だが神を相手に不敬な態度を取るのは頂けない。ベルフィアにそこまでの脅威はないが、売られた喧嘩は買うのがユピテルの流儀。

「俺にも出来るぜ?」

 藤堂は自分を指差す。呪いの鎖によって死ねない体となっているので、どこを欠損してもすぐに元通り。この鎖については神々が藤堂に対する嫌がらせを込めて無理やり装着させているので、ユピテルが知らないわけがない。呼んでもないのに便乗してきた藤堂に対して無視を決め込んだ。

『五人わざわざズラリと、バカみたいに並んで……順番に殺されたいのか?……ノーン、パルス。そなたらは何をしている?我らの刺客であろう?何故寝返っているのだ?』

「だって元より旨味もない奴隷だったし~、残当ってとこじゃない?ねぇパルス」

 パルスはコクリと頷く。

『八大地獄の浅はかで愚かな連中よ。少しは気骨あるところを見せてみようとは思わんのか?呆れてものも言え……ぬぉっ!!』

 ブンッ

 ユピテルが喋っている最中にパルスの大剣”阿鼻”が迫っていた。鼻先を掠めそうな一撃にユピテルも思わず仰け反る。
 ”阿鼻”。地獄の名を冠する武器の中で最強の一角に数えられる。所有者の思いのままに動き回り、離れた位置からでも攻撃可能。この世の鉱物とは比較にならないほど硬いため破壊は不可能。その上、特異能力まで完備している。

「なかなか良い奇襲じゃ。妾も見習ワねばなルまい」

 ベルフィアもパルスに追従するように魔力の斬撃を飛ばす。

『間抜けがっ!!』

 ユピテルはピカッと光に包まれ、一瞬でその場から消える。光と同一の存在である彼に通常攻撃など無いも同じ。油断さえしていなければ、阿鼻に驚くこともなかった。
 そう、彼にとってはベルフィア、パルス、ノーン、藤堂など物の数ではない。ブレイドとエレノアが戦闘不能となった今、怖いのはゼアルのみ。

『そろそろ奴を処理する方向に纏めるべきか……』

 自分に言い聞かせるようにポツリと呟く。いつまでも脅威を放っておくほど間抜けではない。すぐさま背後を取ってゼアルを亡きものにすべきだ。同じ速度で動かれては優位性は保たれない。

「やれるものならな」

『!?』

 ゼアルはユピテルの行動パターンを読んでいた。囲まれた時に衝撃波で敵との距離を取り、追い詰められたらヤケクソの全体無差別攻撃。情熱的な言動とは裏腹に、臆病な部分を併せ持つ堅実な神。
 肝心な時に無難な方向に舵を切る典型的な安全志向。そのくせ理解力と判断力の遅さから二進にっち三進さっちもいかない状態になりやすく、パニックになりやすい。

 背後を取ろうとして逆に背後を取られたユピテル。ゼアルの剣が確実に首を狙って振るわれる。

『くっ……!!このぉっ!!』

 体を捻りつつ前方に飛ぶ。背中を少し切られたが、何ということはない。すぐさま体勢を整えてゼアルに向き直る。

『素直すぎる剣だなっ!それでは私は切れんぞっ!!』

 バッと両手をかざし、雷を撃つ準備に入った。だが撃つことは叶わない。

 ジャラ……

 鎖が羽根のようにユピテルの体にふわりと巻きつく。一瞬何が起こったのか分からず硬直していると、ギュッと一気に絞られ、鎖が肉に食い込んだ。

「よぉ、もうちょい離れるべきだったなぁ」

 ニヤニヤしながら藤堂が顔を横から覗かせる。

『藤堂……源之助……!?』

 すぐ背後に立たれていたのに気付かなかった。それもそのはず、藤堂の特異能力は”気配遮断ステルス”。神すら欺く異質な力。遠い昔、この能力のせいで色々面倒な目に遭った。

「おっ!ナイスおじさん。見窄みすぼらしいくせにやれば出来んだよね」

「ノーンお前さぁ……ったく、まぁ余計なもんが入ってっけど褒め言葉として受け取っとくぜ」

 鎖に縛られたユピテルは体を揺すってみたり、光になろうとしてみたりしているが、どうにも出来ないのかすぐに諦めたように元の状態に戻る。

「これは……呪いの効果か?」

「そうよ。この鎖は逃さないことを目的に作られてんのさ。俺の親友のオロチが言ってたから間違いねぇ」

『チッ……!あのクソ蛇余計なことを……っ!!』

「おいおい、今俺が親友って言ったじゃねーか。良くないなぁそういうのは……」

 藤堂の鎖に雁字搦がんじがらめとなったユピテル。ゼアルは碌に動く事も出来ないサンドバッグ状態のユピテルに止めを刺す。

 ──ザンッ

 ユピテルの首を軽く一刀のもとに泣き別れにした。背後で捕まえていた藤堂がニヤリと笑う。

「……踏み込みすぎだぜ?背後の俺まで切れてるから」

 藤堂の首が半分くらい切れていた。しかしさすが不死身。余裕たっぷりに肩を竦めた。

「ふぅー、勘弁してくれよ?俺ぁ痛いのは嫌い……」

 ──チュドッ

 まだ話途中だというのに、今度は大剣が落ちてきた。あまりの勢いに砂塵を挙げ、ようやく砂塵が晴れた頃には大剣が砂浜に埋まり、真っ二つになったユピテルの体と無傷の藤堂が立っていた。

「今のわざとだろ?パルス……」

「……トドメだ」

 パルスは藤堂に見向きもしないままポツリと言って退ける。色々言いたいことはあった藤堂だったが、ため息をついて諦めた様相を呈す。ゼアルも納刀し、戦いが収束したことを伝える。ベルフィアもこの決着に一言。

「ん~呆気ないノぅ」

 一つの油断が全てを別つ。
 ユピテル敗北。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最も死に近い悪女になりました(完)

江田真芽
ファンタジー
 10歳からの10年間、魔女に体を乗っ取られていたサマンサ・ベル・カートライト。彼女は20歳の誕生日に、稀代の魔女から体を解放された。 「もう死亡フラグしかないから、あんたに体返すわ。ちょっと可哀想だし、楽しませてくれたお礼ってことであんたにリセット魔法をかけてあげるわね。指を鳴らせば1日3回、朝からリセットできるわ。ついでに処女に戻しておいてあげる。いや〜皇女として遊べるなんて、最高の10年だったわ。ありがとね。じゃあバイバ〜イ」  カートライト帝国の皇女であるサマンサは、魔女の好き勝手な行いにより帝国中から【悪女】と呼ばれていた。  死亡フラグしかない彼女は、果たして生き残れるのか?!そして、魔女のせいで悪女となった彼女は幸せになれるのかーー?!  哀れな皇女様のお話、はじまりです☆ 11/7完結しました^^

処理中です...