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第十四章 驚天動地
第十一話 よもやまばなし
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ラルフの登場はイミーナの感情を平坦なものから著しく変化させた。
沸々と湧いていた苛立ちは途端に沸騰し、怒りにまみれ、心の奥底が朱く支配される。目が血走り、奥歯を噛み締めた音が大きく響き渡る。魔障壁が目の前になければ、イミーナは即座にラルフに飛びかかっていたことだろう。
様々な感情がイミーナの殺意を押し上げていったが、どうしようもない現状を思い出し、目を瞑って心を落ち着けた。
「……ミーシャの次はあなたですか。何の用でしょう?」
「いや、何っつーか。親睦を深めようかと思ってさ」
ラルフは次元に穴をあけると、そこから椅子を取り出す。長居する気満々のラルフの様子に、イミーナは嫌そうな表情を浮かべる。
「親睦?ふざけたことを……目障りなので今すぐに出ていってくださいますか?」
「まぁいいじゃん、お互い暇なんだし。それに案外共通点とか見つかって盛り上がるかもしんないよ?」
「……はぁ、面倒この上ないですね。こんな状態であなたと会話がしたい存在がいるなら是非とも会ってみたいですよ。そして何故それほど危篤な考えが出来るのかと一日中問い詰めたいです」
「結構いるんじゃないかな?物好きなのがさ」
皮肉も負の感情もラルフには通用しない。
嫌われ、疎まれ、時には殺されかけた。人間扱いされなかったことなど数知れず。地べたを這いずってきた歴史が違う。
イミーナは目を細める。物理的に危険な状態にでもならない限りは、こうして煽り続けるのだろう。会話をするまで……いや、会話になるまで目の前から退くことはないと断言出来る。いずれはミーシャや他の連中がこの部屋に集まり出す可能性もある。そんなことになったらいよいよ心が保たない。
「……ふっ、負けました。何が目的なのかは定かではありませんが、暇つぶしに会話の一つくらい許可いたしましょう」
「良いね。そんな立場で不遜な態度。それくらい元気なら遠慮の心配は無さそうだぜ」
イミーナはこの言葉にムッとする。折れてみればこの態度。ラルフとはどうあがいても仲良くはなれない。
「……それで?私に話があるのでしょう?早く仰ってください」
「焦んなって、知り合って間も無いんだ。まずはお互い自己紹介から……」
ガツンッ
ヒールで床が削れるかと思うほど踏みつける。傷がつかないのは魔法のお陰だ。
「……それもそうだな、些か戻り過ぎたようだ。じゃあ少しだけ進展させて……好きな色は?」
「話になりませんね。親睦を深めたいだの何だの言ってますが全て方便でしょう?本題に移る気がないなら、それこそ出ていってくれませんか?これなら無理やり昼寝でもしていた方がマシです」
心底嫌そうな顔。胸元で組んだ腕に指をトントンとリズミカルに打つ。ラルフが最初に顔を見せた時は頑張って気を抑えたというのに、今は憤りを全く隠そうともしない。
(仕上がってきたな……)
これ以上はおちょくれない。
「悪かった。本題に移ろう。ミーシャから話があっただろうが、お前を殺す気は無いとさ。裏切り者の攻撃で死にかけたってのに、当事者であるイミーナを殺さないのか?何でか考えてみた。すると一つの仮説に巡り合ったんだよ」
急に興味のある話を聞かされ、イミーナは耳を傾ける。
「お前に殺されかけたっていう記憶を丸々喪失しちまったためさ。俺の記憶で補填したせいか、空白の時間が生まれちゃったんだろう。本来お前に向けるべき敵意、殺意をどっかに置いてきちまったみたいでな」
「記憶の補填?」
「つーのも、蒼玉にミーシャの記憶を消されて俺史上最大のピンチを迎えてた時、白絶とのコンビネーションで何とかピンチを乗り越えたんだが……そこで白絶の魔法糸を駆使してミーシャに俺の記憶を植え付けた。大体一緒に行動しているから整合性は取れるだろうと踏んでのことだ。結果として功を奏し、今に至るわけだな」
ラルフは腕を組んで頷いている。
「そんなことが……つまりミーシャは裏切られたことは理解していますが、どこで死にかけ、どうやって裏切られたのかが分かっていない。怒りや憎しみの感情の向けどころなんてチャチなものではなく、そもそも覚えていないということですね?」
「あくまでも仮説だけどな」
消えてしまった記憶は戻らない。ミーシャが裏切られたというのに、ミーシャ自身がイマイチ乗り切れないのは記憶の欠如のせいだろう。ラルフは続ける。
「だからミーシャにとってのイミーナとは、一緒に国を運営してきた大切な家臣であって裏切り者では無いってこと。ところでイミーナ、これを踏まえて聞きたいことが三点ほどあるんだけど……良いかな?」
「何を今更。お互い暇なのだから何も心配することはないでしょう?」
「じゃ遠慮なく。イミーナ、俺と……俺たちと旅をするつもりはないか?」
それはチームへの勧誘だった。一瞬何を言われているのか分からなくなったイミーナは首を傾げて言い放つ。
「頭大丈夫ですか?」
「ああ……今日は一段とスッキリしてる」
沸々と湧いていた苛立ちは途端に沸騰し、怒りにまみれ、心の奥底が朱く支配される。目が血走り、奥歯を噛み締めた音が大きく響き渡る。魔障壁が目の前になければ、イミーナは即座にラルフに飛びかかっていたことだろう。
様々な感情がイミーナの殺意を押し上げていったが、どうしようもない現状を思い出し、目を瞑って心を落ち着けた。
「……ミーシャの次はあなたですか。何の用でしょう?」
「いや、何っつーか。親睦を深めようかと思ってさ」
ラルフは次元に穴をあけると、そこから椅子を取り出す。長居する気満々のラルフの様子に、イミーナは嫌そうな表情を浮かべる。
「親睦?ふざけたことを……目障りなので今すぐに出ていってくださいますか?」
「まぁいいじゃん、お互い暇なんだし。それに案外共通点とか見つかって盛り上がるかもしんないよ?」
「……はぁ、面倒この上ないですね。こんな状態であなたと会話がしたい存在がいるなら是非とも会ってみたいですよ。そして何故それほど危篤な考えが出来るのかと一日中問い詰めたいです」
「結構いるんじゃないかな?物好きなのがさ」
皮肉も負の感情もラルフには通用しない。
嫌われ、疎まれ、時には殺されかけた。人間扱いされなかったことなど数知れず。地べたを這いずってきた歴史が違う。
イミーナは目を細める。物理的に危険な状態にでもならない限りは、こうして煽り続けるのだろう。会話をするまで……いや、会話になるまで目の前から退くことはないと断言出来る。いずれはミーシャや他の連中がこの部屋に集まり出す可能性もある。そんなことになったらいよいよ心が保たない。
「……ふっ、負けました。何が目的なのかは定かではありませんが、暇つぶしに会話の一つくらい許可いたしましょう」
「良いね。そんな立場で不遜な態度。それくらい元気なら遠慮の心配は無さそうだぜ」
イミーナはこの言葉にムッとする。折れてみればこの態度。ラルフとはどうあがいても仲良くはなれない。
「……それで?私に話があるのでしょう?早く仰ってください」
「焦んなって、知り合って間も無いんだ。まずはお互い自己紹介から……」
ガツンッ
ヒールで床が削れるかと思うほど踏みつける。傷がつかないのは魔法のお陰だ。
「……それもそうだな、些か戻り過ぎたようだ。じゃあ少しだけ進展させて……好きな色は?」
「話になりませんね。親睦を深めたいだの何だの言ってますが全て方便でしょう?本題に移る気がないなら、それこそ出ていってくれませんか?これなら無理やり昼寝でもしていた方がマシです」
心底嫌そうな顔。胸元で組んだ腕に指をトントンとリズミカルに打つ。ラルフが最初に顔を見せた時は頑張って気を抑えたというのに、今は憤りを全く隠そうともしない。
(仕上がってきたな……)
これ以上はおちょくれない。
「悪かった。本題に移ろう。ミーシャから話があっただろうが、お前を殺す気は無いとさ。裏切り者の攻撃で死にかけたってのに、当事者であるイミーナを殺さないのか?何でか考えてみた。すると一つの仮説に巡り合ったんだよ」
急に興味のある話を聞かされ、イミーナは耳を傾ける。
「お前に殺されかけたっていう記憶を丸々喪失しちまったためさ。俺の記憶で補填したせいか、空白の時間が生まれちゃったんだろう。本来お前に向けるべき敵意、殺意をどっかに置いてきちまったみたいでな」
「記憶の補填?」
「つーのも、蒼玉にミーシャの記憶を消されて俺史上最大のピンチを迎えてた時、白絶とのコンビネーションで何とかピンチを乗り越えたんだが……そこで白絶の魔法糸を駆使してミーシャに俺の記憶を植え付けた。大体一緒に行動しているから整合性は取れるだろうと踏んでのことだ。結果として功を奏し、今に至るわけだな」
ラルフは腕を組んで頷いている。
「そんなことが……つまりミーシャは裏切られたことは理解していますが、どこで死にかけ、どうやって裏切られたのかが分かっていない。怒りや憎しみの感情の向けどころなんてチャチなものではなく、そもそも覚えていないということですね?」
「あくまでも仮説だけどな」
消えてしまった記憶は戻らない。ミーシャが裏切られたというのに、ミーシャ自身がイマイチ乗り切れないのは記憶の欠如のせいだろう。ラルフは続ける。
「だからミーシャにとってのイミーナとは、一緒に国を運営してきた大切な家臣であって裏切り者では無いってこと。ところでイミーナ、これを踏まえて聞きたいことが三点ほどあるんだけど……良いかな?」
「何を今更。お互い暇なのだから何も心配することはないでしょう?」
「じゃ遠慮なく。イミーナ、俺と……俺たちと旅をするつもりはないか?」
それはチームへの勧誘だった。一瞬何を言われているのか分からなくなったイミーナは首を傾げて言い放つ。
「頭大丈夫ですか?」
「ああ……今日は一段とスッキリしてる」
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